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トリガーウィザード  作者: PON
第一章前編 神無月の停滞
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act1-11

「やぁ、久しぶりだね。僕に会いに来てくれたんだよね? 嬉しいなぁ。それじゃ早速僕の部屋でゆっくりと二人の今後について語り明かそうじゃないか。何、心配はいらないよ? 僕の部屋は最上階のスイートルーム。君を招くのにお金をケチっていたら日本風に言えばバチが当たるからね。最近流行りのジャパニメーションもたくさん用意しておいたんだ。今夜は、寝かさないよ?」


「頭痛くなってきた」


 ホテルのロビーに到着するなり両手を広げて抱きついてこようとする男性を見て、白夜は頭痛を訴え始めてきた頭を右手で軽く支える。


 軽いパーマのかかった茶色の髪に隻眼の青い瞳。身につけているのは彼用にオーダメイドされたスーツで清潔感もあるというのにどこか軽いノリを感じさせるのはなぜだろう。エリシアが一礼しているところを見れば、これが彼女の主なのだろう。その場にいる三人は素直な感想を口にできるはずもなく閉口してしまっている。


「一応紹介しておくけど、こいつがバルベリオス・アロンダイト。魔法士序列二位にして評議会筆頭補佐官」


「相変わらずつれないなぁ、君は。僕のことはいつもどおりマルコって呼んでくれていいのに。でも僕はわかってるよ。照れているんだろう? ふふっ、前回の来日で僕は日本の多くを学んで帰ったからね。わかってるよ、君は僕が喜ぶようにツンデレに磨きをかけてくれたんだ。ああ、僕のことをこんなにも思ってくれる友人がいるなんて僕は世界で一番の幸せ者だぁ~」


「マジでウゼェ」


 抱きしめようと伸ばした両手が空を切り、その背後でため息をついている白夜。彼とエリシアは長い付き合いから目の前の人物の性格と行動を把握しているが、他の三人は初対面。自分勝手にイメージしていた偶像がわずか数秒で音を立てて崩れている。


「申し訳ありません白夜様。我が主は久しぶりの対面で少しばかりテンションが高いのです」


「これで少しって、普段がどんなのか想像したくないな。でもまぁあんたがいてくれて助かったよ、ゲオルグ」


 自分の主であるマルコを背後から羽交い絞めにして礼儀正しい言葉を投げかけてきた初老の男性を見て、白夜はもう一度ため息をつく。ゲオルグ・マーケンス。バルベリオス・アロンダイトに使える従者筆頭であり、彼にしてみればマルコの従者の中できちんとした常識と判断力を持っている人物という認識がある。


「本日は忙しい中お呼び出ししてしまって申し訳ございませんでした。私はゲオルグ・マーケンス。マルコ様の執事をさせて頂いております。白夜様、このような状態で見苦しいとは思いますが、よろしければそちらの方々の紹介をしていただけないでしょうか?」


「ああ、悪い。そいつのせいですっかり忘れてた。こいつらは俺の仲間で右から順に新海悠斗、漆原伊月、ヨシュア・ヴァレンタイン。今ふと思ったけど、後輩に元カノと今カノってすごい組み合わせだな」


「なかなか楽しそうな方々で何よりです」


「世辞はいらねぇよ」


 ゲオルグが本心から口にしていると分かっているからこそあえてそっけなく白夜は答える。そんな彼を微笑ましい表情で見ていたゲオルグだったが、すぐそばにいるエリシアに対して指示を飛ばすことを決して忘れはしない。


「エーレンベルク、あなたは静観していないで皆様を会場にご案内してください。どのような感情を抱いているのかは知りませんが、マルコ様の従者として恥ずべき姿を晒すべきではありません。私も白夜様をご案内したらそちらに向かいますので、それまで頼みましたよ?」


「失礼致しました」


 ゲオルグの言葉は正論であり、エリシアは反論することよりも先に謝罪を口にする。自分の感情よりも主人の行動を第一と考えて行動するのが従者であり、それこそが彼女の存在意義。


「少しは落ち着きましたか、マルコ様?」


「まったくゲオルグ、君ってやつはいつまでたっても僕のことを子供扱いして。いい加減僕も子供じゃないんだから自制することぐらいできるって。さっきはシムに久しぶりに会えて感情が高まって抑えきれなくなっただけだよ」


