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トリガーウィザード  作者: PON
第一章後編 24時間の攻防
32/45

act2-12

 白夜が渡してくれた資料で記載されていた相手側の魔法士はグレゴリオを含めて六名。しかしフォーチューンが続けて記載されていたため、殆どの人間は誤植だと思って六名だと勝手に判断していた。それが間違いで、本当はフォーチューン一族が二名参加している可能性は否定できない。悠斗はその可能性に賭けた。


「やっぱりあれは誤植じゃなかったみたいっすね。フォーチューン一族は最初から二名いた。保護者同伴で保護者側が誰だかわからなかったからフォーチューンとだけ記載されていた」


 今悠斗の前には女性と先ほどであった少女、レティシアがいる。レティシアが成長すればそうなるであろうほどに似通った外見から、彼の考えは間違っていなかったと言える。


「へぇ、わざわざ姿を見せるなんて馬鹿な餌もいたものね。他の二名のように姿をくらませておけば良かったのに。そんなに食べられたいの?」


 完全に見下しきった視線を悠斗へ向けて女性は指を鳴らす。それを合図として受け取り、レティシアと似た外見の少女たちが計八名ほど姿を見せる。悠斗の考えは間違っていなかったが、相手側はさらにその上をいっていた。二名どころではなく計九名のフォーチューン一族が彼を取り囲み、誰もが獲物を悠斗に向けている。


「ふふっ、魔人だけでそこそこ満足のいく結果だったけど、やはり無理みたいね。こんな上質な狩場で獲物を見逃すことなんてできない。目の前の餌をオードブルにこの城内にいる全ての魔法士を食べてしまいましょう。そうすればもはや私、グリューネ・フォーチューンに届く魔法士は存在しない」


 ロンファと同じように絶世の美女と表現して遜色ないはずの美貌なのに、グリューネからは色気なんてものが感じられない。感じられるのはそれ以外放っていないと思える程に濃密な狂気。


 自分の優位を絶対と疑っていないから取り囲むだけで悠斗をすぐに片付けようとしない。目の前で餌がどのような動きを見せるか、腐った喜悦が瞳に宿っていることは明白。


「自分、聞きたいことが二つあるっす。これだけそっちが有利なんで教えてください。一つ目は、あなたがどうして初代の名前を名乗っているのか。二つ目はどうして寸分違わない外見の少女が複数いるのかっす」


 この類の敵は相手を追い詰めることで愉悦に浸る。勝ちを確信しているから相手に不用意に情報を公開してくれる。そう考えて悠斗は己の疑問をぶつける。内心では腸が煮えくり返って今にも飛びかかりたいのに、自分の喉から出てくる声が別人のように冷静であると感じながら。


「日本では冥土の土産という言葉があるから、そういったものなのでしょうね。一つ目、私が初代の名前を名乗っているのは、私が初代グリューネ・フォーチューン本人だから」


 悠斗は驚きを隠せない。目の前の女性の外見年齢はどう見たって三十歳前後。初代フォーチューンが序列に登録されたのは半世紀以上も前。どうやっても計算が合わない。そこで例外があることに気づいてしまった彼の頭はすぐに結論を導き出してしまう。動揺が思っていたよりも小さいことでグリューネは異性を魅了するはずの笑みを浮かべるが、今の彼には醜悪なものにしか映らない。


「気づいたようね。序列一桁台には及ばないにしても中々知識が豊富なようで嬉しいわ。餌としては物足りないかもしれないけど、答え合わせをしましょう?」


「「人造生命体に対して記憶移植を何世代に渡って繰り返した」」


 悠斗とグリューネの声が重なる。公開されている情報は少ないが、人造生命体は細胞分裂を一定段階まで急速に早めて生成されるので、総じて生命活動が短い。記憶移植に関しては大半の魔法士一族で行っていることなので技術としては広く広まっている。その両方の技術を持っているフォーチューン一族であれば初代がずっと君臨し続けていたとしてもおかしくはない。


「二つ目の質問に答えましょうね。なんで複数存在するか? 簡単すぎて答えるのも億劫ね。複数の優秀な個体を作り出し、最終段階で個体同士を殺し合わせて最高の個体を作り上げるため。そして最高の個体が次の私になる」


 日本には古く蠱毒と呼ばれる呪術が存在する。複数の毒虫を同じ瓶の中で殺し合わせることで毒をより強くし、最後の一匹で対象を毒殺。フォーチューン一族はまさに蠱毒を魔法士で行った結果。そこにあるのは飽くなき欲望と虚栄心。見ているだけで吐き気がしてくる。価値観が違うどころではない。自分以外を見ていない。


「答えてくれたお礼に、自分も自分の魔法を見せるっす。自分、こんな気持ちは初めてどうしていいかもわかんないっすけど、これだけは言えるっす。自分は今、目の前のブスをぶち殺したくて堪らない」


 悠斗は怒りと共に言葉を叩きつけて右手に『魔闘兵装』である突撃槍を作り出す。それが目の前の餌ができる最後の抵抗。ここまで状況が出来上がっている状態では逆転は不可能。そう思っているグリューネは暴言を聞き流し、指を鳴らす。


