サナトクリアへ
ついさっき名前をつけて、契約をしたリトは、私の肩に乗っている。
大きさは自由自在らしく、私に負担をかけないようにか、少し小さくなってくれた。
ナルも律の肩の上に座っている。
「うふふ、本当に仲良しになったわね」
「だって、かわいすぎるよー!大好き!」
『ユズカ、僕もユズカが大好きだ』
リトがほっぺに顔をすりすりしてくる。あぁ、かわいい。
……っと、リトのかわいさに頬を緩めている場合じゃなかった。
これから、サナトクリアに行くのだ。
注意とかも聞いておかないといけないだろう。
「さて、サナトクリアに関して、何か聞きたいことはある?」
「あ、さっき大陸は6つあるって言ってたけど、俺たちが最初に行くのはどの大陸なんだ?」
「あぁ、言ってなかったわね。サイトリー大陸よ。さっきも言ったけれど、魔物が大量発生している原因を探ってほしいの。昔から世界を支え、見守っている精霊樹なら、何か知らないかと思って話しかけてみても、最近応答がないから、何かあったのではないかと思うのよ。だから、精霊樹のところに直接いけば、何か分かるかもしれないわ」
「分かった!」
「なら、とりあえずは精霊樹を目指せばいいんだな?」
「えぇ、そういうことね。それと、アイテムボックスに2週間分の食料や水、お金や服や武器なんかの最低限のものは入れておいたわ。
後で確認してね。それと、自分のことも後で鑑定してみて。自分を鑑定するときは目を閉じて鑑定って念じるのよ。
――――さあ、これで準備は整ったかしら?」
「あぁ、いろいろありがとう。魔物の大量発生の原因、必ず見つけるから楽しみにしててくれ!」
「シェリ、本当にありがとう!いい報告ができるように、頑張るね!」
シェリに今後の行動の指針も聞いたし、いろいろと役に立ちそうなものももらって、準備万端だ。
サナトクリアは、どんなところだろう。わくわくする気持ちを抑えきれない。けれど、やっぱり少し不安もあるので、万が一にもはぐれたりしないように、律としっかり手を繋いでおく。
「律、楽しみだね!」
「……柚華、心配しなくても大丈夫だ。俺だっているんだから」
不安な気持ちは押し込めて笑顔で言ったんだけど、苦笑されてしまった。
どうやら律には私の不安なんてバレバレだったらしい。
さすが私の弟。だてに17年間も一緒にいる訳じゃないということだろう。
私の双子の弟は私よりもよほどしっかりしている。
同じ家で同じように育ったはずなのに、この違いは何なんだろう。
……姉としてどうなのかと思うけれど、律が頼りになりすぎるのが悪いと思う。
「じゃあ、ふたりとも。頑張ってね!」
その言葉と同時に、ここに来たときと同じ、円形の魔法陣らしきものが足元に現れる。
やがて光に包まれ、視界が白く染まる。
真っ白な視界の中で、かすかにシェリの声が聞こえた気がした。
―――――――――ふたりに祝福がありますように。
ーーーーーーーーーー
徐々に視界が戻っていく。
戻った視界には、さっきまでの幻想的な星空も、シェリの姿もなく、爽やかな風の吹く草原があった。
振り向くと、少しいったところが崖になっているので、ここはかなり高い場所なのだろう。
下の景色が見える位置に行き、下の様子を見てみる。
「下は森か……」
「あっ!律、あっちの方に小さく街が見えるよ!」
「お、その他にも点々と村みたいなのがいくつかあるな」
「本当だ~」
「柚華、ナルがあの街はミゼって名前だっていってるぞ」
「そうなんだ!ありがとう、ナル!」
とりあえず向かう方向はあの街でいいだろう。
精霊樹の情報は、入手できるだろうか。
リトによると、リトやナルは守護だけでなく、この世界の案内役も兼ねているそうだ。
ナルは火属性の精霊なので特にサイトリー大陸のことに詳しいらしい。
「あ、そうだ!シェリが、後でアイテムボックスを確認してねって言ってたよね?」
「あぁ、そうだった。服とか入れてくれたらしいし、着替えた方がいいだろ」
アイテムボックスを確認してみると、入っているものがリストのように一覧になって出てきた。
まぁなんというかたくさん入っていたので、これを確認しきるのは無理だと早々に諦め、必要なものだけ探そうと心に決める。
服は何着か入っていたので、リストの一番上にあるものを選ぶ。
そうしたら出てきたのは、クリーム色で長袖の丈夫そうなブラウスとベルト付きのオレンジのキュロット、黒いニーハイソックス、茶色に縁がクリーム色になっているブーツ、フード付きの赤茶色のマント、涙型の青い石のついたネックレスだった。
「わぁ、冒険者っぽい!」
「本当だな」
「あ、どこで着替えようか?」
『僕が影のドームを作るからそのなかで着替えればいいよ』
(ありがとうリト!)
