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異世界冒険は姉弟で!  作者: fuluri
第2章 サイトリー大陸
11/23

適性検査

ギルド職員さんは「失礼」と言った後、テーブルの上に箱を置いて、改めてこちらに向き直り、挨拶した。



「初めまして、僕はギルド職員のシュト。適性検査をするのはここにいる4人で良いかな?」

「はい、それで良いです!」

「分かった。じゃあまず、魔力量を調べようか」



私たちも自分の名前を手短に言って自己紹介する。

シュトさんは箱の中からメーターとビー玉より少し大きめの石がついた板を取り出した。

あれで魔力量を測るらしい。



「ひとりずつ、この石に触れてね。そうするとメーターが反応するから。ツァオベリーの素養がある人の平均が大体300前後。そこから努力次第で伸びるけど、個人差があるんだ。一般人は大体100以下だから、もし100以下ならばツァオベリーとなるのは無理と思った方が良い」

「分かりました!」

「リン、ナナ、先にどうぞ!」



私と律はもう知ってるからね。

それにしても、ツァオベリーの人の平均が300か。

そこから考えると、私たちって相当に異常かも。

だって10倍だよ?

まぁ、多いのは悪いことじゃない、はず!



「じゃ、私からいっきまーす!」

「ナナ、気持ちは分かるが落ち着け」

「分かってるってリン!」



ナナが机の上に置かれた板に手を伸ばす。

そして石に触れると、メーターがぐいん、と動いた。

シュトさんがメーターを覗き込み、数値を確かめる。



「おぉ!ナナさんは900だね。かなり高いよ!」

「本当ですか?やったぁ!」

「良かったな、ナナ。じゃあ次は僕です」

「……よし。どうぞ、石に手を置いてね」



シュトさんがメーターを正常な位置へ戻し、調節をしてからリンの方へ向けて板を置いた。

今度はリンが石に手を置く。

またメーターが動き、シュトさんが確認する。

ナナと同じくらいかな?



「リンくんも900だね。すごいよ、こんな高い素養を持った人が1度にふたりも出るだなんて!」

「珍しいんですか?」

「このくらいのレベルの素養なら多くても1年に1人いるかいないかだよ!」



シュトさんが興奮した様子で、ツァオベリーの最高峰と言われる宮廷魔術師の平均が大体1000くらいなので、それに迫る値のふたりはかなり優秀なツァオベリーとなれるだろう、と力説している。

……これ、私たちの計測をしたらどうなるんだろう。

シュトさんが興奮しすぎて倒れそうでちょっと心配だ。

律と目を合わせると、どうしようもないな、とでも言いたげに律が肩を疎めた。



「次は俺がやります」

「あ、そうだね!……どうぞ!」



私は最後だね。

律が手を置くと、メーターがさっきよりも早い速度で動いた。

……あ、メーターが振り切った。

そりゃそうか、最高峰のツァオベリーの値が1000前後ならあっても1500、もしくは2000くらいまでしか計測する必要がないもんね。



「なっ……1500以上……?!」

「「えっ?!」」

「……」



あ、1500までだったみたい。

私と律以外の皆が驚く中、元々値を知っていた律はどう反応すれば良いのか分からないらしい。

すごく微妙な顔をしている。

きっと私も同じような顔をしているんだろう。

でも、これはシェリにもらったものじゃなくて元々持ってたものらしいから、どうにもならないね。



「………た……」

「え?」



衝撃を受けたような呆然とした顔でメーターを見ながらシュトさんがなにか小さく声を漏らした。

何だろう。



「大変です、ギルドマスターーー!!!」

「えっ?!」



いきなりシュトさんが叫んだ。

私たちが驚いていると、ものすごいスピードでシュトさんが部屋から出て走っていく。

ギルドマスターって言ってたよね?

