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体調不良や予定が重なって大分遅くなりました!
待っていてくださった方々、ごめんなさい。
そして、ありがとうございます。
それでは、どうぞ↓
帰ろうと扉に向かおうとしたところで、ギルドマスターさんが何かを思い出したといった風に話しかけてきた。
「そうだ、ギルドカードができたから、渡しておくぞ。ギルドカードに魔力を流して、登録しろ。カードはランクが上がったらその都度更新するぞ。再発行するのは面倒だからなくすなよ!」
「はい!大事に持っておきます!」
そう言ったギルドマスターさんから銀色のカードを渡され、言われた通りに魔力を流すと、カードが光った。
登録が完了したらしい。
カードの表にはパーティー名と私の名前が書いてあり、右上に『F』と書かれている。
おぉー、これが私の身分証になるんだね。
まじまじとひっくり返したりしながら見つめていると、ギルドマスターさんが声をかけてきたので、カードをアイテムボックスにしまう。
「お前ら、ランクの制度は知ってるか?」
「F~Sランクまであることくらいしか知らないですね」
「そうか、なら今教えておく。ランクは誰でもFから始まる。どんなに強い奴でも弱い奴でも、そこに例外はない。そして、多くはより上のランクを目指して頑張るんだ」
へぇ、公平にってことかな?
例外がないっていうのは、結構すごいよね?
貴族とかお金持ちとか、権力を持ってそうな人達からの圧力にも屈しないだけの組織としての力があるってことだもんね。
他の大陸にあるところとも繋がってるみたいだし、ギルドってすごいなぁ。
けど、多くはって何でだろう?
全員が上のランクになるために頑張るんじゃないのかな?
「そうでない人もいるんですか?」
「良い質問だ、ユズカ。嘆かわしいことだが、楽なところでランク上げを止めて程々で満足する奴もいる。まぁ、ランクを上げすぎると実力が伴わずに命が危険になることもあるから、一概にそれが悪いとは言わんがな。お前たちも自分の実力を見極めて冷静な判断をするんだぞ。実力がつくまでランクを上げるのを待つのもひとつの手だ」
「そうなんですか……。はい、分かりました!」
「まぁ、そんなことにならんようにギルドも工夫はしている。例えば……」
以降のギルドマスターさんの長い話を簡単にまとめると、
・ランクアップにはランクごとに異なる条件がある。
・その条件をクリアしたらランクアップ試験を受ける権利が与えられる。
・試験によってランクを上げるべきかどうかをギルドが判断する。
・試験はパーティーごとではなく個人で臨む。
・パーティーを組む場合、パーティーランクはそのパーティーで一番ランクが低い者に合わせられる。
・依頼もランク分けされていて、自分のランクとその前後のランクの依頼は受けることができる。
・ただし、自分のランクより上のランクの依頼を受注する場合は依頼遂行の難易度やその依頼の内容と受注する冒険者との相性などをギルドが見極め、受注の可否を判断する。
・依頼によってはいくつかのパーティーで合同パーティーを組むこともある。
……ということらしい。
……うん、いつものことながら、分かりやすくまとめてくれてありがとう律!
「……と、それくらいだな。まぁそれでも依頼遂行中に死んじまう奴は後を絶たん。引き際は見誤るなよ。分かったか?」
「はい、分かりました」
当たり前だけど、冒険者は死がかなり身近な職業だ。
一瞬の判断の差が明暗を分ける、なんてこともきっと多いはず。
私たちは旅をするんだから、冒険者として経験を積んで判断力や実力を磨いておかないと。
何かがあってもはねのけられるような力をつけないとね!
「俺たちがEランクへ上がる条件はどんなものなんですか?」
「FからEへの条件は、FもしくはEランクの依頼を10以上こなしていることだ。その上で試験を受け、その結果次第で上がるかどうかを決める。まぁFランクの依頼は基本街の中の依頼だし、外に出るとしても薬草を摘むくらいだから割と簡単だぞ。街中の依頼の中でもFより少し面倒なものがEランクの依頼になる。そこに討伐も含まれるが、ゴブリンやコボルトくらいだ。……スライムもEランクだが、あれは見分けが厄介でなぁ……」
「見分けですか?」
「あぁ……あれには種類があってな、スライム、ウーズ、ジェリー、プディング。この4種類なんだが、見た目は全く変わらねぇのに強さは全く違うんだよ。スライムが一番弱くて、ウーズ、ジェリー、プディングの順に強くなっていく。スライムだから楽に倒せると思ってると痛い目に遭うことがあるから気を付けろ。ま、この辺にいるのはスライムばっかだけどな!」
「へぇ……気を付けます!」
「あぁ。じゃ、片付けはやっとくから、今度こそもう帰って良いぞ。お疲れ!」
「ありがとうございました!」
へー、スライムに種類なんてあるんだね。
それじゃ、スライムを見つけたらとりあえず鑑定してみればいいのかな。
見た目が同じでも、鑑定ならさすがに区別がつくよね?