「律、リトが隠してくれるって!」
「ありがとうリト。柚華先に着替えたら?」
「分かった!」
律が先を譲ってくれたので、先に着替える。
着方は向こうの服と変わらないので、すぐに着替え終わる。
ネックレスをつけて、マントを前でしっかり止め、着替え完了だ。
……でも、この綺麗な石は何なんだろう?中に模様が刻まれてて、なんだか妙に目を引く。
「律、終わったよー」
「じゃあ俺も着替えてくる」
「分かった!」
(………ねえリト、この石は何?)
『それは魔石だよ。中に防御の魔法陣が刻まれてるね。この大きさだと、弱めの攻撃を3、4回くらい防御出来るよ。防御する度に石にこもっている魔力が減っていくけれど、魔力をこめれば何回でも使えるんだ』
(そうなんだ~。不意打ちとかでも多少安心ってことだね)
『そういうことだね』
中の模様は防御の魔法陣だった。
リトと話している間に、律も着替え終わったらしい。
律の服は、薄い水色のシャツに、銀色のベルトのついた黒の強い灰色のズボン、黒のブーツにフード付きの濃い青色のマント、涙型の緑色の魔石のついたイヤリングだった。
律のイヤリングにも同じ模様が刻まれている。
「おぉー、律似合うね!」
「……ありがとう」
「あ、照れた!」
『照れてるね』
「照れてない!」
私の弟はたまにツンデレになる。
今も照れてないと言っているが、耳が少し赤くなっている。
それにちょっと笑いながら、さっきリトに教えてもらった魔石について律にも話しておいた。
「へぇ、便利だな。……あ、そうだ、これから何があるかわからないし、武器とかも装備しておこう」
「あ、そうだね。何を使おうか?」
「そういえば、シェリが自分のこと後で鑑定してみてって言ってたな。鑑定したら何か参考になるかもしれない」
「そうだね!」
シェリに言われた通り、自分を鑑定してみる。
すると、頭にステータスが浮かび上がってきた。
~~~~~~~~~~~~~~~~
水瀬柚華 17歳
・ステータス
体力 1000 【+1000】
魔力 2000 【+1000】
属性
得意属性:水属性
適性:全属性(現在は使えるのは水属性のみ)
・スキル
万能言語
《どんな言葉でも読み書きや会話可能》
アイテムボックス
《いつでもどこでも収納可能。収納量に制限なし》
鑑定
《人や物、魔物などの情報の読み取り可能》
祈り
《女神シェリと会話可能》
【闇の精霊リトの守護】
精霊リトが同行し、協力してくれる。
【女神シェリの祝福】
ステータスにそれぞれプラス1000する。
武器の扱いが上達するのがとても早くなる。
運が少し良くなる。
~~~~~~~~~~~~~~~~
【女神シェリの祝福】?
ってもしかして、最後に聞こえた気がしたあれ?
ステータス+1000ってどれくらいなんだろう?
律のことも鑑定してみよう。
~~~~~~~~~~~~~~~~
水瀬律 17歳
・ステータス
体力 1500 【+1000】
魔力 2000 【+1000】
属性
得意属性:風属性
適性:全属性(現在は使えるのは風属性のみ)
・スキル
万能言語
《どんな言葉でも読み書きや会話可能》
アイテムボックス
《いつでもどこでも収納可能。収納量に制限なし》
鑑定
《人や物、魔物などの情報の読み取り可能》
祈り
《女神シェリと会話可能》
【闇の精霊ナルの守護】
精霊ナルが同行し、協力してくれる。
【女神シェリの祝福】
ステータスにそれぞれプラス1000する。
武器の扱いが上達するのがとても早くなる。
運が少し良くなる。
~~~~~~~~~~~~~~~~
うん、律にも【女神シェリの祝福】があるね。
あ、律の方が私より体力が500高い。
まぁ、バスケ部の方が陸上部で短距離と高跳びの私よりもたくさん走ってるし、律が男の子だからかもしれないけど、なんだかちょっと悔しい。
まぁそんなことよりも、シェリのお陰で上達がはやいらしいし、武器は好きなのを選ぼう!
