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銀翼館のメイド奮闘記  作者: 島田莉音
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混沌と波乱の訪問者〜後半〜


短めです









「はぁ…どいつもこいつもどうしてこうも自分勝手なんでしょうね。いや、我が強いの間違いですかね」







ブレイジングは応接室で紅茶を飲みながら、そう呟く。

ラナは彼が飲み干したティーカップに紅茶を注いだ。

目の前には…正座するユリウスとその兄シリウスの姿。

先程の混沌はブレイジングの力技ゲンコツに寄って制圧された。

その後、幹部陣には軽く(…と言っても、終わった頃には皆死んだ顔をしていた…)お説教をくらい、仕事があるため各自仕事に逃げた。

残されたラナ、ユリウス、シリウスは応接室でブレイジングに寄るお説教タイムに突入していたのだ。

「なんで俺達は正座してんのにメイドは普通に給仕してんだよ」

ユリウスが拗ねたようにブレイジングに訴える。彼は冷たい視線を向けた。

「何故かって?……女性だからですよ。流石に女性を正座させる鬼畜ではありません」

「えーっ⁉︎僕だって王様だよ〜?」

「お前は馬鹿ですから、論外です」

「扱い酷くないっ⁉︎なんて口の利き方してるのっ⁉︎」

「勿論…ラナさんにも後々(のちのち)お話はありますから、結局は一緒です」

ブレイジングはそう言って、大きな溜息を吐く。

「はぁ……国王陛下。まず貴方にはここに来た理由から思い出してもらわねばなりませんね」

「はーいっ‼︎《銀翼館》に女性の姿があったと報告を受けたからでーすっ‼︎」

「はぁっ⁉︎ちょっと待て…誰からの報告だそれっ‼︎まさかっ…隠密がいたりするのかっ⁉︎」

ユリウスは怒ったようにシリウスに詰め寄る。

しかし、ブレイジングはそれを制した。

「ユリウス様の言い分も聞きますから…状況整理のためにも少し待って下さい。……話を戻しますが…女性の姿があって、それをユリウス様の〝良い人〟だと思った陛下は《銀翼館ここ》に来たいと言った。それで…スケジュール的に余裕がある日が今日だった。だから、以前ユリウス様に頂いた空間転移の魔法道具マジックアイテムでここに来ました」

「そうでーす‼︎」

ラナはそんなものがあるのかと感心する。

第一首都と第二首都コンポルトは一日では来れないくらいのかなりの距離がある。

転移して来たのなら、そんなもの関係ないのだろう。

(………………って…〝良い人〟っ⁉︎)

ラナは思わず無視スルーし掛けた言葉にギョッとする。〝良い人〟ということは……好きな人ということで…。

(なんで女性の姿があるだけでそれに直結するのっ……‼︎)

今度はラナが大きな溜息を漏らした。

ブレイジングも呆れ顔になりながら…話を続ける。

「で。何故、あんな混沌としてたんですか。国王陛下が先走って先に転移したことはまぁ、許しましょう。しかし…自分が行くまでの短時間で何があったのです」

「えーっと…メイドちゃんのすっごい映像を皆で見てて〜真っ赤になって、毒舌って、二人に突っ掛かって……」

「主語はどこだ、主語は」

「……あの…私でよければ話しましょうか……?」

シリウスとブレイジングの間に流れ始めたピリピリとした空気を読み取ったラナは、ブレイジングにあの時のことを話す。

自分が《地獄回廊》を渡った時の映像のこと。

それを見たユリウスが自分の身体を調べたいと言ったこと。

それを笑顔が怖いからと断ったこと。

笑顔が怖いからという理由で断ったということは、別に調べるのはいいのかっ‼︎とマルクに怒鳴られたこと。

そしたら、国王陛下シリウスがいつの間にか混ざっていたこと。

話をしたいと言われて、知りもしない人間と話せるかと断ったこと……などなど。

ラナは要点をまとめながら、大体のことを話した。

「…………はぁ…悪化させたのは国王陛下じゃないですか……」

ブレイジングは頭を抱えながら、呆れ顔になる。

でも、そんな場面でも…彼は空気を読まない。

「そう言えば…メイドはこの国の人間じゃないんだな?どこの国の人間なんだ?」

ユリウスは場に似合わない興味津々といった様子で伺ってくる。ラナは苦笑しながら答えた。

「えーっと…ここからもう少し西にある国なんだけど……ちょっと独特な独立国家よ」

「あ〜…もしかして、ジークフリート殿のとこ?あそこは結構ユニークな国だよねぇ〜シャングリラ教だっけ?そこが法律を司ってて、王宮が政治をしているって国だったよね〜」