もしかして呼びに行ったとか……いや、もしかしてじゃないね。

普通に呼びに行ったよね、あれは。

リンとナナも呆然とシュトさんが走り去った方を見ている。

律がこちらに寄ってきて、ふたりに聞こえないくらいの小さな声で話しかけてきた。



「柚華、この様子だと柚華が計測をしたら大騒ぎだぞ。俺の件でうやむやにして柚華はやめておくか?」

「たしかにそうだね。でも、同じ力を持ってるのに律だけがそんな大変な思いするなんて納得できないし、嫌だよ」

「……そうか」



律はいつも私を守ってくれるけど、私だって律を守りたい。

それに律は言葉にはしないけど、顔が少しほころんだからこれが正解だよね。

律が笑うならそれが正義!

お姉ちゃんは律専用のヒーローです!



「……今変なこと考えただろ」

「っか、考えてないよ?!」



最後にふざけたのがバレてた。

すごいね律、エスパーか。

それとも、私の考えてることが顔に出まくってるだけかな?

なんて考えていると、扉が勢いよく開いてシュトさんが帰ってきた。

あ、後ろに誰かいるね……ギルドマスターかな?



「邪魔するぞ。ここのギルドマスターのベクトだ。とんでもない魔力量を持ってるってのはお前か?」

「そうです」

「全員若いな。10代くらいか。冒険者になりに来たのか?」

「はい」



すごい迫力のあるおじさんが入ってきた。

思わず椅子から立ち上がってしまう。

なんだか、その姿を見ただけでとても強いのが分かる。

入ってきた瞬間、肩の上でリトの体が少し緊張したから、間違いない。



「ん?肩に乗ってるのはペットか?」

「俺の肩に乗ってるのはナルで、柚華の肩に乗ってるのはリトです」

「そうか。2匹とも賢そうな目をしているな。まぁそれはいい、お前はリツだな?もう一度測定してみてくれ」

「はい」



ギルドマスターが椅子に座ったので、私たちも座り直し、さっきと同じように律が石の上に手を伸ばす。

石に触れると、またメーターが振り切った。

さっきと全く同じだね。



「……本当に振り切ってるな。こんなこと初めてだ。おいシュト!こっからは俺がこいつらの適性検査をする。お前は戻っておけ」

「分かりました」

「……さて、リツ。今度はこちらでやってみてくれ」



そう言ってギルドマスターが律に手渡したのは、作りはさっきのものとあまり変わらないけれど、板の木や石、メーターの配置がきれいで、装飾も美しく施されている、さっきのものよりも数段格が上と思われるものだった。



「これは、古代文明の遺産、アーティファクトのひとつだ。これならおそらく正確に魔力量を測れるだろう。貴重なものだからあまり使わないんだが、今回は使うべきだろう。試してみてくれ」

「分かりました」

「……おぉ、こっちは振り切れないな。安心した。数値は……3000?!おいおい、この量はギルドの記録の中でもダントツだぞ!」



すごい、正確だね!

古代文明の遺産かぁ。

小説とか漫画とか読んでていつも思うんだけど、異世界の古代文明って優秀すぎない?

便利なものとか、すごい力を持ってる物って基本古代のアーティファクトだよね。

どうしてそんな技術を持ってるのにあんまり記録がないのかな?

……まぁそれはいっか。

それよりも、ダントツの量って……あはは、私この後測定するんだよね……。



「柚華もまだ測っていません」

「あ、そうだったのか。じゃあ、測ってみてくれ」

「は、はい!」



もう騒がれるのは確定だから覚悟を決めよう!

よしっ!と気合をいれて立ち上がり、律の方に歩いていき、石に触れる。

すると、律と同じようにメーターが上がっていき、同じところで止まった。



「うおぉぉ?!ユズカ、だったか?!お前もリツと同じくらいの量じゃないか!!」

「は、はい……そうで、すね……うぇ」

「ちょ、ギルドマスター!柚華の肩揺さぶるのやめて下さい!」

「お、おぉ、すまん!しかし、こんな歴史に残るような魔力量を持つやつが1度にふたりも現れるとは……」



ものすごい勢いで肩を揺さぶられて頭がぐるぐるする。

律が慌ててギルドマスターを引き離してふらふらの私を支えてくれる。

律のお陰で助かった……。

ちょっとの間律の腕に寄りかかって視界が元に戻るのを待つ。

落ち着いたところで律から離れて椅子に座り、ギルドマスターに向き直った。

……というか、律に寄りかからなくても座れば良かったじゃん!