「それが自制できている方が口にする言葉とは到底私には思えませんな。子供でないとおっしゃるのであれば弁解しているつもりで墓穴を掘っているということに気づいていただけると幸いですが?」


 自分の本来の仕事を思い出して三人を案内し始めたエリシアを確認し、ようやく拘束を解除したゲオルグだったがさすがは従者筆頭。自分の主を教育することを忘れてはいない。そんな彼らの視線を逃れるよう白夜が去っていくヨシュアに耳元で囁いたことは誰の目にも映っていなかっただろう。ただ、囁かれた側が彼の頬に軽く口付けして足早い去っていったことは視界に嫌でも入ってしまう。


「くっそ、あの女め。シムの恋人だからっていい気になりやがって。人目も憚らず僕のシムにフレンチキスだなんて淑女の風上におけないじゃないか。街灯のない夜道では背後に警戒しておくように忠告してあげないと」


「マルコ様、男の嫉妬は見苦しいだけですぞ?」


 ゲオルグが諭そうとするが頭に血を登らせてしまっているマルコの耳には彼の言葉が届いていない。ふざけた言動が目立つ彼だが立場は魔法士序列二位。一度暴れだせば彼の行動を阻害できる人物は少ない。ゲオルグがさらになにか言い聞かせようとするよりも早く、彼の行動を制限できる人物が口を開く。


「一つ大事なことを言い忘れてたが、ヨシュアは勿論のこと、悠斗と漆原にも手は出すなよ。これはお願いじゃなくて警告。この言葉の意味がわからないほどバカじゃないと俺はお前のことを思ってるんだが、わかるよな?」


「ははっ、当然じゃないか。ジャパニーズジョークってやつだよ、シム」


 突然の空気の変化にゲオルグは主と白夜の間に自分の体を割り込ませ、咄嗟に乾いた笑い声を上げてからマルコは言い訳を口にする。白夜がスーツのポケットから懐中時計を握った状態で右手を出したことが全てを物語っている。マルコは知っている。魔法士序列二位である自分であっても彼と戦えばただでは済まない。逆鱗に触れるなどもってのほか。今は多少イラついているだけの彼だが本当の意味で怒ればプレッシャーはこんなものではない。魔法を使っていると認識されるよりも早く相手を自分の掌の上で躍らせることが目の前の人物は可能なのだ。


「はぁ、くだらないことで怒らせんなよ。こっちはただでさえ徹夜明けでピリピリしてる状態の上にお前んところのメイドが隠してたことをペラペラ口にしたおかげで導火線短くなってんだから。不用意な一言は冗談抜きで寿命縮めるぞ」


「寛大な処置に感謝致します」


「別にあんたに頭下げてもらうほどのことじゃねぇよ。まぁ、悪いと思ってんならそいつの代わりに現状ってやつを教えくれよ。こっちは何も知らねぇんだ」


 白夜の言葉を受けてゲオルグがすぐ近くのテーブルの上に置いてあるカバンを持ってきて開き、資料を取り出して彼に対して手渡す。クリップで止められた分厚い資料を何枚か斜め読みしている途中で彼の右手が動き、曲線を描きながらマルコの頭頂部にげんこつを叩きつける。


「痛いよ、シム。せめて、いったい僕が何をしたっていうのか説明してから手を出してくれないかな。はっ、それともこれがツンデレの境地ってやつかい? いやはや他の誰でもない君に認められるっていうのは気分が実にいい」


「その幸せすぎる脳みそをそう取っ替えしてきたら褒めてやるよ。俺は前にも言ったはずだがお前は聞き流してたみたいだからもういっぺん言ってやる。連続使用は魔導書に負担がかかりすぎるから必ずインターバルをおけって何度言った? どうしようもない事態に陥る前に対策を講じろって口を酸っぱくして言わなかったか?」


「言われたような、言われてないような」


「ゲオルグ、コイツの再教育を頼んでもいいか? あんただってコイツが自滅するのは望んじゃいないはずだ。でも今のままで行けば必ず自滅する。頭でわかんないなら体に叩き込んでやってくれ」


