魔法の訓練 前編
遅くなりました!
やっと書き上がったのでさっそく投稿しました。
では、どうぞ↓
「待ってたぞリツ、ユズカ、リン、ナナ。まぁ座れ」
「分かりました」
進められるままに、目の前にある椅子に座る。
あー、満面の笑みだけどギルドマスターさんの目が据わってるぅぅぅ!
もー、律が無駄に驚かせるから!
「それで、待っていたとはどういうことですか?」
「ふ、とぼけるつもりかリツ……?」
「律ー?」
律!これ以上ふざけるのはダメ!
と、律を軽く睨む。
すると、肩を竦めた律が遊ぶのをやめた。
元々たいしてふざけるつもりなどなく、ギルドマスターさんが良い反応をするのでちょっと遊んだだけだろう。
「ふむ、リツはユズカに弱いのだな」
「…………さぁ」
……そうかな?そんなこと思ったことなかったけど。
でも、ちょっと嫌そうな顔をしながらも否定はしなかった律を見て、私は顔が緩むのを押さえられない。
小声で「良いことを知ったな……これは使えるか」とか言ってるけど、聞こえてますからね、ギルドマスターさん。
私は基本的には律の味方ですからね!
ついでに律に対して激弱です!
「まぁいい。それで、精霊というのはリツとユズカの肩の上に乗っている狐と黒猫か?」
「そうです!証明した方が良いですか?」
「いや、いい。元々普通のペットとは思えなかったからな。気をつけて見てみりゃ精霊以外じゃありえない程の力の強さだ。俺が1度で見抜けなかったなんて、さすがは精霊だな!」
ギルドマスターさんはすごいね。
リトとナルが普通じゃないことに自分で気づいた人なんて今までいなかったのに、あっさり見抜いてたみたい。
そういえば、リトとナルが一瞬でも体を緊張させたのもギルドマスターさんだけだね。
「私の肩に乗っているのがリト。闇属性の精霊です!律の肩に乗っているのがナルで、火属性の精霊ですね!」
(よろしくね)
「……今2匹とも鳴いたが、よろしく、とでも言ってるのか?」
「はい!よろしくねって言いましたよ」
「ナルもです。本当は精霊の存在は隠した方が良いかと思いましたけど、隠さない方が良いとナルたちに言われたので公表することにしました」
「そうだな。隠すとなると大変だし、気を使うから疲れるだろう。まぁ公表したらしたで大変そうだが、いつかバレるとしたら同じことだ」
リトとナルは私たちが危ないと思えばすぐにでも力を使って助けてくれる。
それなら、隠すだけ無駄だし、公表することに抵抗はない。
「なら、それは公表して良いんだな。あの紙に書いたってことはそういうことだろうと思ったが、一応聞いておきたかったんだ。それ以外のお前たちに関する情報はもう手配してある。耳の早いやつなら既に知ってるだろう」
「色々とお世話してくださってありがとうございます!」
「ありがとうございます」
律がギルドマスターさんにリトとナルの話を昨日のうちに言っておいてくれたお陰で、精霊であるということに驚かれず、スムーズに話が進む。
きっと律はそれを狙って昨日伝えたんだろう。
それはすごく助かる、けど!
わざわざ遊ぶ必要はなかったよね、律?
そんな思いを乗せて律にじとっとした視線を向ける。
すると、その視線に気が付いたのか律がニヤリと笑う。
昨日の帰りにギルドマスターさんの叫び声を聞いたときも顔が笑ってたし、完全に楽しんでたよね、これ。
「どうした?」
「いえ、なんでもないですよ。それより、訓練は何から始めるんですか?」
ギルドマスターさんの問いを律がさらっと流したけど、ナナとリンは私たちの視線のやり取りを察してるみたい。
笑いを堪えたような顔をしている。
まぁそれより、ギルドマスターさんの言う通りなら、あと1日、もしくは2日すれば情報は完全に行き渡るかな。
情報に疎い人ならもっとかかるかもしれないけど、それでも1週間もかからないんじゃないかと思う。
私たちに向けられる視線は増えるかもしれないけど、まぁなんとかなるよね!
