act1-20
誰もが目を疑う状況。先程まで見えていた風景が一変し、目的を奪い去られてしまった者たちは言葉を口にすることも現実を直視することもできずにいる。それなのに、世界はその心情を汲むことなく回り続ける。
「魔法士諸君、ご機嫌いかがだろうか? 我が名はグレゴリオ、グレゴリオ・ハーベント。魔法士序列において十三位を頂きし者だ」
どこからともなく響いてくる声。気づけばその声の発信源はすぐそばにあった。全世界同時に発信しているである映像と共に、東京二十三区の前に集った魔法士たちの頭上。そこにはフィクションでしかありえない巨大な建造物、空中に浮かぶ城が存在していた。
「諸君らに私は問いかける。現状で諸君らは満足か? 人の役に立とうと動き、死地に赴く諸君らに向けられるものは精神を奮い立たせる言葉でも感謝の言葉でもなく罵詈雑言。有り余る力の使いどころはどこにある? 諸君らに問おう。このまま人類に屈する立場のままで満足か? 否、断じて否のはずだ。我々魔法士の歴史は虐げられてきた弱者の歴史でしかない。その歴史に変革をもたらすときが来たのだ」
響いてくる声に魔法士たちの心は揺さぶられてしまう。この言葉が自分たちの心を犯していく毒だと知っているのにも関わらず耳を塞ぐことができない。自分たちの存在意義がどこにあるのか揺れてしまう。
「私は諸君らを歓迎しよう。虐げられし魔法士を歓迎しよう。この城には十年もの間東京二十三区で吸収してきた魔力が蓄積されている。戦うための準備もできている。我々は勝てるのだ。この城を中心として自分たち、魔法士としての国を作り出すことが今可能なのだ」
心が掴まれる。今まで魔法士たちは人類に牙を剥こうと画策すれば、行動を起こす前に数という暴力で無力化されてきた。早期に鎮圧しなければ自分たちの手に負えなくなってしまうという人類の恐怖によって弾劾されてきた。それを終えた場所があり、自分たちの優位性を人類に示すことができるという甘美な言葉。逃れられない誘惑と飛び込んでしまいたい衝動。
「最悪だな、この状況」
白夜は空中に浮かぶ城を睨みつけながら言葉を吐き出す。
今まで魔法士たちが人類に対して面と向かって宣戦布告したことは一度もない。だがそれは魔法士たちの不満が人類に対して向かっていないということと決してイコールではない。過去に世界各国で起きていた人種や階級による差別など生ぬるいとしか判断できないレベルで魔法士に対する偏見や差別は大きい。
「我々を虐げてきた人類よ、報いを受ける番が来たと口にしておこう。先ほど使用したのは禁呪『原子崩壊』。効果は説明せずとも、この東京二十三区が証明してくれている。この城には今説明した禁呪を百回以上使用できる程の魔力が蓄積されている。加えて、この城の周囲には魔法以外の攻撃を全て無力化する防護障壁が何重にも張り巡らせてある。これで少しは絶望がどのようなものが理解できただろうか?」
顔が見えていなくてもグレゴリオの表情が嬉々としていることは伝わってくる。今まですることができなかった宣戦布告、手にすることができなかった準備期間。人類に対して戦争を一方的に仕掛ける準備が既に出来てしまっている。
「だがこれではまだ生ぬるい。そう思った私は、人類だけでなく私に愚かにも歯向かおうと考える魔法士にも従属するしかないと思わせるものを用意した。見るがいい」
空中に展開された魔法陣から飛び出してきた映像は隕石。それが地球へと向かってきている映像と、到達するまでの予測時間まで表示されるというおまけ付き。
「この隕石は見ての通り地球へと向かっている。一日でこの地球に衝突する。これは決して免れられない。氷河期が再び始まり、人類の文明は終わりを告げる。そして、それを阻止することができるのは、この私だけだ。理解しろ、人類。貴様らは既に戦場に立つことなく敗北しているということを」
グレゴリオの言葉が真実であるなら、戦うことなく勝敗は決してしまっている。対策を考えるにしてもうつにしても二十四時間という時間は短すぎる。正常な判断力を奪われた状態ではなおさら打開策など考えつくはずもない。最悪、話し合いの結論を出す前に隕石が衝突することだってあり得る。
「結論を出して死ぬか、結論を出さずに死ぬか。それとも命押しさに隷属するか。好きに選ぶがいい。心配せずとも、私に賛成の魔法士諸君はこの城へと避難することを約束しよう。私は今この瞬間に引き金を引いたのだ」
高笑いとともに城が視界から消えていく。
後から襲ってくるのは収まりようのないパニック、暴動。人間と魔法士の両者で明確な溝が誕生し、対立する構造が今の演説によって形成されてしまっている。戦争などという生易しいものではない。これは一方的な虐殺宣告。大半の魔法士がグレゴリオの意見に賛成してしまうことを考えれば人類側に打つ手はない。隷属するしか生存の選択肢は残っていない。
「なぁ、こんな状況になっちまったんだけど、お前らの命、俺に預けてくれるか?」
恐怖で歪んだ声や怒りに身を任せた叫びが飛び交う中、先程まで城が見えていた場所を見上げながら白夜は何気なく口にする。その言葉は大きなものではなく、周囲の雑音にすぐさま飲み込まれてしまうものだった。それでも、問いかけられた三人の耳にはしっかりと届いている。
「白夜さんが何考えてるのかわかんないっすけど、自分は命預けるっす」
「僕も預けるよ。即答で悪いけど、白夜となら一緒に死んでもいい」
「二人と違って私は即答しないわ。でも、あなたが本当に私の力が必要だっていうのであれば、命だけでなく力も預けるわ」
「お前らやっぱ最高だわ」
三者三様の答えが返ってきて白夜は楽しげに空へ向かって右手の人差し指を向ける。
「グレゴリオは人類に対して引き金を引いて戦争、もしくは人類の従属って結果を願ってる。だったら俺らはグレゴリオに対して引き金引いて、仮初でも平和ってやつを勝ち取ってやるしかねぇだろ」
Go to next stage ?