「律、何にする?」
「俺は剣かな。初心者だし」
「私も剣かなー。大剣だと使えるとは思うけど重そうだし。他も使えるようになりたいけどね!」
「決まりだな。少し練習して行こう」
私たちは、とりあえず素振りから始めることにした。
そうしたら、みるみるうちに剣を振るときの力の入れ方や動き方が分かってきて、1時間後にはそれなりの形になっていた。
「すごいな、これ……」
「上手くなっていくのが自分で分かるね……」
『それくらいできれば、この辺の魔物と戦ってもそうそう負けないと思うよ』
「律、このくらいできればこの辺の魔物ならそうそう負けないって」
「じゃあ、そろそろ練習切り上げて行くか」
武器を腰のベルトにつけて、出発の準備をする。
空を見上げると、太陽が高い位置に来ている。
地球で言うと、10時くらいだろうか。
ここから見える街―――ミゼまで、どのくらいかかるのだろう。
「柚華、ナルが、ここからミゼまで歩くと、だいたい3日くらいかかるって。でも、崖を直接降りたら近道になると思うから、崖を降りよう」
「え、どうやって?!すごい高いよ?!」
「こういうときのための魔法だろ?」
「あ、そっか!」
今回は、崖を下るので、律が風魔法を使ってくれるらしい。
ナルにちゃんと詠唱した方が効果が安定して長続きすると言われたので、詠唱をして魔法を使うといっている。
詠唱しているのを見るのは初めてなので、楽しみだ。
《大地に吹く風よ、我に集まりて大空に羽ばたく翼と化せ―――――――"風の翼"》
詠唱が完成して、風が吹く。
律に風が集まり、背中に真っ白な翼を作りだす。
私にも風が集まってきて、背中に暖かい魔力を感じて背中を見てみると、律と同じ真っ白な翼があった。
動かしてみようとすると、最初はぎこちなかったけれど、だんだんスムーズに動かすコツが分かってきた。
「柚華、どうだ?飛べそうか?」
「うん、動かすコツも分かってきたし、飛べるよ!律、すごいね!」
『もしうまくいかなくても、僕が助けるから安心して飛んで』
「分かった!リトが何かあったら助けてくれるって」
「良かった、それなら安心だな。じゃあ崖を降りよう!」
翼を羽ばたかせて空へ浮き上がる。
リトとナルはそれぞれ肩に乗っている。落ちないのだろうか。
不思議だなぁ、魔法でも使ってるのかな。
そして、崖を下っていく。翼をたたんでスピードを出すと、ジェットコースターみたいですごく楽しい。
ぴゅーんっと落ちていく私を見て、律が焦ったような声を出す。
「ちょっ、おい柚華!それはさすがに危ないから!」
「大丈夫だよ律!すっごい楽しいから!」
「危ないって!……あぁもう!」
心配する律に言葉を返しながら、下に着くまでの間ジェットコースターを楽しむ。
そうやって遊んでいると、降りるまでが一瞬に感じた。
少しすると、律も下に降りてくる。
「あーっ、楽しかった!」
「………柚華?」
「ひっ?!」
律がひじょーーに怖い笑顔で私を呼ぶ。
………律が怒っている。これはやばい。
律がこういう笑顔をするときはかなり怒っている時だ。
どうしよう。なんとか話をそらせないだろうか。
「あ、あの、律………」
「何?」
「あのぉー、えっと……ミ、ミゼってどんなところだろうね」
「柚華?それで誤魔化せると思ってるのか?」
「………う」
「俺、危ないって言ったよな?」
「……はい」
「怪我したらどうする?これから街までまだ結構かかるし、水の治癒魔法で治せないような怪我なら死んじゃうかもしれないんだぞ?」
「で、でも怪我はしなかったわけだし……」
「今回はそうでも次はどうなるか分からないだろ?
もっと慣れてからならまだしも、初めて空を飛ぶのに」
「……ごめんなさい」
「……はぁ、まぁ今回は何事もなかったから良いけど、本当に……。もっと慣れるまで今回みたいなことはやるなよ?」
「分かった。……ごめんね律~~~!」
「うわっ?!」
律は本当に心配してくれたからこそ、怒ったのだろう。
これは私が悪かった。
異世界に来て、冒険者みたいな服に着替えてちょっと浮かれていたみたいだ。
ごめんねとありがとうの気持ちを込めて、律にハグする。
突然だったけど、律はちゃんと受け止めてくれた。
私は、ちょっと恥ずかしそうに憮然としながらも、振りほどきはしない優しい弟が大好きだ。
シェリとのお別れです。
サナトクリアにやっと到着しました!
長かった……!
魔法も出てきました。
詠唱、地味に考えるの時間かかります。
そして、柚華と律の喧嘩……いや、律のお説教ですね。
能天気な姉を心配するあまりです。
次は、初遭遇です。