「あぁ、まずは魔法の訓練だ。魔法はイメージが大事だからな。体を動かす前の方が集中出来るだろう。それじゃ、訓練場に行くか!」
「はい!よろしくお願いします、ギルドマスターさん!」
3の会議室から出て、1階にある訓練場へと向かう。
どうやらギルドの入り口から見て左奥の、どこに繋がっているのかな?と思っていた場所が訓練場のようだ。
中に入ると、すごく広々とした空間が広がっている。
ここで訓練するのはとても気持ちが良いだろうなと思って見回しながら前を歩くギルドマスターさんについていく。
10から20人くらいの人が訓練している訓練場をすたすた横切っていくので、どこまで行くのかと思っていると、奥に並んでいる扉のひとつに入った。
「着いたぞ。武術訓練はあっちの訓練場でやるが、魔法はこの部屋でやる。この部屋の壁には結界が張られているから、多少失敗して魔法をぶつけたところで問題ない。……まぁお前らみたいな魔力の持ち主なら壊れるかもしれんが」
「そうなんですか……、頑張りますね!」
「……壊すなよ?」
律がフッと笑いながらギルドマスターさんを見る。
それを見て、ギルドマスターさんの顔がひくっと強張った。
「本当に手加減しろよ?!冗談じゃないぞ?!」と何回も念を押しながら準備をするギルドマスターさん。
むぅ、少なくとも水属性は大丈夫なのに……他の属性は分からないけど。
「大丈夫です、失敗しないように頑張りますから」
「リンの言う通りです!頑張るので問題ないですよ!」
「私とリンはともかく、ユズカとリツは加減しないとギルドが吹き飛びそうだよね!」
「ナナ?!いくらなんでもそんなわけないでしょ?」
「そんなことするのは柚華だけだ」
「律、ひどい!」
うぅ、ナナに裏切られた気分だ。
……細心の注意を払って万が一にも失敗しないように頑張らなくちゃ!
私がそんな決意をしているうちに、準備は終わったようだ。
部屋の中に置かれた四角いテーブルの上にいろいろ入った木箱が置かれ、部屋の奥に的らしきものが4つ、等間隔に並べて置かれている。
あれに当てる練習でもするのかな?
「じゃ、まずはあの的に向かって魔力を放ってみろ。それができるやつは先に進む。できないやつは魔力の扱い方から始めるぞ」
「はい!分かりました!」
4人それぞれ的の前に立って、魔力を的に向かって打ち出す。
私は両手の掌に魔力を集め、まっすぐ飛んでいくイメージで魔力を放った。
律は右手を銃のような形にして指先に魔力を集めて放っていた。
あ、そっちの方がスピード出そうかも?
私と律は的に命中したけど、リンとナナは魔力を放ったことがないのか、掌に集まっただけで消えてしまった。
「ふむ……ユズカとリツは完璧だな。リンとナナも集めるまでは出来てるから、すぐに放てるようになるだろう。やっぱりお前らは優秀だな」
初めてなら、魔力を一ヶ所に集めることも出来ない人の方が多いらしい。
魔力はこの世界の人なら生まれたときから持っているものなので、存在を把握出来るようになるまでに苦労するそうだ。
把握できても動かすのにも苦労し、体から外に出すのにまた苦労する……と、魔法を使えるようになるまでに結構時間がかかるのだという。
そんなに大変なら、ギルドで訓練してくれるのも納得かも。
属性や魔力を持ってても、冒険者としての実戦に使えなきゃ意味がないもんね。
「じゃ、ユズカとリツは先に進むぞ。今度は得意属性の初級魔法を発動させてみろ。発動の仕方は分かるか?」
「はい、得意属性は問題ないです」
「そうか。ならこの初級の魔法書を見て、自分の得意属性の1番最初のページに載ってる魔法を使え。俺はリンとナナを見てるから、それができたら俺を呼べ。俺が見て合格なら次に進むからな」
「分かりました!律、見よう!」
「あぁ、多分得意属性の後は他の属性も同じことをするだろうから、火属性の初級魔法から順番に見ていこう」
魔法書を捲り、火属性の最初のページを開く。
そこには、『発火』の魔法が載っていた。
発火か……確かに火魔法を使う上で基本中の基本の魔法だよね。
これができなきゃ大半の火魔法は使えないから、初級魔法の最初にはぴったりかもしれない。
水魔法の最初のページには、『呼水』が載っていた。
魔力を使って水を創るってことみたいだし、水魔法には必須だね。
『呼水』という文字を見て一瞬ポンプなんて無いけど、と思った私は悪くないと思う。
風魔法のページには『送風』がある。
そんなに強くない、優しめの風を吹かせるみたいだ。
……うーん、この感じだと他の属性も土とか光、闇を魔力から生成するのが最初のページの初級魔法かな?
そう思いながら見ていくと、やっぱりその通りだった。
「律、得意属性はさっさと終わらせちゃおっか。これくらいならすぐにできるよ。他の属性の練習に時間を使いたいし、ギルドマスターさんに見てもらおう!」
「あぁ、そうしよう。……ギルドマスター!できました!」
「おぅ、分かった!ちょっと待っててくれ!」
リンとナナの練習を手伝っていたギルドマスターさんが、一区切りつけてこちらにやって来る。
ふたりの様子を少し見ていると、勢いが足りないけれど魔力が体からふよふよと離れるようになっていた。
おぉっ、あと少しだよ、頑張れ!