なんで気づかなかったんだ、私!律も!



「あー……復活したか?」

「はい!ギルドマスターさん、私たちまだ適性の方は検査してないのでぱぱっと済ませちゃいましょう!」

「おぉ、それもそうだな!とりあえずは終わらせよう」



このままだと進まないので少々強引に先へ進めることにした。

ギルドマスターがテーブルの上に置いてあった箱の中から6色の水晶のような石が円形に並べられ、真ん中に少し大きめの透明な石のついた丸い板を出した。

きれいな石だなぁ。

さっきのもだけど、これって魔石なのかな?

よく見ると魔法陣が描かれてるし……。



「では、誰からやる?」

「じゃあ……」

「僕がやります」

「リン!」



さっきからずっと黙っていたリンが口を開いた。

どうしていきなり?と思っていると、リンが『お前たちは適性もすごそうだから、僕らが先にやっておいた方が良いだろう?』と、ナナにそっくりの茶目っ気のあるウインクをしてきた。

……まぁ確かに。

私たちは魔力量は元々だけど、適性はシェリからもらったからね。

いわゆるチートってやつ。

なので、リンには苦笑を返しておく。



「これに触れれば良いんですね?」

「あぁ、この真ん中の透明な石に触れると周りの色付きの魔石が光る。光った魔石の色が適性のある属性の色だ。属性の色は分かるな?火が赤色、水が水色、風が緑色、土が茶色、光が金色、闇が銀色だ」

「了解です」



リンが石に触れる。

すると、赤い魔石と緑の魔石と銀色の魔石が光った。

その中でも銀色の魔石の光が強い。

リンの得意属性は闇なんだろうね。

そう思っていると、リンと同じくずっと黙っていたナナが不安そうに私たちに話しかけてきた。



「ユズカ、リツ」

「どうした?」

「どうしたの?ナナ」

「なんだかふたりが遠く感じちゃって、置いていかれちゃうって思ったら寂しくて。……私たちを、置いて行かないでね?」

「………」

「……リンもそう思ってるのか?」

「分からない。リンは口に出さないから……」

「……そうか。……柚華、帰ったらふたりにも事情を話そう」



最後の律の一言は、私にしか聞こえないくらい小さな声だった。

私は小さく頷く。

むしろ、もっと早く話せば良かった。

私たちは色んなところに行かなきゃいけない。

そうなると、置いて行かないとは言えなくて、言葉が出なかった。



「おぉ、属性は火、風、闇の3つか!それに、闇の光はかなり強いな!魔力量はどうだった?」

「900でしたね」

「ほう、かなりの逸材だな!今後が楽しみだ!」

「ありがとうございます。次はナナだね」

「分かった!」



私が何も言えないまま、ナナは元気に答える。

それが空元気なのが見ていれば分かって、心苦しい。

ナナを見つめていると、ナナが透明な石に触れた。

光ったのは、赤と水と茶。

その中でも、茶色が一際強く光っている。



「ナナは火と水と土の3つか!土が得意属性みたいだな。魔力量はいくつだ?」

「900です!」

「お前もか!今回は本当に逸材ぞろいだな!」

「そう言っていただけると嬉しいです。……さて、リツ、ユズカ、どっちが先にやるの?」

「俺が先にやる」



私が何かを言うより早く、律がさっさと石に触れる。

まぁ、結果は予想通りで、全てが光り、緑がものすごく強く光った。

……どうせ騒がれるなら1度にまとめて騒がれる方が良いよね。

他の人が何か反応する前にやってしまおうと、律が石から手を引くと同時に、入れ替わるように私も石に触れる。

私の方の結果も、全てが光り、水がものすごく強く光るという予想通りのものだった。



「……うん、まぁ僕も予想はしてたからさっきほど衝撃はないかな。信じられない気持ちはあるけど」

「すごいねぇ……」

「すごいなんてもんじゃないな。全部の光が普通のツァオベリーなら得意属性になるくらいの強さだ。その中でもリツの風、ユズカの水は光が強すぎる。……お前ら、ちょっと全員席につけ」

「分かりました」



……何を聞かれるのかな?

それとも、言われるのかな?

