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第参話ー家庭科室の人体模型ー

 あれは僕が三年生の時だったかな。

 僕らの学校の七不思議に、家庭科室の人体模型って奴があるんだよ。


 うん、分かる分かる。

 

 何で家庭科室で人体模型なんだよ、って突っ込みを入れたくなるよね。

 

 でもさぁ、よくよく考えたら、

 理科室に人体模型や骨格標本が置かれているのは、ある意味当然だろ?

 授業にも必要なもんだしさぁ…アレ?授業で使われたことあったっけ…。


 ま、まあ、理由はちゃんとあるし、

 無かったら無かったで、物足りなく感じるアイテムって奴じゃない?


 だから、そんなのはどうでもいいんだよ。

 あるべき場所にちゃんと収まってる物はね。


 話が逸れたね。

 

 それで、家庭科室の人体模型だ。


 家庭科室の…って言っても、実際に置いてある訳じゃないんだ。

 見た目は多分、どこの学校とも変わらない、何の変哲も無い家庭科室だよ。


 でもね…、時々視えちゃう子がいるんだって…。

 

 何がって?鈍すぎるよぉ。

 だ か ら 本来そこには無いはずの人体模型が、だよ。


 んで、ここからが本題なんだけど…

 僕も視たんだ…あるはずの無いそれ(・・)を…。


 さっきも言った様に、これは僕が三年生の時の話だ。

 

 家庭科の授業で、班のみんなとホットケーキを作るって課題があった。


 三年に上がってから、最初の家庭科室での授業だし、

 班の友達とワイワイ言いながら料理をするのはとても楽しみだった。


 それで授業当日、僕達はワクワクしながら家庭科室に乗り込んで、

 さっそく準備に取り掛かった。


 その時だよ。視界の端に何か、人影らしい物が見えた。

 

 それは、各班が作業をしているテーブルや、

 他の生徒たちが、忙しく取りに行ってる調理器具が入れられた棚とも離れた、 人気の無い窓際の辺りに居た様な気がしたんだ。

 

 もちろん、すぐにそっちに目をやったけど、

 やっぱりその近くに人なんて居なかった。


 何か気味が悪いなぁ…って思ったけど、

 すぐ班長の子に、食器棚から皿を持って来いって言われて、

 それを取りに行ってる間に、そんなことは忘れてしまった。


 やっとこさ調理器具を取り揃えて、

 いよいよ調理に取り掛かろうとした、その時だった。


 僕の視界の端に、またさっきの人影が現れたのさ。


 またしても一瞬で消えてしまったその人影は、

 何かピンクっぽい色をしてる様に見えた…。


 僕はその時思い出したんだ。


 家庭科室の人体模型の話を…。


 大好きなホットケーキを作ってる、って言うのに、

 それまであったワクワク感や食欲がスゥーっと引いて行くのが分かった。


 そんな僕の様子を見た班の子たちが、

 ボケッとせずにお前も手伝え、って容赦の無い言葉を僕に浴びせて来た。


 僕は空返事をして、すぐに調理に取り掛かった。


 その時だよ。


 慌しく視界を動かしている僕の目に、一瞬だったけど、

 その変わりハッキリとした、

 血管が浮き出た、人体模型の姿が飛び込んできたのは。


 思わずもう一度視線を戻しても、そこにはもう何も居なかった…。


 でも僕にははっきりと分かっていた。


 気のせいじゃない…。僕はアレ(・・)に取り憑かれてしまったんだ…。


 その時の僕の様子は、

 さっきまでと違って、傍から見ても異常だったんだと思う。


 さっきまで偉そうに僕をどやしつけて来た班長が、

 焦った様に先生を呼ぶと、先生も僕の異変に気付いたんだろう、

 気分が悪いなら保健室に行きなさい、って声を掛けてくれた。


 でも僕は首を振って大慌てで拒否した。

 

 保健室に先生が居るかどうか分からないし、もし居なかったら、

 僕はアレ(・・)に取り憑かれたかも知れない状況で一人になってしまう、

 それが一番怖い…。


 それなら、まだクラス全員が揃っている家庭科室に居た方が安心だ…。


 そんな僕の思いはどうやら上手く伝わらず、

 先生やほかの子たちは、単に僕の食い意地が張っているだけだと思ったのか、

 何やら笑いながら元の作業に戻って行ってしまった…。


 相変わらず僕の気分は最悪だったけど、

 みんなそんなことにはお構いなしと言った感じで

 ホットケーキを焼き始めていた。


 フライパンの中に入れられたそれ(・・)が、

 じゅう…じゅう…と音を立てて、少しずつ固まっていく…。


 僕が家で何度か作ってもらった時は、

 それからすぐ、食欲をそそるいい匂いがしてくるはずだった。


 …でも、その時は違った…。


 あの甘ったるいような、香ばしいような匂いはまったく無く、

 逆に、何だか肉が焼けるような、ちょっと焦げ臭いような、

 そんな臭いが漂ってきた。


 しかもそれは、時を経るごとにどんどん強くなって、

 鼻がひんまがって涙が出てくるような

 今まで一度も嗅いだことの無いほどの悪臭になっていくんだ。


 しかも信じられないことに、

 僕以外の他の人たちは全然そんな風に感じないみたいで、

 普通に、「もうひっくり返した方がいいかなぁ?」だの

 「もうちょっと焼いた方がいいよ」とか何の変わりも無くしゃべってる。


 「ああ、やっぱ焦げちゃってるぜ。

 だから早くひっくり返した方がいいって言ったのに」

 裏返されたそれ(・・)は、ふちの所だけキツネ色で、

 それ以外の部分はほとんど真っ黒だった。


 臭いのせいか、僕にはそれ(・・)

 何かの焼け焦げた肉にしか見えなかった…。


 「…うぷっ!」

 

 なぜだかは分からないけど、

 それを見た瞬間、僕が感じる悪臭が一段と酷くなった。

 

 それによって、遂に僕は、たまらず胃の中の物を全て吐き出し、

 立っていることもできずに、その場に倒れこんでしまったんだ。


 部屋の所々から聞こえる悲鳴を聞きながら、

 何とか顔を上げると、驚いた表情をしている子たちの間に

 あの人体模型が誰にも気付かれること無く立っていて、

 じぃ~っと僕の方へ視線を向けていた…。


 …そして意識が無くなる瞬間気付いたんだ。

 

 そいつ(・・・)模型じゃ無い(・・・・・・)ってことに…。

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