地獄の果てでは転生禁止!01
「――――お前が手にしているのは……こんにゃくか?」
「……は?」
腹の底まで振るわせるようなドスの聞いた低音が俺を射抜いた。いやはや意味の分からない文言ではあるのだが、持っていた。土下座させられるように頭を垂れていた俺の掌の中。ぐにゅぐにゅとした、あれ。
こんにゃく。こんにゃく……!?
「ああ――――気分が良い。言い渡そう。お前は――」
*****
此処の場所を教えよう。『地獄』だ。死んだ人間が送られると言われているあの場所。
暗くて、昏くて、血生臭い、禊の場所。そんな場所の端っこ。他の地獄に比べれば割と平和なところである。
「さあて仕事仕事……今日はどんなのが来るかねぇ……」
椅子に深く座り、いつものようにちょっと厳つい顔を作る。目の前には机と、真っ白な紙。コンコン、と控えめに扉が叩かれた。
「連れて来やした!」
「応、入れ」
なるべく偉そうに。偉そうにと心掛けるのだがなかなか難しい。柄じゃないのかな……だから試験も受からないんだろうなぁ。
扉から現われるのはまず、全身が黒く腹の出た餓鬼。一応“俺の部下”である。見た目こそ悪いが、これが結構有能。頼んだ仕事は九割完遂してくれるのだ。
しかし、残りの一割。触る物を燃やす悪い癖があるのが問題。背中に貼ったお札で抑えてはいるのだが、走り回って落としてくるらしい。割と高いからあんまり落とされると困る。非常に困る。主に俺が。
次。今日の仕事を行う相手とのご対面だ。
「こ、ここは……」
真っ白な死に装束を身に纏った、齢十代後半の、なよなよとした見た目の少年。餓鬼に連れられて歩くその目には恐怖……それから何故か希望の光。ここに来る連中はいつもそうだ。“何かを期待している”。
「まあ座るが良い」
極力低い声で。まだまだ他の奴に比べたら全然威圧感も無いただの声であるのだが、それでも練習あるのみだと思いながら常にこうしている。餓鬼が持って来たのは俺の座る椅子の何倍も貧相な、座れる台みたいな何か。形は椅子なんだけど。みすぼらしいって言葉が一番似合う。
「そら、今日の分だ」
「ありがとうございます!! では!」
引き出しに隠しているのは餓鬼に渡す駄賃。結局何をするにも金なのだ。どこでもね。投げ渡したそれを嬉々として受け取ると足早に立ち去る餓鬼。奴らも一週間分くらいは飯を食えるだろう。
「さあて。君、どこまで覚えているんだ?」
「どこまで、って言われても……」
そう。ここの場所を思い出して欲しい。
「そうだ……確か、買い物に出て……ぼーっとしてたら……あ! トラックに轢かれ――」
「知ってる。それと、君には先に事実だけを告げる」
ここは『地獄』の果て。その中でも平和で、特異な場所。
「残念だが、君のように働きもせず引き篭もっていただけの堕落した人間には転生させる余地も無いし、凄まじい力が与えられる事も無い。当然性別が変わる事もな」
じわじわと声量を上げていく。するとどうだろうか。毎回だ。毎回同じように、俺の目の前に座る少年たちは毎回豆鉄砲を喰らったかのような顔をする。希望が絶望へと変わる瞬間。
「そんな人間が世界を救うなど以っての外だ!! 恥を知れ!」
そうだ。これが俺の仕事だ。まともでない人間を叩き落す“鬼”。この俺、獄卒(見習い)刹鬼せつきの大事な大事な。
「因って! 貴様にはこれからこの地獄で労働を科す!」