「できたって言ってたな、リツ。ユズカもか?」
「はい!得意属性はもうできました!」
「そうか。じゃあリツから順番に見せてくれ」
「はい」
律が右手を胸の高さまでもってきて、ギルドマスターさんによく見えるようにした状態で掌の上に風を起こす。
風は見えないので、見えるように風に色をつけたみたいだ。
淡く緑色に光りながら掌の上を風が踊っている。
「……よし、風を起こすだけじゃなく色をつけるなんてことまで出来るなら全く問題ないな。リツは合格だ!」
「ありがとうございます」
「じゃ、次はユズカだな!」
「はいっ!」
私もさっきの律を参考にして、上の方に手をもってくる。
その状態で掌の上に水を生成した。
水は色をつけなくても見えるので、色はつけていない。
けれど、そのかわりに水の形を球から蝶に変えてぱたぱたと飛ばせてみたり、鳥の形にしてみたりと工夫してみたら、ちょっと呆れたような顔でギルドマスターさんに見られた。
「ユズカも全く問題ないな。むしろ使いこなしすぎだろう。……つーかお前ら、詠唱してねぇな?」
「あー、まぁ……でも、得意属性だけですよ!私も律も他の属性はまだ発動させたこともないですし」
「その得意属性がとんでもないっつー話だが……まぁいいか。俺が教えられる部分が残ってるみたいでほっとしたぞ。次に進むが、他の属性は発動の仕方を教えた方が良さそうだな」
「お願いします!」
疲れたように溜息をついたけど、まぁいいか、と即座に気持ちを切り替えられるギルドマスターさんはさすがだね。
属性は魔法書の順番通り火属性から教えてくれるらしい。
ギルドマスターさんが丸い器に入ったろうそくを取り出した。
そして、何かを擦り合わせてろうそくに火をつけ、テーブルに置く。
あれはマッチかな?
「最初は自分で火を作り出すのは難しいからな。既に点いている火を操って火魔法の感覚をつかめ!それができたら発火の練習だ。イメージはさっき俺がろうそくに点火したのを参考にすると分かりやすいだろう。もちろんもっとやりやすいイメージがあればそっちでもいいぞ!」
「はい!」
「ろうそくの火に魔力を少しずつ送り込んで、火を自分のものにするんだ。これは火に限った話じゃないが、操るときは火に魔力を繋げた状態でやるんだぞ。そうしないと操れないからな。最初は出来なくても、少しずつ感覚が掴めてくる。頑張れよ!」
「分かりました!出来るようになったら報告しますね!」
あぁ、と返事をして、ギルドマスターさんはリンとナナの方へ向かう。
私もリンとナナの方を見てみると、飛んでいく魔力にだんだんと勢いがついているのが分かる。
……あれだけ出来るようになればもうそろそろ次に進めるんじゃないかな?
と思っていたら「よし、ふたりとも合格だ!よくやった!」というギルドマスターさんの声が聞こえてきた。
リンとナナも頑張ってるみたいだ。
私も頑張らないとね!
「律、先にやっていいよ!」
「分かった。失敗すると危ないから、柚華は少し離れてろよ」
「うん!」
私が律から少し離れた斜め前に立つと、律はろうそくの前に立ち、意識を火に集中させる。
人差し指を火に向けて、感覚を探るように少しずつ少しずつ魔力を送り込んでいく。
注意して見ていたら律の魔力を感じ取れた。
この訓練も役に立つだろうから、普通の訓練と並行してやっていこう。
……戦いの中で無詠唱の魔法の発動を感知できたら、かなり便利だと思うんだよね。
魔物は詠唱なんてしないだろうし。
律はある程度魔力を火に送ったところでもう十分だと思ったのか、途切れさせないままに送り込むのをやめて人差し指を動かし始めた。
最初こそ火は揺らめくだけであまり動いてはいなかったけど、少しずつ大きくなったり小さくなったりと動き始めた。
そこまでで律は一旦魔力を打ち切り、ろうそくを私の方へ持ってくる。
「そこそこ感覚は掴めたと思う。まだまだ自由自在とは言えないけどな。柚華、交代しよう。俺は発火の練習をしてみる」
「律、もう感覚掴んだの?!早いよ!」
律は苦笑し、「まだ掴みきれてないから」と言っているけど、律は器用だからすぐに出来るようになってしまうだろう。
私も頑張らなきゃ、と気合いをいれて、ろうそくと向き合う。
魔力をどぱっと送って爆発でもしたら大変なので、ちょっとずつちょっとずつ送っていく。
そうしたら、ある程度まで送ったところで『繋がった』感じがあった。
言葉にするのは難しいけど、火が自分のものになったというか、干渉できる状態になった感じ。
……おぉー、なんかちょっと感動!
