第壱話ー東端の階段ー
あたしの学校の七不思議…?
色々知ってるけど、う~ん…そうだなぁ…。
やっぱり校舎の東端にある階段かな?
その階段、校舎の一番外れにあるしさ、近くにある教室も物置きだったり、
滅多に使わない資料室だったりして、ほとんど誰も使わないんだよねぇ…。
んで、いつの頃からか、その階段を使っていると
幽霊に出合うって噂が出来たの。
まあありふれた…って言うか、ぶっちゃけだから何?って話よね。
じゃあ何であたしがわざわざその話を選んだのかって言うと…。
…実際あたしが体験したからよ。その幽霊話。
ま、自分の体験に勝る物は無いって言うしね。
その話ってのは…。
あたしはその日…、何でだっかな?
そうそう、放課後に三階の視聴覚室に
忘れた物をした事に気付いたからだった。
あ、視聴覚室はね、その階段のすぐ隣ににあるのよ。
滅多に使われないけど。
あたしがその教室にある忘れ物を取って帰ろうとした時には、
もうすっかり夕方だったの。
窓から凄く強い夕日が差し込んできたのを覚えているわ。
それで教室から出ると、ちょっとでも早く帰りたいから、
隣にあるその階段を使ったの。
何にも怖くなんて無かったよ?そもそも信じてなんかいなかったし。
で、早足で階段を降り始めたんだけど…。不思議と全然一階に着かないの…。
何言ってんだって?言葉の通りよ。
最初は、「あれぇ…まだ二階だったかなぁ…」って
思っただけだったんだけど、
もう一階階段を降りてもまた下に階段が続いてるの。
そこでハッと気付いたのよね。
二階から降りてからずっと廊下を見ていない…って。
要は、二階から降りるでしょ?で、踊り場で折り返して、
また降りるとまた踊り場なの。
さっき気付いた妙な違和感ってこれだったんだ…。
さすがにあたしは焦ったね。
幽霊なんて怖くは無いけど、
エンドレスに階段が続くなんて聞いてなかったから…。
そこであたしは一旦、二階に戻ってそこから帰ろうとしたのよ。
何となく、このまま降り続けても埒が開かない、って直感したからね。
でもその考えは浅はかだった。
昇ってもおんなじ。延々、階段と踊り場のオンパレード。
その後もしばらく、昇ったり降りたりを繰り返したんだけど、
しばらくするとおかしな事があったのよね。
折り返して階段を降ると、その下の踊り場、
そこから同じ様に下に降りて行く人影が見えたのよ。
それは昇ってる時も一緒だった。
あたしが階段を昇り始めると、入れ違いみたいにその人影も昇っていく。
最初、あたしは自分以外にも人がいると思って、
大きく声を掛けたけど、何の反応も返ってこない。
ああ、これが噂の元になった幽霊だな、ってあたしは直感した。
怖く無かったか?ううん、全然逆。
やっとあたしをこんなふざけた目に合わせる元凶が表れたんだからね。
何とか取っ捕まえて、とっちめてやろうと思ったよ。
女の子にしては度胸があり過ぎる?ああ、やっぱりね。
幼稚園の頃から武道をやらされたせいかなぁ…、変に根性が付いちゃって、
不思議と幽霊とかそういうモノを怖いと思った事ないんだよ。
テレビとか映画に出てくる幽霊だっけ、
アレも人間が勝手にビビッてるだけじゃない。
あたしだったらぶっ飛ばしてやるわ、っていつも思ってたもんよ。
話が逸れたわね。
それで何度かそいつを捕まえようと、
走って追いかけるんだけど、一向に追いつく気配が無いの。
もう夕日もすっかり落ちて、
踊り場の窓からはキレイな月明かりが覗き込んでいたわ。
あたしも疲れちゃって、
踊り場に腰掛けて、そのままゴロンと横になっちゃった。
確か人間って、飢え死にするまで一週間ぐらいかかるんでしょ?
果たしてあいつがそんだけ根気強く、
あたしをこの階段に閉じ込めていられるかどうか、
根競べだ、って気持ちだったわね。
そうしてたら、何度も階段を昇り降りしたせいかしらね。
疲れがドっと湧き出して来て、いつの間にかウトウトしだしちゃった。
それからしばらくすると、自分の隣に何かの気配を感じたの。
薄っすらと目を開けて隣を見ると、半分透き通った様な足が見えた。
こんな時に来なくていいじゃない…!って思いながら、視線を上に向けると…。
そこにはあたしと瓜二つの顔があって、
それがあたしをじぃっと見下していた。
そぉ言うオチですか…。でもこれ幽霊じゃ無くってドッペルじゃん…。
あたしは心の中でそう呟くと、押し寄せる睡魔に負けて、
そのままグッスリと夢の中へ落ちて行った。
気が付くと、窓からは朝日が差し込んでいて、
遠くから登校して来た他の生徒達の声が聞こえた。
そっ。主人公が気を失って、気が付いたら朝でした、ってパターン。
ただ、あたしの場合は気絶じゃ無くって単に寝ちゃったから…なんだけどね。
その後は定番よ。
先生に怒られて、家に帰るや親父からはぶん殴られたし、
今思い出してもそれが一番腹が立つわね。
ドッペルに監禁されてた、なんて言っても、
当たり前だけど誰も信じちゃくれないし。
…これがあたしの知る、そして実際に体験した七不思議よ。