act2-4
さすがにこのまま女性陣を放って置くわけにはいかないので、声をかけようとする白夜だったがあまりにも白熱しすぎている女性陣は彼の声に気がつかない。それどころかその熱気に当てられてしまって彼も引け腰になってしまう。
「あのさぁ、婚姻届だ結婚だって白熱してるのは別にいいけど、俺がその婚姻届に記入と捺印しても役所側が受理してくれないってこと忘れてねぇ?」
白夜のその声で女性陣の動きが一瞬で氷結してしまう。油が刺されていない歯車のようにぎこちない音を自分たちで立てながら女性陣の視線が彼へと集中する。
「白夜、それは一体どういう意味じゃ? 妾にもわかるように説明してみよ」
「説明も何も、俺の現在の階梯が第四階梯って時点で気づくべきだと思うんだけどな」
魔法士序列一桁台の魔法士は一位である『蛇』を除いて全員が第十階梯という魔法士のトップに君臨する者たち。一夫多妻や一妻多夫という例外を認められているが、その例外をクリアするためにはとある条件が設けられている。それが階梯差二階梯までの婚姻である。婚姻を申し出る側の階梯と申し込まれた側の階梯差が上下二階梯以内でなければ婚姻は成り立たず、役所に提出したとしても認められない。
「だがお主は『蛇』であるが故に」
「『蛇』っていうのは俺のもう一つの立場であって、俺は皐月白夜っていう自分を捨てるつもりはない。半年に一回階梯昇格試験が行われてるから、順当にクリアしていったとしてもその婚姻届が正式に受理されるには最低でも二年かかる」
正論を縦にされたとあってはロンファもぐぅの音もでない。婚姻に関する条件は評議会が設立した時に制定されたものであり、これを改定するためには評議会での議決が不可欠。そう考えれば筆頭議席に座っている白夜の意見を尊重しようと動く人間が少なく見積もっても三人以上いるので、彼女がいくら主張したところで多数決になってしまえば意見が通ることはない。
「ついでに言っておくと、現段階ではヨシュアに漆原のどちらとも結婚する気はない」
「ちょっと白夜、それってどういうことさ? さすがの僕も今の言葉はサラっと聞き流せないよ。僕とは体だけの関係だって、純情を踏みにじるつもり?」
「私も納得できる理由が聞きたいわね。今の状況で一番有利な場所にいるのがヨシュア。彼女でも結婚できない理由はどこにあるの?」
白夜の言葉でロンファの心には自分がまだ付け入る隙があると喜びがさし、それと同時に彼にかなり近い関係であるふたりは憤慨で声を荒立たせる。ここで彼が誰かと結婚すると口にしてくれたのであれば不本意ながら納得せざるを得ない。だが彼はこの場所にいる三人の誰とも現段階では結婚する気がないと口にしている。異論が出ないほうがおかしい。
「だって俺の今の稼ぎじゃ養っていけねぇから。住む場所にしたって指輪にしたって、まだ探してすらいないし。今月分の給料で指輪どうしようかなぁって、兄貴に相談するつもりでいたし」
「うわぁ、白夜ってば現実的すぎるよ。女の子としてはたとえそう思ってたとしても、そういう時もうちょっと別の言い訳が聞きたいよ」
「大方、この男のことだから将来設計ができないうちはプロポーズすら期待するのが無理みたいね。どうしてもう少し冒険しようと思えないのかしら」
ヨシュアと伊月は彼の答えに不満しかないらしく、誰の目から見てもわかるぐらいに呆れてしまっている。
「いやいや、それは言い過ぎじゃねぇ? 俺だって一応俺なりの将来設計はできてますよ?」
「ちなみのどんなのさ?」
「二年以内に『蛇』じゃなくって皐月白夜で魔法士序列一位になる。そうすれば一夫多妻も金銭面もクリアできる。まぁ、これは俺だけじゃなくヨシュアや漆原に二年以内に第六階梯までがんばって昇格してもらわないとならないけど」
堂々と胸を張って口にした白夜だが、納得してくれたヨシュアとは違って伊月からはため息が返ってきてしまう。
「それはかなり難易度が高そうね。自分だけじゃなく私たちまであてにしている時点で計画としては破綻しているし」
「無理だとは思ってねぇよ。今の俺としてはヨシュアと結婚できれば万々歳なわけだし。ヨシュアから俺を奪うって堂々と宣言したんだろ? だったらやるしかないんじゃねぇの?」
そう言われてしまえば伊月としては引くに引けない。二年間のうちにヨシュアから白夜を奪い取らなければ彼女のプライドが許さない。それに、計画が破綻していると口にしたが彼に期待されて少しだけ嬉しいのも確か。
「つか、頼むから仲良くしてくれ。これからお前ら三人でチーム組んで動いてもらうんだから」
「「「チーム?」」」
「いや、そんな不思議そうに聞き返されても困るんだけどな。プランでいくと、男性陣には魔人相手に戦闘しながら注意を惹きつけてもらう。その間に女性陣には城の機動核を破壊してもらうつもりなんだ」
疑問符混じりに答えた女性陣が見事にハモったところを見ると、チームとしての相性は悪くないかもしれない。そんなことを考えながら白夜は三人に対して設計図を広げて、印の付けた場所を指さして説明する。
「この印付けてあるところが機動核って言って、あの城を動かすための魔法を発動するコアシステムになってる。それぞれ赤い印が浮遊システム、緑の印が『原子崩壊』の起動システム、青い印が制御システムって具合に。順番としては緑、青、赤の順に頼む」
「壊すのはかまわぬが、白夜はそれで良いのか? 曲がりなりにもこの城の作成者はお主であって、再び使いたいとは思わないのか?」
「昔は作ったら絶対に使ってやるんだって思ってたはずなんだけどな。正直、俺は作っただけで満足しちまったんじゃねぇかな? 壊しときゃよかったって後悔で今はいっぱいだよ」
白夜自身、あの城はもう二度と動くはずがないものだとばかり思っていた。当時の彼は純粋であったが故に城が武力として誰かに利用されると考えていなかった為、封印にとどめてしまった。壊しておけば今の状況になっていないと言われれば、彼は反論することなんてできない。この宣戦布告の一端を彼が担ってしまっているからこそ、自分の手で後始末をつけなければならない。
「そういえばあの城にはどうやって突入するつもりっすか? 白夜さんのことだから何も考えてないってわけじゃないっすよね?」
「当たり前だろ。作戦説明も終わったことだし、今から突入手段をお披露目してやるよ」
設計図を伊月へと手渡し、白夜が懐中時計を握り締めた右手を前方に向けて突き出す。それだけで戦車が目の前に出現したというのだから驚きを隠せない。馬は生物ではなく鋼で出来ており、車両の部分にもいくつかの防御魔法が見受けられる。こんなものを見せつけられて言葉を直ぐに口に出来る魔法士は存在しない。
白夜の属性はエネルギーや物質を創造する神属性。だがそれは一時的に作り出すだけで目の前の戦車のように存在し続けられるわけではない。
「これは『戦女神の蹂躙戦車』。あの城と同じように錬金術と俺の魔法を併用して作り出したもの。爺さんや婆様は錬金術と合成した俺の魔法を『神秘術』って名付けてたな」
白夜の説明を受けてようやくこの場にいる六人は彼に序列一位の座が与えられたのかを理解する。永久欠番のシム・ディケルトでさえ新しい魔法系統の確立には成功していない。それを八歳の少年が確立し、実用化してしまったというのだから当時の評議会であっても認めないわけにはいかなかったのだ。
「そんじゃぁ、世界を救いに行くとしますか」




