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トリガーウィザード  作者: PON
第一章後編 24時間の攻防
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act2-16

 魔法士同士の戦闘において手加減という言葉は仲間内以外存在しない。敵を生かして逃がしてしまえば自分手の内が知られた状態での戦闘を余儀なくされる。故に必殺。


 それを百も承知でロンファは魔法を行使しているというのにフーシンは彼女の魔法をことごとく防ぐ。同門というだけではこの現象は起きない。彼の実力が彼女に伯仲していなければ防御なんて出来やしない。姿を消していた六年という歳月で彼が積み上げてきたものは伊達ではないということだろう。


「孤独という強さを失った貴女様が弱くなりすぎたのか、それとも貴女様を想い続けた私が強くなりすぎたのか。どちらにせよ実力差はほとんどなくなったようですね」


 空間を操る魔法は導属性の奥義に当たる。視覚で捉えられないだけでなく威力も他の魔法と一線を画している。それをお互いに幾度も使用しているというのに決定打にならない。同じ環境で共に修練に励んできたせいか、お互いが相手の呼吸とリズムで次に使用してくる魔法、位置を判断して相殺してしまう。ここまで硬直してしまうと次の手でタイミングをズラすことは非常に困難。意図的にズラそうとすればその隙を相手に狙われて戦況という天秤が一気に傾けられてしまう。ロンファの方には制限時間があるため焦っているわけではないが、強引にでも天秤を自分側に引き寄せる方法を模索し始める。


「ふむ。少々無粋ですが、このまま踊り続けるのは無意味に近いですね。そんな訳でこんな余興はいかがでしょうか?」


 当然、フーシンはロンファの思考を先読みしたわけではない。追い詰められているのは彼も同じ。なにせ相手は序列一桁台。どんな隠し球を持っているかわかったものではない。それ故に長期戦になることを避けて一気に天秤を傾けたい。相手はあくまでも格上。魔法士として完成しているので手心を加えてくれるはずもない。


 フーシンが軽くステッキで地面を叩けば地面が形状を変え、複数体の土人形がロンファを取り囲むようにその姿を見せる。これにはさすがの彼女といえど舌打ちをしてしまう。彼が使用したのは『従僕生成(サーヴァント)』と呼ばれ、自分の魔力を他の物質に干渉させることによって下僕を作り出す仙属性の魔法。空間を操る魔法を共に学んできたせいで、彼が使えるのは自分と同じ導属性だけだと勝手に思い込んでいた。油断していないつもりが、心のどこかで彼を自分より格下だと決め付けていたせいで生まれてしまった誤算。


「魔法士という生き物は自己を鍛えるよりも自分の魔法を洗練させる生き物。故に物量で押せばどんな大魔法士であっても、必ず敗北する。かつて貴女様が私に対して向けて放った言葉をそのままお返しいたしましょう」


 過去、自分が気まぐれにした忠告が自分に対して帰ってくるなど予想なんてしていなかった。フーシンは六年前とは別人。魔法が洗練されているどころか、別属性の魔法までほとんどタイムラグを生むことなく発動できるほどの技術を身につけている。このままでは確実にロンファは敗北する。これは予言ではなく予測。今の彼女に『従僕生成』で作り出された土人形たちとフーシンを打倒するすべはない。そう、今の彼女には。


「ファン・フーシン、よくぞここまで己を磨き上げた。心から嘘偽りなき賞賛を贈ろう。故に問う。お主は一体何のために戦う?」


「知れたこと。貴女様の未来のために」


「なるほど。それを聞いた上で答えよう。妾がお主と同じ道を歩むことはない。妾がお主にできる最後の教えとしてこの言葉を贈ろう。愛に生きる女に妄執に取り憑かれた男が勝てるほど世の中つまらないものではない」


 今までのロンファであればこの場所で敗北していたことだろう。今までの彼女は孤独の中にいたからこそ強かった。その強さを彼女は自分から手放し、別のものを手に入れた。孤独を対価として支払って手に入れたものは暖かいもの。比べることなんておこがましい。冷たい孤独の強さではなく、誰かの為に共に戦う暖かい強さ。知らず知らずのうちに顔がほころんでいく。戦況は未だ劣勢なままだというのに、恐怖も敗北も近づいてこない。これがある限り、彼女の傍には常に白夜がいると感じられる。


 ロンファが自分の豊かな胸の谷間から取り出したのは髪飾り。それを愛おしく見つめてから自分の髪を解いて髪飾りを付ける。たったそれだけの行為。だがその行為の意味を知る者がこの場所にいれば絶句するか、意識を失ってしまってもおかしくはない。彼女が身につけたのは紛れもない魔導書。今まで彼女が魔導書を身につけていなかったわけではない。右耳にだけ付けられたイヤリングがその証拠。だからだろう、フーシンも口を閉じることができなくなってしまう。今の彼女は魔導書を二つ身につけていることになる。


 魔法士一人につき魔導書が一つというのが常識。かつて魔導書を二つ同時に使用できないかと様々な方法が考案されては消えていった。魔導書を複数装備することはそれだけ魔力蓄積によって魔人になってしまう可能性が跳ね上がる。それどころか大半の魔法士は同時に起動させるどころか複数装備した場合、魔導書を起動させるための魔力が散乱してしまうため一つとして満足に魔導書を起動させることができない。


「これは妾の為だけに白夜が作ってくれたもの。言うなれば愛の結晶。試運転に付き合えることを誇り、それを土産に冥府へ落ちろ」


 実際に作成したのは白夜と悠斗の二名なのだが、ロンファには彼に作ってもらえたという事実がねじ曲がって心の中に残っている。


 『連結魔導書(リンクグリモア)』。

 これがロンファの制作依頼を出した魔導書の名称。当初、制作依頼を出した彼女でさえ実現不可能だと思っていた産物がここにある。彼女が本来使用していた魔導書を改良することによって出来た奇跡。通常、魔導書は一定値以上の魔力を注ぎ込まなければ起動できない。これは魔法士の知識で初歩中の初歩。だが白夜はそこに着目した。魔導書は一定値以上の魔力を注ぎ込んで起動させるが、その余剰分は魔導書内に蓄積されてしまう。そこで彼はイヤリング側の魔導書の基準値を下げ、余剰分をもう一方の魔導書起動に回すことで二つの魔導書が同時に起動できるようにしたのである。


 この技術を公表すれば研究所が白夜の存在を放っておかないことは分かっている。マルコが自分の魔導書製作者を公にしなかった気持ちが今のロンファであれば理解できる。調整という口実で少しでも彼に会う時間を作りたいのだ。だから公表なんてしない。この技術が流出してしまえば彼以外にも作成できる人間ができてしまうから。


「なぜ、貴女様に私は届かなかったのですか? こんなにも恋焦がれ、憧れて、自分を磨き上げてきたというのに」


「お主が白夜ではなかった。それだけの理由でしかない」


 扇子を振るうと同時にサイコロ状の肉片が周囲へ四散し、魔力供給の途切れた土人形たちが地面へと帰る。そこには郷愁も悔恨も存在していない。ファン・フーシンと呼ばれていた魔法士の存在はどこにもなくなってしまった。だからせめて自分だけは覚えていようと思い、背中越しにロンファは口にしてしまう。


「人格はともかく、妾はお主のように切磋琢磨できた弟弟子がいたことを生涯忘れはしない。ファン・フーシン、お主の名前は妾の心に刻んでおこう」


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