初依頼の選び方
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それでは本編、どうぞ↓
―――――翌朝。
私たちは朝食を済ませた後、すぐにお屋敷を出てギルドへ向かう道を歩いていた。
「律、今日は依頼を受けるんだよね!初依頼だよ!わくわくするー!」
「落ち着け、柚華。そんなにはしゃいでると依頼をこなす前に疲れる。あと、前向け。ぶつかるぞ」
「大丈夫だよ、私はいつだって元気がありあまってるんだから!」
後ろにいる律に振り向いて後ろ歩きをしながら笑顔で話しかける。律の言葉に返事をし、前を向いたと同時に『ごんっ!』と何か硬いものにぶつかった。
「痛っ!」
……ギルドの壁でした。いつの間にか到着していたようです。
勢いよくぶつかったせいでぶつけた額がじんじんするし、これは赤くなってるかも……。
それに何より……
「ほらな、言わんこっちゃない」
「うぐぅ……」
やっぱり!思った通りの律のど正論な言葉に反論などできるはずもなく唸っていると、背後から堪えきれずに噴き出したかのような笑い声が聞こえて振り返る。
「……あ、サミさん!ニケさんにカイさんも!」
「ふふ、やっぱりユズカね?」
「ユズカちゃん、3日ぶりだな!」
「よぉ、お嬢ちゃん。リツとソニアの旦那んとこの双子も一緒か。元気だったか?」
「柚華は元気がありあまってるらしいですよ。ギルドに着いたことに気づかずに夢中で喋って扉にぶつかるくらいには」
わざわざそんなこと強調しなくたっていいのに、と唇を尖らせて律に抗議の視線を向け、くつくつと笑いながら「何か文句でも?」と言われて視線を逸らす。
うぅっ、事実だから何も反論できない……!
私がからかうように顔を覗き込んでくる律から必死に目を逸らしている間に、リンとナナがサミさんたちに近づいた。
「サミさん、お久しぶりです。ユズカとリツとはソニア様が屋敷に連れていらっしゃった縁で出会いました。同じ双子で気がよく合いますし、僕たちはふたりの専属になったので一緒に行動しているんですよ」
「おう、久しぶりだな!ソニアの旦那は結局そのまま面倒見ることにしたってわけだ。……ここにいるっつーことはお前らも冒険者になったのか?」
「はい!今から初依頼をどうするか選ぶところなんです!」
「ナナ、ストップ。これ以上ギルドの入口で話すと邪魔だからね。サミさんたちも、とりあえず中に入りましょう」
ここで喋っていては邪魔になると気づいたリンがナナの背中を押しながらギルドの中へ入っていき、サミさんたちも続けて入る。攻防を続けていた私と律も追いかけるようにギルドへ入ってすぐ、サミさんたちが「先に依頼のブースへ行っといてくれ。受付に依頼の完了を報告してくる」と言って受付へ向かっていった。
「Fランクの依頼はここで、Eランクの依頼がここらしいな」
サミさんたちに言われた通り、先に依頼のブースへやって来た私たちは、適当に依頼を見ていく。
けれど正直、どんな依頼を受ければ良いのかさっぱり分からない。
「結構たくさんあるね。失い物とか探し物とか、自分で探そうよ……と思うのは僕だけかな?」
「私もだよリン……」
私とリンがそんな会話をしていると、報告が終わったのかサミさんたちがこちらへ歩いてきたので、聞いてみることにした。
「サミさん、私たちはどの依頼を受けたら良いと思いますか?依頼を受けるのは初めてなのでよく分からなくて……」
何があるかな~と依頼を眺めながらサミさんにそう聞く。
私たちは旅の予行練習もしたいし、受けるとしたら薬草採集とかゴブリン退治とかの町の外に出る依頼かな?
「そうだな……。お嬢ちゃんたちはまだFランクだったよな?でも、お嬢ちゃんとリツは前に見た限りだと既にDランクでもおかしくはないくらいしっかり戦えていたし、ソニアの旦那んとこの双子も確かそれなりに戦えるはずだ。それなら、Eランクの討伐系の依頼を受けた方が良いと思うぞ」
サミさんはF・Eランクの依頼が並んでいる前まで行き、実際の依頼を指差しながら教えてくれた。
ほうほうと相づちを打っていると、依頼から私たちの方に目を向け、微笑んだニケさんが唇にひとさし指を当ててウインクした。
「私もユズカちゃんたちに先輩としてアドバイスをあげるわ。同時に薬草採集の依頼を受けて、討伐する魔物を探しがてら採集っていうのが効率が良い依頼の受け方なのよ。でもまぁ、これは余裕があるときで良いわ。採集に夢中になって警戒が疎かになっちゃったらまずいから」
ニケさんも依頼を受けるときのちょっとした豆知識を教えてくれたので、その通りにしてみようかな?