(このまま動かせばいいんだよね、リト)
『そうだね。動かすのにも魔力を使うから、途切れさせないように気を付けるんだよ。慎重にやるのが癖になれば、そのうち無意識に出来るようになるから』
リトの言葉に頷き、火に繋がる魔力をゆっくり動かしていく。
最初は全くと言っていいほど動かなくて焦ってしまったけど、やっているうちに揺らめかせる程度は出来るようになり、ほっとした。
そのまま根気強く頑張っていると、火を大きくしたり小さくしたりすることに成功した。
……できたぁ!
律よりも少し時間がかかってしまったけど、なんとか動かせるようになってきた。
あ、今度は火を浮かせてからろうそくに戻すことはできないかな?
イメージは人魂でやってみよう。
(……他に良いイメージなかったの自分!)
そう思うけど、それが1番分かりやすいと頭が認識してしまったらしく、もう変えられる気がしない。
仕方なく浮かせるようにイメージして魔力を送り込んでいくと、なんとろうそくから離れた瞬間に火の色が変わった。
(あぁっ、人魂イメージのせいで火が青くなった!)
『ふむ、綺麗だね』
すごく呑気な感想をリトが言う。
私は見た目は平静を装っているけど、内心はどうしようどうしようと混乱していた。
戻そうと頑張ってみるものの、戻らない。
大体私は理科はあんまり得意じゃなかったのだ。
どうやったら火が青くなるのか、そして元の色に戻るのか、授業でやったような記憶がうっすらとあるけど、詳細は何一つ覚えていない。
理科の先生が実験室で、化学変化によって赤や緑や黄色などに変色する火を見せてくれたのは覚えてるけど。
あれにはびっくりしたなぁ。
(って、あぁーーー!)
『ふむ、火がこんな色になるのは初めて見たね。綺麗だ』
またも呑気な反応をするリトをちょっと恨めしく思いつつ、考えていた通りに赤、緑、黄色に変色した火を見て私はパニックである。
しかも、イメージしたのは化学変化した瞬間のボワッと燃え上がる火だったので、イメージ通りに火が強くなってしまった。
元に戻さなきゃと焦っていると、呆れた顔で律がこちらに来て、手に魔力を纏って私からろうそくの火に繋がっている魔力を切った。
そうしたらろうそくの火は元に戻って、すごく安心した。
同時に、止めてくれた律に感謝の気持ちが溢れる。
「律、ありがとうーーっ!」
「何してるんだよ、あんなカラフルな炎なんて日常生活で見ないだろ?化学の実験でも想像したのか?」
律にさっきの状況を説明したら、すごく呆れた目で見られた。
魔法はイメージが大事なのは知ってるはずなのに、何でそんなことになるんだと頭を抱えている。
……思考をコントロールするのってけっこう難しいよね?
簡単にできちゃう律が変だと思う。
そういうことにしておこう、うん。
何かを諦めたような雰囲気の律に火が青くなるのは何でなのか教えてもらおうとしたけど、「教えても実戦で使えないだろうし、余計混乱しそうだ」と教えてくれなかった。
むぅ、とむくれつつも、否定できないので反論はしない。
「律、さっき私の魔力を切ったよね?」
「あぁ、ナルが教えてくれたんだ。細い魔力の繋がりならより多い魔力を纏って遮断すれば切れるって」
「そうなんだ……それも覚えておかないとね!」
「それより、発火の練習してみれば?マッチとかチャッカマンとか、そういうのを参考にして、魔力を燃やすイメージでやったら結構簡単に出来たぞ」
「うん、やってみる!」
律に教わった通りのイメージで火を発現させようとする私は、隣にいる律が「あらかじめイメージを固定しておけば暴走しないだろう」なんて考えていることには全く気づかずに頑張るのだった。
……というか、最初の『細心の注意を払って失敗しないように頑張る』っていう決意はどこへ行っちゃったんだろうね、あはは……。
魔法を使ってる最中に余計なことを考える柚華。
そのせいでやらかしかけた柚華を止めるストッパー律。
炎の変色は他の人に見られていません。
律、ファインプレーです。
本当はこの1話で武術訓練まで終わってる予定でした。
それなのになぜまだ魔法の訓練すら半分も進んでいないのか……。
先は長そうです。
次は魔法の訓練 後編です。
……後編で終わりますように。