ユリウスのマイペースに乗せられ、シリウスがフムフムと頷く。

ラナは(話がズレてきてるような…?)と思いながらも、苦笑しつつ頬を掻く。

「でも…四歳の時にあの国から旅に出ちゃったんですけどね。それからずっと旅暮らし…この国に来たのも父親が……」

「父親が?」

「…………えーっと…仕事っていうか…趣味というか…………とっ…とにかく‼︎父親が目的があってここに来て、置いて行かれたけど…暮らすためのお金がなくて、住み込みの仕事を探しててここに来たんです‼︎」

ラナはついでに《銀翼館ここ》に来た理由も話した。ここまで書けば、ラナがユリウスの〝良い人〟ではなくて…普通に《銀翼館》で働いているだけだと信じてくれるだろう。

(これで…メイドだとちゃんと納得して……)

「メイドちゃんはユリウスのことをどう思ってるの?」

(ならなかったー………っ‼︎)

シリウスは爛々とした瞳で、ラナを見つめる。

「人の話を聞いてなかったんですかねぇ…あんたは」

ブレイジングは既に貶すような目線でシリウスを見つめていた。

ユリウスも反応するのが面倒になったのか、いつの間にか取り出した端末タブレットを片手に何かをしている。

「ねぇねぇ、メイドちゃん。メイドちゃんはユリウスが好きなの?」

「……いや…好きも何も…ユリウス様は雇い主……」

「いやいや、ユリウスが女性を側に置いているんだよ?メイドだからって理由にしろ…そんなの初めてだから。きっとユリウスはメイドちゃんのことが……」

(いや、普通に雇用テストの《地獄回廊》を渡ったらです。ユリウス様が興味あるのは私じゃなくて私の身体能力で……)

そう言いたいが…シリウスのキラキラと疑っていない笑顔に何故か罪悪感が襲ってきて……何も言えなくなる。

(アレだ、凄い人のキラキラ。他人を押し黙らせる力がある…カリスマ(?)性とかいうやつだ……)

ラナはそう…無理矢理に納得する。

幾ら経っても答えないラナに痺れを切らしたシリウスはユリウスに振り返って満面の笑みを浮かべる。

「ユリウスはメイドちゃんのこと、どう思ってるの?」

「メイドのこと?」

ユリウスは端末タブレットを操る手を止めると…ゆっくりと振り返る。

「メイド(の身体の構造)に興味があるよ」

「あっ‼︎やっぱり〜?僕の予想合ってるじゃんっ‼︎ブレイジング‼︎」

「「………………」」

ラナとブレイジングは黙り込む。

きっと…ユリウスの言った言葉は言葉が抜けている。そして、それにシリウスは気づいていない。

「メイド(の身体の構造)にしか、今は興味を持てない。早く知りたいんだ」

「ほら〜〜♪」

ここまで噛み合わない会話を見ていると…自分の考えていたことが面倒になってきた。

結構適当でもなんとかなるのだろう…と。

ブレイジングもそう思ったのか、顔に何と言うまい…と書いてあった。

「メイド」

「ん?」

唐突にユリウスに声を掛けられて、ラナはそちらを向く。

すると彼はラナの手を握った。

「やってみたいことがあるんだ、協力してくれ」

「え?」

ユリウスは楽しそうにそう言うと、ブレイジングの説教途中だというのに歩き始める。

ブレイジングもそれを止めようとしたのだが…シリウスに止められて、黙っていた。

(そういう余計な気配りはいらないんだけどっ…‼︎)