んーでも討伐系はまぁいいとして、薬草採集かぁ……。
薬草は私には全く見分けがつかないし、正直自信ないなぁ……なんて考えていると、隣にいた律が私にしか聞こえないくらいの小さな声で話しかけてきた。
「俺と柚華は『鑑定』があるから薬草採集なら簡単そうだけど、『鑑定』は持っているのが珍しいのかどうか分からないから、使う時はさりげなくな」
……あぁっ!『鑑定』があるの忘れてた!
そっか、『鑑定』があれば薬草なんてすぐに見分けられるよね!
うわぁ~うっかりしてたよ……律が言ってくれて良かった~。
と、内心安堵しながら律に向かって『了解』の意を込めて頷くと、律は満足げにリンと話しているサミさんの方へ向き直った。
「リン、サミさんとニケさんのアドバイスを取り入れて、討伐と採集の依頼を受けよう」
「そうだね。討伐は何の討伐にしようか……」
リンが顎に手を当てて依頼を見ていく。
今ここにある討伐依頼は、ゴブリン、スライム、コボルトの3種類で、Eランク。ゴブリンもスライムもコボルトも、弱いけれど数が多いので常時貼り出されている依頼らしい。
「リツとユズカちゃんはゴブリンは倒したことあるだろ?なら、違う魔物を討伐して色んな魔物の討伐の経験を積むのも良し、逆に経験のあるゴブリンを討伐して堅実にいくのも良し。正直、どっちでも良いと思うぞ!」
そうカイさんに言われたので、余計に悩む。
んーけど、どうせなら違う魔物の経験も積みたいよね!
そう思って言ってみると、3人とも「良いんじゃない?」と賛同してくれた。
「それならスライムかコボルトだよね!サミさん、どっちが良いと思いますか?あ、ちなみに私とリンは魔物を倒したことはありません!」
「だったらスライムだな。コボルトは基本的に群れで襲ってくるから、Eランクの討伐依頼だがどちらかと言えばDランクに近い。実力的には大丈夫かもしれんが、初依頼だしまだ魔物との戦いに慣れてないだろうからな」
サミさんのアドバイスを聞いて、私たちは初依頼をスライム討伐に決め、受付に行って依頼を受注する。あ、ちなみに薬草採集の方はリンが知ってる薬草の依頼を適当に選んで受けました。
これで初依頼に出掛けられるね!
「どっちの依頼も1週間以内に完了すれば良いみたい。スライムの核となっている魔石と薬草を一定量以上集めるんだ。魔物の討伐証明部位は魔物によって違うけど、スライム系の魔物は全部核の魔石らしいよ」
魔石かぁ……魔法の練習の時に魔術具を起動させるのに使ったやつだよね?リンの説明によると、魔物には絶対に核となる魔石があるらしい。
大きさや質や属性はバラバラらしいけど。
途中で律まで加わって説明してくれたけど、何で律が知ってるの??
「じゃあ魔石を回収して、スライムのぷるぷるの部分もできれば回収して、薬草は見つけたら採集すれば良い?」
「うん、そうだね。まぁ僕たちはアイテムボックスがあるから、よっぽど回収できないなんてことはないと思う。何か見つけたら回収、って感じで良いと思うよ」
なぜ律がギルドのことを詳しく知ってるのかと首を捻りながらリンに色々確認し、その後で律に聞いてみたら、律はギルドの規則や説明が載っているマニュアルブックを受付嬢からもらって読んでいたらしい。
……いつのまに?!
私が驚いていると、サミさんが思い出したように「……そういえば」と言った。
「「どうしたんですかサミさん?」」
私と律が見事なまでのシンクロぶりでサミさんに問いかける。
それに少し驚いたのか、「お、おぉ……」と少し言葉に詰まってから、咳払いをしてサミさんは改めて口を開いた。
「お前らのパーティーリーダーは誰なんだ?まとめ役は明確にしておいた方がいいぞ、いざってときにリーダーがいなくて全員バラバラな動きをしたら命が危ねぇ」
「……気にしていませんでしたね」
「なら、早めに決めてギルドに報告しとけよ」
パーティーリーダーかぁ。確かに考えていなかった。私は律かリンがやれば良いんじゃないかな~と思う。
私かナナのどちらかがやるのはちょっと不安しか残らないしね……あ、なんかちょっと悲しくなってきた。
なんて、思っていたのに。
「……パーティーリーダーか。柚華がやれば良いんじゃないか?」
えぇぇぇぇぇ?!
