表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トリガーウィザード  作者: PON
第一章後編 24時間の攻防
31/45

act2-11

 フォーチューンの姓を名乗る魔法士を知らない者はおそらく魔法士にはいない。永久欠番で知られるシム・ディケルトに次ぐ特例中の特例として、半永久的にこの一族は序列十番台に名前を残し続けている。その証拠に名前を聞いただけで夜空とマルコは顔色を変化させていた。


「夜空さん、本物だと思いますか? 僕は実物を見たことがないんで判断できかねるんですが」


「自分から名乗ったというのだから、おそらく本物だろうな。曲がりなりにも魔法士なら、絶対に自分からフォーチューンの姓を名乗りたいとは思わない」


 シム・ディケルトが歴史的に類を見ない犯罪者と表現されるなら、フォーチューン一族は魔法士の世界において畏怖と軽蔑の感情を向けられる呪われた家系。初代と呼ばれるグリューネ・フォーチューンの生い立ちも特異だが、それが正しいものと信じ続けている異端中の異端。


「一旦引くぞ」


 夜空が地面に振動魔法を叩きつけて強制的に下の階層へと移動する。白夜がこの場所にくる前に見せてくれた設計図のおかげで大体の構造は把握している。事態を理解していない悠斗を半ば引きずる形で撤退。資料を見た段階で懸念はしていたがこの場所で彼女と戦うことは危険すぎる。魔法士として完成していない悠斗がいるのなら尚更。これは二人の予想だが、事実を知ってしまえば悠斗は戦うことができなくなってしまう。


「ちょっとお二人共、いきなりなんなんすか? どうしていきなり逃げるんすか? 自分はまだまだっすけど、お二人は強いんだからどうとでもできるんじゃないんすか?」


「不甲斐ないことだが、俺も彼女と戦うのはできる限り避けたい。新海君は知らないようだが、フォーチューン一族というのは簡単に相手取っていい相手じゃないんだ」


 周囲に彼女の気配がないことを確認してようやく呼吸を整え始めた夜空だったが、事態を理解していない悠斗から非難の声を受けてしまう。事情を知らない魔法士であれば彼と同じような反応をすることは分かっている。そんなことはわかりきっている。こちら側には序列の二位と八位がいる。戦力としてはこれ以上ないと言えるかもしれない。それでもフォーチューン一族を相手にするとなれば話が変わってくる。


「俺はできれば白夜だけでなく、君にもあの一族と関わって欲しくない。あれは魔法士の探究心が生み出した闇そのものだ。覗き込んだら二度と後戻りはできない」


 見なくて済むならそれが一番いい。そう判断しているからこそ夜空は悠斗に事情を説明できずにいる。だが、あっさりとマルコは彼が隠したがっていたことを口にしてしまう。


「フォーチューン一族はね、初代から今までずっと一度たりとも外部の血を取り入れていない一族。要するに近親同士で子供を作り続けている。こうすることで魔法士としての血が濃くなり、優秀な魔法士が生み出せると心の底から信じているんだ。それだけじゃない。彼らは子供が生まれないときは自分たちの細胞から人造生命体(ホムンクルス)を作り出して交配する」


これは一種の賭け。相手へ同情して戦えなくなってしまう可能性は十分にある。そうなった場合、困難を極めるが悠斗を守りながら戦うしかない。


「本当、何ですか?」


「ああ、本当だ。補足するのであれば、彼らは近親婚だけでなく一族以外の魔法士の細胞を取り入れることによって本来なら一人につき一つしか操りきれない属性を複数生まれつき操ることができる」


「ちょっと待ってください、近親婚しかしないのに他の魔法士の細胞を取り入れるっておかしくないっすか?」


 すぐに疑問が浮き上がってくる。夜空とマルコの話が正しいと思うからこそ、その闇に足を踏み入れなくてはならないと義務感に駆られて悠斗は先を促す。


「それがおかしくないんだよ。彼らは次の世代に自分たちの魔法を引き継ぎ、魔力許容量と放出量を肥大化させるために一部の体内機関を強化する」


「それってまさか」


 最悪な想像をしてしまう。間違っていて欲しいと心の底から思う。だがそれ以外は考えられない。その方法をとることでしか彼らは外部の魔法士の力を取り入れることはできないはずだから。


「ここですぐに答えを導き出せる君は実に優秀だ。おそらく君の答えであっているけど答え合わせをしておくよ。彼らは消化器官をいじる。人体は元々飢餓状態でなければ人間を摂取できないように体が作られている。それを消化器官をいじることによって飢餓状態でなくとも人間を受けつけるようにする。彼らは優れた母体を作り、他の魔法士の遺伝子を自分たちの一族に組み込むために魔法士を言葉通り、食べる。同胞を自らの餌とし、同族同士でのみ次世代を作る。それが正しいと信じて疑っていない。狂っているって言葉を投げつけても賞賛だと受け取る。それがフォーチューン一族」


 胃の中身は既に先ほど盛大にぶちまけたというのに嘔吐感がこみ上げてきた悠斗は、口を両手で抑えてその場に膝をつく。二人の言葉が真実だとわかるからなおさら正気を保ってはいられない。本当に狂っているものは生まれつき正気を持っていない。狂っていることが正常。


「どうして、どうして誰も止めなかったんすかっ。あの子みたいな子供が生まれないように損得勘定抜きでフォーチューン一族を潰すべきだったのに、どうして動かなかったんすかっ。魔法士連盟がそんなに怖いんすか?」


 悠斗の怒りは正しき怒りだ。心の底からそう思っているからこそ二人には彼の言葉が耳にいたい。彼だって目の前にいる二人が、自分にどうして事情を説明したくなかったのか今までの会話で理解できている。理解できているからこそ怒らずにはいられない。レティシアは魔法士の探究心と闇が生み出してしまった紛れもない被害者。そんな彼女と戦わなくてはならない。


「自分、頭良くないし、お二人よりも若造っすよ。でもこんな実力が足りてない下っ端の自分にも許しちゃいけないことぐらいわかるっす」


「どうするつもりだ?」


「どうするもこうするも、彼女を救うっす。いきなりフォーチューン一族をぶっ潰すっていうのは自分にはかなりスケールでっかい話なんで、後でみんなで相談するっすけど。今は目の前の彼女を救うっす」


「止めはしないけど、それは無理なんじゃないかな?」


 二人と会話して悠斗は実感する。魔法士として精神を完成させてしまった者はここまで自分たちと違っているのだと。今は別の場所で戦っているブルーバードの面々であれば、確実に二人のようなことは口にしない。


「お二人が無理だと思うなら、手伝ってくれなくても結構です。自分はひとりでも彼女を救うっす。ブルーバード魔法士事務所の人間に目の前の人間を見殺しにして喜べる人間なんてひとりもいないんすよ。それに、自分が知ってる白夜さんならお二人と違って絶対(・・)に感情を飲み込んで動きを止めたりなんてしないっす」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