act2-2
評議会が開かれていた赤レンガ倉庫をあとにした七人だったが、白夜から作戦の説明を受けていない序列一桁台の三人は事情を説明して欲しくてたまらない。あの場所では避けたが、彼らは白夜がどうして序列一位の場所に座ることを許されていたかの説明を受けていない。
「白夜、作戦の説明もそうだが一つ先に聞かせて欲しい。どうしてお前が序列一位の席に座ることが許されているんだ?」
「シム、それは僕も聞かせて欲しいね。君が一位に座ることを許された人間だったことが分かっていれば、序列六位を君にぶつける必要もなければ僕が無駄に時間を浪費する必要もなかったんだから」
白夜の身近にいながら事情を一切説明されていなかった夜空とマルコが質問を当然の如くぶつけてくる。
「あの城が昔見た映画に影響されて錬金術を応用して俺が作ったもので、作ったはいいけど使い道ないからって封印してあったものだって信じられるなら教えるけど、実際のところどうよ?」
白夜の言葉を聞いて二人は少しの間だけ言葉に詰まってしまう。確かに過去、好奇心を刺激された彼はマルコの左目に義眼という形で生体同期型の魔導書を作成している。前例はある。だが、先ほど中継されていた建造物を少年がたった一人で作成したものだと言われてすぐに信じられない気持ちもある。
「お主は幼少期から色々な意味で突き抜けておったのだな。妾もあの城が出てくる映画を幼少期に見た覚えがある。それで、あの城を作成したことと序列一位の座が何の関係性がある?」
悩んでいる二人と違ってロンファは自分の体験からすんなりと城を作成したのが白夜だと認めてしまう。禁呪相当の魔法を自力で作り上げてしまうのだから、あの城を作り上げてしまっても何ら不思議はないと。
「演説にもあったように、あの城には『原子崩壊』って禁呪が魔力を注ぎ込むだけで使えるトンデモ装備が設置されてる。映画の中に出てくる城を忠実に再現できたって、うかれた俺があれを完成させたのは八歳。爺さんと婆様に褒めてもらえると思って見せたら、その足で当時の評議会に連れてかれた。そこで議題に上がって即座に可決されたよ。今になって考えてみれば、俺の将来性を見た奴さんたちは俺に首輪をつけておきたかったんだろうな」
八歳の少年が禁呪に到達し、それを汎用化にまで至らせる技術を有しているとなれば誰だって権力者たちはこぞって手駒にしたいと考える。手元に置いておけば人類に対する大きな抑止力になる。そう考えた当時の評議会は未来ある少年の成長を願うという建前で一位の座を与えておきながら、序列一位を空座とした。早期に人類側に気づかれては幼い少年が消されてしまう可能性が出てくる。それをさせないと取った対策が、まさか別の意味で戦争に対する切り札になるとは当時の評議会メンバーの誰ひとりとして予想してはいなかっただろう。
「一応『蛇』っていう架空の魔法士が序列一位で、俺の序列は今までどおりってことになってる。序列一位に戻ってもそれだけは譲らないって言ったら、さっきの二人はあっさり納得してくれた。理由はわからんけど」
魔法士として完成している子爵夫妻だが、彼らとて人間としての感情が欠落しているわけではない。彼らはたとえ血が繋がっていなくても白夜のことを序列一位の魔法兵器を作り上げた天才ではなく、孫のように思っている。だから当人に理解されずとも最低限の自由だけは保証してあげようと考えているのが理由だろう。
「ああそうだった。忘れると悪いから先に聞かせてくれ。ロンファ、お前は俺に力貸す代わりに取引として何を要求したいんだ?」
「別に高価なものでも、時間がかかるようなものではない。この紙にお主の名前と印鑑を押してくれればそれだけで済む」
ロンファがバッグから取り出して白夜に渡した紙を見て、彼以外全員の表情が一瞬で凍りつく。この状況下で彼女が取り出したのは婚姻届。しかも自分が記入する欄はすでに埋まっており、あとは白夜が記入さえすればすぐにでも役所に提出できる状態。
「この状況で冗談口にできるって、序列六位って随分と余裕があるんだね。いいこと教えてあげるよ。白夜には僕っていう立派な恋人がいるんだ。この僕を差し置いて結婚なんて神が認めたとしたって僕が絶対に認めない」
「こういうことは早い者勝ちというのが定説。実際にお主らは結婚していないのだから問題はなかろう?」
「大アリよ。悪いけど皐月、いいえ、白夜は私がヨシュアから奪う予定なの。こういう状況を盾にとって汚い取引に出るのはやめて欲しいものね。それとも、こういう取引を使ってしか白夜を落とす自信がない?」
それが当たり前だと言わんばかりに女性陣は当事者の白夜を置いてけぼりにして口論に発展してしまう。
「白夜さん、一体どうやってあの男性嫌いの序列六位を落としたんすか? 今後の参考に是非とも聞かせて欲しいっす」
「なんの参考にするつもりだよ、ったく。普通にお見舞いに行って世間話したぐらいしか俺には覚えがねぇよ」
「くっ、これがモテブルジョワと一般人の埋めようのない差だとでも言うんすか。神様って奴はやっぱ不公平っす」
自分が当然だと思っている行動が相手にしてみれば当然ではないということはよくあること。そのことを理解していない白夜にしてみれば、どうして自分のような人間にロンファが好意を寄せてきたのから全く理解できていない。外見だけ見れば絶世の美女と表現しても遜色ない彼女に自分では釣り合いはしないだろうと、見当違いのことを考えてしまう。
「うちの弟はいつの間にか一流フラグ建築士になってしまっていたらしい。マルコくん、これは周囲の人間に弟が好かれているのだと、兄として喜ぶべきだろうか?」
「喜ぶだけじゃなく、僕としては周囲に寄ってくる人間を牽制してくれればもっと助かるんですけどね」