私?!そりゃ地球では学級委員や応援団長、チアガールのリーダー、生徒会、陸上部の部長……とまぁ色々やってたけど、そんなの律だって色々やってたよね?!
だったら律の方が絶対に向いてるのに!
「柚華は人当たりが良くて元気でいつでもどこでもムードメーカーになれるからな。皆が辛いときに明るい雰囲気を作れるっていうのはリーダーに必要な素質だと思うぞ」
うっ、褒められても何も出ないんだからね!律大好き!
……はっ、違った!いや、違わないけど!
これ以上律と目を合わせていると何も考えずに了承しちゃいそうなので視線を逸らす。
逸らした視線の先に面白そうな顔をしたリンと瞳を輝かせたナナがふたりで並んでいた。
「うん、そうだね。いざってときの指示出しは臨機応変にやれば良いし、ユズカだってできると思うし。大丈夫だよ、手助けするから」
「私だって手助けするよ!ユズカに手を出す輩は私が成敗するから大丈夫!」
リンまで後押ししてるし、ナナは……うん、嬉しいんだけど成敗って……。ナナって侍女なのに意外と脳筋……?もうちょっと話し合いで解決しようとする姿勢くらいあっても良いんじゃないかな。過程をすっ飛ばしていきなり成敗って……じゃない、違う、そんなこと今はどうでも良くて!あ~頭が混乱してきた~!
「皆の心をひとつにするとか、奮い立たせるとか、人の心を掴むとかは俺よりも柚華の方が得意だろ?柚華は例えるならカリスマ性のある王だ。俺は王っていうよりも王をフォローする宰相だな」
「あ、なんか分かるかも!ユズカのことは不思議と信じたくなる感じがあるし、リツは頭の回転が速くて頼りになるし!」
王って……確かに「やるぞーっ!おーっ!」みたいな音頭をとって皆で団結するのは好きだけど、私が王っぽいかと言われると正直微妙だと思います。
あーでも、律が宰相なのは分かる気がする。
私の中の宰相イメージって、頭が切れて冷静で奔放な王様のお目付け役で、たまにぶちギレて笑顔のままブリザードを撒き散らす感じだからね~。
……考えれば考えるほど律にぴったりかも……。
「まぁ、何があっても柚華の隣には俺がいるし、リトもナルもナナもリンもいるし、何も心配する必要はない。今まで通り頭を使う事は俺に任せれば大丈夫だ。柚華……ダメか?」
「うっ……り、律、遊んでるでしょ?!……あ~もう!いいよ、分かった!私がリーダーやる!」
そう言いきった私に、律が満足そうに頷き、リンが嬉しそうに微笑み、ナナは「わーい!」と満面の笑みで抱きついてきた。
その光景を見ながら、ニケさんとカイさんはにこにこと笑っている。そして、それを少し離れた位置で見守っていたサミさんがボソッと「お嬢ちゃん……完全にリツの掌で転がされてんな」と呟いたのだった。
「……あれ、私たちって2つにパーティー分けてたよね?なら、それぞれのパーティーにリーダーが必要なんじゃ……」
私がその疑問に気がついた時にはもう律とリンはギルドの受付へ報告しに行っていた。帰ってきた律に「私だけをリーダーにする必要なかったでしょ!」と文句を言うと、「結局一緒に行動するんだから名目上のリーダーはふたりでも、実際は1人で良いだろ?」としれっと返され、頬を膨らませる。
律の言葉が正しすぎて何も言い返せないの、この短時間で既に3回目だよっ!むぅっ!
コロコロ~コロコロ~といとも簡単に転がされる柚華。
「律以外には転がされないんだから!」というのが本人の主張ですが、どうでしょうねぇ……。
そして、久しぶりのサミさん御一行。
柚華に対する「お嬢ちゃん」という呼び掛けが非常にお気に入りです。
初依頼まで辿り着きませんでした……申し訳ない。
依頼を選ぶだけになぜこんなに時間がかかるのか!……私のせいですね、はい。
次こそは初依頼に入りたいと思います!