部屋を出る直前…最後に見えたシリウスのニタリ顔。

絶対、誤解してるな…と思った。








*****







部屋に残されたニコニコと微笑むシリウスと険しい顔のブレイジングは…暫くの間、口を開かなかった。

「………いいんですか…二人にして。一応、ラナさんの素性は知れませんよね」

少しして先に口を開いたのは…ブレイジングだった。

そう聞かれたシリウスは微笑みながら、振り返る。

「あぁ…それは大丈夫。僕、あの子のこと知ってるから」

「えっ⁉︎」

「あのさ〜僕があるトレジャーハンターの自伝を好きなの知ってるでしょ?」

「はぁ…?」

いきなりの答えにブレイジングは凄まじく険しい顔をする。

「あの子、その人の娘だよ」

「えっ⁉︎」

シリウスの唐突な台詞に、ブレイジングは口を大きく開けた。

「一回、サイン会があってさ〜お忍びで行ったんだ」

「⁉︎」

「その時にあの子いたから…身元は割れてるよ」

「……………国王陛下…?」

「………ん?」

ドスの効いた声で呼ばれて、シリウスは嫌な予感をしつつ振り返る。

そこには…静かな怒気を放つブレイジング。

「………いつ…勝手にお忍びに行かれたんでしょう……?」

「………………ぁ……」

ブレイジングに何も言わずに…自分がお忍びで抜け出したことを、自分で暴露してしまったことにシリウスは冷や汗を流す。

「……………お話…願えますね…?」

ニコリと部下は微笑む。

シリウスは逃げることも叶わず…終わった…と漠然と思うことしか出来なかった。



そして…その後に起きたことは……言うまでもなかったー……。







*****





「ユリウス様、きっと誤解してるわ」




ラナはスタスタと歩くユリウスの後ろ姿にそう声を掛ける。

「別にいいよ……兄貴のワンマンプレーには付き合ってらんない」

「………………」

お前が言うか…という言葉は出さなかった。

………………顔には出ていたが。

「兄貴の誤解はいっくら弁解したって解けやしないからな…いっそ間違った認識のままでいさせた方が楽だ」

その声は本当に億劫そうだった。

前にもシリウスの誤解で面倒事があったと、物語っていた。

「…でも……国王陛下は…ユリウス様が私を好きだと勘違いしたままよ?」

「ん?まぁ……好きだからいいんじゃないか?」

「えっ⁉︎」

しれっと言われて、ラナは赤面する。

彼はニコリと笑いながら、振り返る。

「好きじゃなきゃ…調べたいと思わねぇよ」

(……………ソーイウコトネ……)

思わせ振りなことを言うなっ‼︎と思わず言いそうになったが…ユリウスはひたすらにマイペース。

きっと、響きやしない。

「んじゃ…メイドも仕事があるだろうし……ここで」

《地獄回廊》付近まで来ると、彼はそう言って手を離す。

ラナも頷いて、スカートの裾を摘んで頭を下げた。

「いってらっしゃいませ、ユリウス様」

「…………………」

「………ユリウス様?」

ユリウスは呆然のラナを見つめていた。

その頬は…ほんの微かに赤く見えて…。

「ユリウス様?」

「えっ…あっ……うん…」

もう一度名前を呼ぶと、ワザとらしい咳をして…苦笑しながら、ラナを見つめた。

「あのさ…ユリウスってのはこそばゆいから……ユーリでいい」

「……ユーリ…?」

「そう…俺が子供の頃に呼ばれてた愛称。もつけなくていいから」

彼はそう言うと、思いっきりラナの頭をくしゃくしゃに撫でる。

「うわっ……」

「今日は調べるの止めよう。後でゆっくり…二人っきりの時に調べさせてくれ」

「…………っ…‼︎」

タラシっぽいのはエヴァだと思っていた。

しかし…彼も充分、タラシだったー……。

「じゃあな」

ユリウスは手を振って、本館の方に歩いていく。

残されたラナは赤くなった頬を押さえながら…その後ろ姿を見つめるのだったー……。







余談だが………。


幹部達が仕事を終えた頃…ラナと国王含めてのブレイジングの最後のお説教(一時間半)があり……みっちり絞られた後、混沌と波乱を巻き込んだ嵐のような二人は…帰って行ったのだった……。






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