そう思いながら、とりあえず4人並んで椅子に座る。

私たちが座ったのを確認して、ギルドマスターが話し始めた。



「お前たちのツァオベリーとしての才能は、はっきり言って尋常じゃない。リツとユズカだけじゃないぞ、リンとナナもだ。ここまでの才能を持ったやつらが4人固まってんだ、きっと騒ぎになる。その才能は隠しておけるものじゃないからな」

「まぁ、俺たちは普通に魔法を使いますからね」

「自分たちと同じような新人だと思ってたやつがそんな才能を持っていると後から知れば、嫉妬で妬まれたり恨まれたりすることも増えるだろう。そんなことになるなら、最初から知られていた方が良いと思わないか?」

「……そういうことですか」

「えっ、どういうこと?」

「つまりは、『天才が現れた』……とかなんとか噂を流して最初から"こいつらは特別だ"と知らせておけば、後で分かるよりも面倒が少ないだろう、ってことだね。まぁリツとユズカに並んで僕たちまで天才と言われるのはキツそうだけど」



そう、冗談混じりにリンが言う。

……いや、後で人間が忘れてしまった魔法を使う時のコツを教えてあげれば、他の人たちとは一線を画す天才になれるはずだ。

よーし、帰ったら色々話さなくちゃね!



「……普段なら、リンとナナもかなりの才能の持ち主なんだがなぁ。まぁ、そういうことだ。どうだ?そうするか?」

「その方が影響が少ないなら、そうします」

「そうか!じゃ、さっさと冒険者登録をすませてくれ」



さっきの登録用の紙を渡された。

ペンも渡されて、紙に記入していく。

えーっと、名前はユズカだけで良いよね……。

年齢……17歳、と。

ツァオベリーであるにまる、属性は全部にまる……。

得意属性は水魔法。

メインの武器はとりあえずは剣だよね。

前衛か後衛か?

どっちでも良いけど、体を動かすの好きだから前衛かな。



「パーティーはどうする?ふたりずつ……リツとユズカ、僕とナナで組むか?それとも4人で組むか?」

「……俺たちはいつでも一緒にいられる訳じゃないだろうからな。ふたりずつにしよう」

「……そうだな」

「じゃ、お前らパーティー名を決めてくれ。その名前とお前らの特徴を噂で流しておく」

「分かりました。……どんな名前にする、柚華?」

「んー……"桜月夜の双樹"とかは?」

「良いけど、何でその名前なんだ?」

「桜月夜は朧月の柔らかい光が優しい感じがして律っぽいなって。……それに、リンとナナの髪の色ってピンク色で桜みたいでしょ?」

「リンとナナは分かるけど、俺が月……?双樹は?」

「そうだよ!双樹はね、双つの樹みたいに律とずっと一緒にいられるように願いを込めたの!」

「そうか。良いと思うぞ。それにしよう」

「ありがとう!じゃあ決まりだね!」



私は桜が好きだから、リンとナナの髪色も綺麗で好きなんだよね。

律と私が名前を決めている間に、リンとナナも決め終わったみたいだ。

私たちは揃って紙にパーティー名を書く。

それで全て記入し終わった。



「お、書き終わったか?なら、ギルドカードを作っておくから明日また来てくれ。その時に魔法や武器の特訓も一緒にやるからな」

「分かりました!」

「じゃ、今日は帰ろうか!」



2階から降り、ギルドの扉へ向かって歩く。

明日忘れずにまたここに来ないとね。

ギルドを出て、少し歩いたところでギルドからすごい声が響いてきた。



「はあぁぁぁぁあ?!?!?!」

「えっ?!」



思わず立ち止まって振り返ってしまったけど、律に手をとられて進む。

今の声、多分ギルドマスターさんの声だと思うんだけど、どうしたんだろうね?

……まさか、私たちに関係ある?

律の方をちらっと見上げると、少し口元が笑っていたので、律が何かしたんだろう。

……全く、何をしたの?!



律と柚華はかなり異常な才能の持ち主です。

まぁ分かっていたことですね。

リンとナナにも色々と話すことを決めました。

ギルドマスターは面倒見の良い兄貴肌で、冒険者たちに慕われています。



次は沈みと浮上です。

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