鑑定の文に『スライム、ウーズ、ジェリー、プディング:見分けはつかない』とか書いてあったらもう遠い目で笑うしかないよね。
……さすがにそれはありませんように!
なんて結構切実なことを願いながら私は扉を開けた。
「んーっ、疲れたぁー!」
魔法を練習していた部屋から出たところで伸びをする。
ずーっと部屋の中にこもって練習に集中してたから、外の空気がすごく気持ちいい。
3の鐘……朝の9時くらいにギルドへ来て、4の鐘はもうとっくに鳴っているみたいだから、1時は過ぎてるかも。
結構長いことギルドにいたみたいだね。
「リツ、ユズカ。お昼ご飯はどうする?今日はお弁当を作ってもらわなかったし、どこか食べに行く?それとも帰って作ってもらおうか。僕はどっちでも良いよ」
「んー……話すことも色々あるし、帰って作ってもらおうよ!できあがるまで話してればすぐだと思う!」
「そうだね、ユズカ!外で話すより屋敷で話す方が落ち着いて話せるし!」
「なら、帰るか」
4人で喋りながら屋敷へ帰る道を歩いていく。
やっと屋敷へ着いた頃にはお昼をかなり過ぎていて、すごくお腹が空いていた。
今は2時くらいかなぁ?
いつも通り完璧なタイミングで開く扉の傍らに立つラックさんに出迎えられて屋敷に入る。
「おかえりなさいませ」
「ただいま戻りました、ラックさん」
「皆様、昼食が必要なようですね。リン、ナナ、恐らく5の鐘が鳴るより前には準備が整います。私がお部屋まで呼びに行きますので、それまでお部屋で休みながら待っていて下さいね。全員お疲れのご様子ですから、紅茶をご用意いたしましょう」
……何も言っていないのに何でお昼ご飯を食べてないことが分かったんだろう?
私は驚いて律と顔を見合わせてしまったけど、リンとナナはそれが当然とでもいうような顔で平然としている。
うーん、やっぱり慣れってかなり大きいね。
……あ、完璧なのは執事さんだからだった。
「分かりました。それなら部屋に戻って待っていますね。紅茶の用意は俺の方の部屋に全員分お願いします」
「かしこまりました」
ラックさんとはその場で別れ、一旦自分の部屋に戻って服を着替える。
すぐに昼食だからと思って髪を適当にポニーテールで結んだら、ナナの侍女根性がうずいたらしく、きれいに直された。
自分でやったら直しても直してもどこかがくしゃっとなるのに、ナナが結ぶとどうしてこんなにきれいなんだろうね?
「律、リン、お待たせ!」
「ユズカ、ナナ。さっきラックさんが紅茶の用意をしてくれたよ。多分すぐに昼食ができると思う」
ナナとおしゃべりしながら律の部屋へ向かうと、もう既に紅茶の用意が整っていた。
準備早いなぁ……私とナナが遅いのかな?