「承りました。仕事も大事ではありますが、我が主の健康が再優先事項なことに変わりありません。心を鬼にして徹しさせて頂く所存にございます」


 一礼したゲオルグが二人を案内するべく移動し始めたので白夜とマルコもそれに続く。移動している最中も白夜は資料から目を離すことなく、今度は斜め読みではなく一枚ずつ資料の内容を頭の中に叩き込んでいく。


「それにしてもシム、僕が魔法連続使用したなんてよくわかったね。やっぱりこれが愛のなせる技ってやつかな? ああ僕は片時も君のことを忘れたことなんてなかったけど君も僕のことを考えていてくれたなんて。先程嫉妬に狂いそうになった僕を叱りつけてやりたいよ。僕はシムにこんなにも愛されているのに何を不安に思っているのかって」


 隣でいつもどおりのテンションで大げさに口にするマルコの言葉は右から左へ。集中しているときの白夜は自分の世界を確立し、他人との接触を極力避けているので彼が何を口走っていようと記憶の片隅にも残りはしない。


「やっぱり生体同期型は魔力蓄積値がネックだな。きちんと仕事終了時にゲオルグにチェック頼んでおいて正解だった。解決策は考えちゃいるがどれもこれも実装段階にこぎつけない。はぁ、どうするべきか」


「意外ですな。白夜様でもお悩みになられる問題があるなど」


「人を化物や天才扱いするなよ。解決できない問題があれば悩むなんて当然のことだろ。ただでさえ最近は自分の馬鹿さ加減を省みないといけないようなことがあったし、有頂天になって転げ落ちましたなんてシャレにならん」


 本当に意外そうにエレベーターのボタンを押してから口にしたゲオルグに対し、心外だと言わんばかりに白夜は答える。何も知らない人間からしてみれば彼は彼が口にしたとおり化物や天才として人々の目に映る。だが彼は決して才能だけでその場所に上り詰めたわけではない。目の下のクマが証明しているように自分の時間を削って努力した対価として今の場所に立っている。


「さすがは僕のシム。普通は強さと引き換えに弱さを捨て去ってしまうっていうのに未だ自分の中の弱さを認識できるんだから。ああやっぱり僕の判断は間違ってなかった」


「お前の判断は間違ってばっかりだと俺は思ってるけどな」


「ツンデレ具合にも磨きがかかってる。そんな君だからこそ僕はあるべき場所に立って欲しいと願ってやまないわけだ。心配することはないよ。僕は世界を敵に回したとしたって君の唯一の味方であることを誇りに思える人間だから。その証拠に今回は特別ゲストもお招きしてあるんだ。大丈夫、彼女がたとえ首を横に振ろうとしても僕が全力をもってして縦に振らせてみせる」


「お前、今なんて言った?」


 マルコの独走ぶりを白夜は嫌というほど痛感している。今回の来訪もどうせそれ絡みだと少なからず懸念はしていた。それでもここまで予想の斜め上の行動を捉えてしまえば打つ手がない。彼は確かに彼女と口にした。そうなってくると人物を特定することは簡単にできてしまう。現在の魔法士序列一桁で女性は三人。内一人は面識がないため判断できないが、一人は面識があり、マルコと違って常識や良識を兼ね備えている人物なので白夜の意思を尊重してくれている。そうなってくれば思いつく人物は一人に限定されてしまう。


「魔法士序列六位フェイ・ロンファをこの場所に招いたことを言っているのさ。評議会のジジババからも彼女の男性差別主義をどうにかして欲しいって、何度も打診されてるから一石二鳥だと思ってね。彼女もシムの素晴らしさに気づけば魔女主義なんてくだらない思想はすぐさま捨て去ってくれると僕は確信してるんだ」


「ゲオルグ、六位の到着予定時刻は?」


 問われて腕時計を確認しようとしたゲオルグだったがその動きがエレベーターの停止で強引に止められてしまう。それだけで白夜は理解してしまった。


「予定時刻には早いようですが、到着されたみたいですな」


「言われなくても今の衝撃でわかったよ。それにしたってタイミング的に最悪だろ。どうしてこう誰もが急展開を望むかなぁ」


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