 まずは両手両足の健を切って動きを封じる。失血死もショック死も許さない。身動きが取れない状態にしてから痛覚だけ魔法で鋭敏化させて生きながら彼女たちに食事をさせる。目の前で自分の体が欠損していく状況でどれだけ正気が保てるか。悲鳴を上げながら命乞いをしていく様子はどんな屈強な男でも愛おしく見えてくる程に哀れ。手も足も出ない餌が這い蹲って涙を流す。それが見たくてたまらない。


 そんな彼女の望みを否定するように、なぜか少女たちは動かない。それどころかその場所で獲物を手放して地面で数回バウンドしてから動かなくなる。この魔法は先ほど見た序列八位の『空間振動』に似ているがおかしい。あれは魔法の構築式すら公開されていない夜空のオリジナル。彼以外に使えるものは存在していない。


「なぜ、なぜ動かない?」


「夜空さんの『空間振動』で脳を限定して数十回揺さぶったんで、脳震盪起こして動くどころか立ち上がるのも無理っす」


「馬鹿なっ。『空間振動』は序列八位のオリジナルで構築式すら公開されていない。使えるわけがない」


「その疑問はもっともです。でも自分はさっき言ったはずっす。自分の魔法を見せるって。これが自分の魔法『贋作使用(コピーキャット)』っす」


 『贋作使用』。

 『複製』と『解析』を同時に使用することにより、一度視認した魔法を己のものにするだけでなく、精度や威力を昇華させる。その為、オリジナルであるはずの魔法を超えることなんてザラにある。しかもこの魔法は自属性で行うので他の属性を起動する必要がないため魔力消費がオリジナルに比べて少ない。


「アプローチの仕方自体は悪くなかったと思うっす。でも、方法は選ぶべきだった」


「ふふっ、それで勝ったつもり? 素質はあるみたいだけど、まだまだ経験が足りないわね。その証拠にどの個体も殺していない。あまっちょろい正義感を振りかざしているから、自分から勝機を手放してしまう」


 油断していたつもりはない。それでもその可能性を悠斗が見落としていたのは事実。グリューネは個体と称し、人造生命体をただの道具としか思っていない。不必要になれば切り捨て、必要になれば作り出す。いくらでも替えが利く道具。だからレティシアたちの体内にすぐ起爆できる爆弾を仕掛けていたって何ら不思議はない。


 四散するレティシアたちの肉体のせいで悠斗の判断が一瞬だけ遅れる。それは格上の相手に対して致命傷。レティシアの大鎌を自分の手で握ったグリューネの一撃が悠斗の首を跳ね飛ばす。生暖かい血液を歓喜の祝杯に、頭部を失った彼の肉体が間欠泉のように吹き出す血液に口を付ける。これで自分は更に魔法士としての高みに近づいた。思いもがけない上質な餌。勝利の余韻が喉を潤してくれる。


「なるほど、こうやって使うわけっすか。見せてくれた白夜さんには本当、感謝の言葉しかないっす。そして、あんたの夢はもう見たくない。現実で裁きを受ける(・・・・・・・・・)時間っす」


 首だけになったはずの悠斗が軽い口調で言葉を吐き出せば、グリューネの世界が砕け散る。彼が使ったのは白夜のオリジナル『月女神の夢幻牢獄』。彼女が大鎌を手にとった瞬間から、彼女は幻術空間に囚われていた。


 完全な自分の勝利を喜んでいたのが幻で、現実は心臓が背後から突撃槍に貫かれて破壊されている。震える体でどうにか首だけ動かしてみれば、そこには冷徹な表情の悠斗が突撃槍を引き抜く様子が見えた。


 死にたくない。自分はまだ次の世代に記憶移植を行っていない。このままここでこの個体が生命活動を停止すれば、フォーチューン一族そのものが断絶してしまう。どうにかして別の個体に記憶を移植しなくてはならない。持って数分の命でグリューネが見つけたのは爆弾が不発だったらしく、五体満足な個体。それに向かって体を這わせ一刻も早く生きながらえる。


「あの子の未来はあの子のものっす。あんたみたいな汚物が汚すことは自分が絶対に許さない。妄執に取りつかれたまま消えろ、魔法士の闇」


 グリューネ同様に無事なレティシアに気づいた悠斗に頭部を粉砕され、フォーチューン一族の歴史は幕を閉じる。残ったのは血まみれの突撃槍を右手に携え、肉と血の中で立っている彼と命がどれだけ残っているかわからない少女だけ。これは彼が望んだ勝利ではない。本当はもっとうまくいくはずだった。もっとうまくできるはずだった。それができなかったのは経験が足りず、自分ひとりでできると思ってしまった慢心のせい。


「ここ、どこ?」


 ようやく意識を回復させたレティシアが上半身を起き上がらせ、首を振りながら周囲をうかがう。それだけで悠斗の心は決壊し、突撃槍をその場で投げ捨てて少女を抱きしめながら声をあげて泣く。事態を全く理解していない少女はしばらくされるがままだったが、彼の心情を汲み取ったように少ししてから彼の頭を撫で始めた。立場が逆だが、泣きじゃくる子供をあやす母親のように。


「ありがとう、生きててくれてありがとう。これから自分が君を守るっす。君が生きてて嬉しいって思えるように守るっす。だから、生きててくれてありがとう」


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