なんて思いながら椅子に座り、紅茶を飲む。
「はぁ、おいしい!紅茶って癒し効果があるのかなー」
「ふぅ……疲れがとれるような気がするな。さて、とりあえず何から話すか……。教会でのことからで良いか?」
「あぁ、もちろん。リツとユズカは女神様と会話したんだろう?」
「うん。でも、私は挨拶しただけだよ。シェリから律にまとめて話してもらった方が良いと思って。律、シェリはなんて言ってたの?」
「そうだな、簡単にまとめると……」
・シェリは律との連絡が途切れた時からずっとこの世界を観測できていない。
・シェリとの連絡がとれるのはシェリの力が強く働く場所のみ。教会であればまず間違いはない。
・いきなり律との連絡が途切れたのは何者かの干渉によるものである可能性が高い。
・それをした犯人が何者なのかは不明、手段も不明。
・律と連絡を取り始めてすぐだったため、連絡していたことを犯人に感知された可能性がある。
・もしかすると、タイミング的に今回魔物が異常に増えていることとも何か関係があるかもしれない。
「……とまぁ、こんな感じだな。問題が山積みだ」
「うーん……じゃあ、私たちに敵がいるかもしれないってこと?」
「敵……かどうかはまだ微妙だけど、可能性は高いだろうな。俺たちの存在や居場所が察知されてなければいいけど、少なくとも存在は把握されていると考えておこう。容姿とか名前までは特定されてないと思いたい」
「相手の正体は不明なんだから、確かにそこまで把握されていたら危険だね。何が目的なのかも分からないし、どんな力を持っているのかも分からない。……正直かなり厄介だ」
敵がいるかもしれないという事実に、部屋の空気が重くなった。
そうだよね、この旅においての明確な敵なんて魔物くらいで、調査だけの旅のはずだったのに、少なくともシェリをこの世界から隔離したいと考える者がいることは明確になった。
そうじゃなきゃ女神が世界を観測できなくなるわけがない。
けど、私はいつまでも重たい気持ちでいるのは性に合わないし、前向きに頑張りたいと思う。
「……怖いけど、相手のことが全く分からない以上、今相手について悩んでも仕方ないんじゃないかな。悩むよりもそんな相手にもしも襲われたりなんかした時のために、もっともっと冒険者として経験を積んで強くなっておかなくちゃ!ね、律!」
「あぁ、そうだな。柚華の言う通りだ。……最初の予定より危ない旅になりそうだけど、それでもリンとナナはついてきてくれるのか?正直……」
『やめた方が良いと思う』と、直接言葉にはしなくても、律の目は雄弁にそれを語っている。
……うーん、律がリンとナナを心配する気持ちも分かる。
私も心配でたまらないし、私たちの危険な旅に巻き込んでしまうのは嫌だと思う。
そうは思うんだけど、律の言葉の続きを察したリンとナナがむっとしたような表情になっていて。
ふたりのその表情がそっくりすぎて、思わず笑ってしまいそうになるのを必死に堪える。
「リツ、ユズカも!私たちはついていくんだからね!」
「僕もだ、リツ、ユズカ。ソニア様にもお話を通したんだから、今更ついていかないなんて言えないし言うわけがないよ」
「……だって、律!嬉しいね!」
「……ありがとうリン、ナナ。これからもよろしく」
まぁ、答えはふたりの表情を見れば聞かなくてもわかってたけど、やっぱりこうして言葉にしてもらえると嬉しい。
えへへ、と和んでいると、みんなが教会でプレートルのおじいさんを警戒していたことを思い出した。
「ねぇねぇ、みんな教会でおじいさんのこと警戒してたよね?どうして?」
「あぁ、リツとユズカが教えられた祈り方がいつものやり方と違ったんだ。女神様と深い関わりのあるふたりにだけピンポイントで違う祈り方を教えていたから、何故だろうと思って警戒したんだよ」
「まぁでも、多分シェリが事前に神託みたいなことをしておいたんじゃないかと思うぞ。祈り方が違うことに気づいたのがリンたちの祈りを見たときで、俺は祈り終わった後だったからシェリに直接聞いたわけじゃないけどな」
「あ、だから大丈夫って言ったんだね!」
なるほど。
確かに大丈夫だとは思うけど、それだとあのおじいさんは私たちとシェリの関係を知ってるってことか。
……これ以上情報が広がらないといいけど。
シェリと対立するのが組織だとしたらシェリと深い繋がりを持つ教会にはそれなりの情報網を持っているはず。
私たちのことが向こうにばれるの、時間の問題かも……?
うーーん、でも私たちはまだ何もしてないし、犯人側に敵認定されないように祈ろう。
「……あ、そうだ!私昨日からずっと話そうと思ってて忘れてたことがあるの!」
「……話そうと思ってたのに忘れてたの?ユズカ」
「あはは……そ、それはいいとして、リンとナナに話したかったことなんだ!あのね、魔法を使うときのコツの話なんだけど、魔法を使うのに1番大事なのは『イメージ』なんだよ!」
「イメージ?」
昨日から話そうと思っていた魔法のコツの話を今思い出したので、良い機会だと思って話すことにした。
基礎知識として先にこの世界の魔法について話しておこうかな。
「そう!この世界では、魔法は基本的に魔法書に書いてあるものだったり口伝で伝わるものだったりするでしょう?だから、自分で魔法を考えることはあんまりなくて、元々ある魔法を『型通りに使う』ことが今のこの世界での魔法の使い方になっちゃってるんだって」
「えっ?そういうものじゃないの?」
「本来は、自分で自由にイメージすることで魔法を使うんだよ。詠唱をすれば頭になんとなくのイメージが浮かぶから、意識してイメージしなくても一応魔法は使えるらしいけど……その魔法は明確にイメージして使う魔法と比べて、魔力の消費量が同じでも威力が低くなっちゃうの」
リンとナナはぽかんとしたような顔をしている。
今のこの世界では本当に『イメージすること』の大切さが忘れられているらしい。
そうだとしたら、やっぱりこの事を知っていたら、大きなアドバンテージになるはずだよね。
「魔力量とか適性の強さによって使える魔法の威力や効果の限界は決まるけど、明確な『イメージ』をすれば魔力の消費効率が良くなるし、その限界までの範囲の中でかなり自由自在に魔法が使えるの。だから、魔法を使う上で大事なのは『イメージする力』なんだよ!」
「へぇー、初めて聞いた!だからユズカとリツは魔法を手足のように操れてたんだね!」
「……それを知ってるか知らないかでかなり差が出そうだね。イメージすることを意識して魔法を使う練習をしてみるよ。それが自然に出来るようになれば、ふたりの隣に並べるかな?」
そう言って冗談混じりに笑いながら肩を竦めるリン。
私たちはリンとナナ以外の人と組むつもりはないし、リンとナナは本当にすごいのに。
ふたりと私たちの間に距離が開いているみたいで、なんだか悲しくなってくる。
「リンとナナは私と律に出来ないことがたくさん出来るでしょ?私は考えることが苦手で律に助けてもらってるし、リンやナナは暗器が扱えたり給仕が完璧だったりするでしょ?得意なことは一人一人違うんだから隣に並べないなんて事あるわけないよ!」
「……ふふ、そうだね、ユズカ。自信をもっていないとふたりに置いて行かれそうだ。ふたりの隣に立つのが当然な顔をしておかないとね」
「私たち以外がふたりの隣に立つなんて嫌だし、私たちの隣に立つのがふたり以外なのも嫌だよ!だから、絶対に置いて行っちゃダメだからね!」
嬉しそうに笑って軽くウインクをするリンは、さっきよりも自信ありげに見える。
わざわざ立ち上がってビシッとこちらを指差して宣言するナナの腕にリトが跳び移り、肩まで登っていってぺろっと頬を舐めたのを見て、思わず笑ってしまった。
ちなみにリンの膝の上にはナルが気持ちよさげに丸まっている。
リトもナルも本当にふたりに懐いたねぇ。
なんて思っていたら、コンコンと部屋の扉を叩く音がした。
「昼食の準備が整いました。食堂へお越しください」
「はーい!分かりました、ラックさん!」
呼びに来てくれたラックさんに返事をして、私たちは4人とも立ち上がる。
食堂に向かい、用意してもらった昼食を食べ終わると、食後のティータイムに焼き菓子が出てきた。
ラックさんが「シェフからです」と言っていたので、約束していたお菓子を作ってくれたんだと思う。
昨日の今日でもう作ってくれたことに感動して、食べ終わってすぐに厨房まで行って衝動のままにお礼をしたら、律に「ちょっと落ち着け」と怒られた。
リンとナナは私たちがお菓子を食べている間にささっとお昼ご飯を食べたらしく、すぐに合流してそのまま部屋に戻る。
「あー、美味しかったね!リンとナナも食べ終わったんだよね?この後何か予定ある?」
「予定はないかな!何もすることがないからお仕事しようかと思ってるの!」
「そっか!リンは?」
「僕も特に予定はないよ。ナナと同じようなことを考えていたくらいだから」
うーん、それなら今からちょっと剣の練習でもしようかな。
今日は結局武器の練習はできなかったし、お昼ご飯とティータイムで十分休めたし、少しでもやっておいた方がいいよね!
「じゃあ、食後の運動に一緒に剣の練習しない?」
「あ、そうだな。今日の分をやっておいた方が良いし、リンとナナの戦い方も事前に見ておきたい。俺たちの戦い方も見せておかないとな」
「一緒に行動するなら、確かにお互いの戦い方を知っておいた方がいいね。それじゃあ、着替えて稽古場に行こう」
そうリンが言ったとき、ちょうど部屋についたのでそのまま別れて着替えをし、稽古場に向かうことにした。
ふたりの武器は暗器だったよね?
どんな感じで戦うんだろう、楽しみだなぁ~。
さて、やっと出てきた不穏な影。
今はまだ明確な『敵』ではありませんが、今後どうなっていくことやら。
リンは律と柚華の実力を見て、頑張らないと周りから見てふたりの隣に立つのに実力不足だと言われないか少し不安になっていました。
でも、ふたりの言葉を聞いて自信を取り戻しました。
自然にさらっとウインクできるリンは律と同じくらいたらしだと思います。
次は、お稽古です。