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トリガーウィザード  作者: PON
第一章前編 神無月の停滞
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act1-10

 シム・ディケルト。

 魔法士であれば誰もが知っている魔法士序列における永久欠番と称えられている第四位。『失われた天使の七日間』を引き起こした大罪人にして、現代魔法の父とすら呼ばれている天才にして変態といえば誰にだって通じてしまうことだろう。


「一応血縁関係的に行けば曾祖父さんって形になるらしい。面識なんてないけど血縁者だってバレるといろいろな場所で面倒事が発生するから黙ってただけだよ」


「白夜さんって結構複雑な境遇にいたんすねぇ」


 女性陣がメイクで席を外しているうちに、一応悠斗にだけは自分とシム・ディケルトの関係を話しておいた白夜だがその両肩を大きく落としていることからかなり知られたくない部類の情報だったらしいことが見て取れる。


「第二位とはとうやって知り合ったんすか?」


「言ってなかったけど、俺は中学入る前まではドイツの片田舎で生活してたんだ。そんで、あいつとは不本意ながらご近所どうしでの付き合いってやつがあって知り合った。俺の人生における割と早い段階での失敗の一つだよ」


「失敗って。そんなこと言ったら怒られるんじゃないっすか?」


「それがあいつ、皮肉を皮肉として理解してくれねぇんだよ。最近は日本のアニメにでもはまってんのか、「君はツンデレってやつだね?」なんて言われた時には蹴り入れてやろうかと思った」


「結構苦労してるみたいっすね。でもどうして襲名を拒んでるんすか? 襲名したいって人間は山ほどいると思いますけど、拒む人間がいるってのは自分初耳っす」


「そうだね、それは僕も聞きたいかな」


 そんな時メイクを終えたヨシュアと伊月が戻ってきて会話へと加わってくる。


「漆原、お前は襲名条件って聞いたことあるか?」


「聞いたことはあるけど、詳しくは知らないわ」


「あっそ」


 そこで大きくため息をついて立ち上がった白夜は仕方なく説明を開始する。どうせこの後も同じ車で移動することが確定しているので逃げ場所なんてもうどこにもなくなってしまっているのだ。


「シム・ディケルトの遺言らしくってな。それが事実なのかは俺も知らないけど、魔法士連盟は犯罪者に成り下がったとは言え、それまで魔法発展に貢献した彼の功績を称え、魔法士序列四位を永久欠番とした。条件を満たした上で魔法士序列一桁の人間三名以上からの支持を得ること。そいつが襲名条件ってやつ」


「その内容はなんなんすか?」


「シム・ディケルトが提唱した理論を最低二つ実用化に成功すること。彼が考案した魔導書を完成させることの二つです」


 悠斗の問いに答えてくれたのは白夜ではなくエリシア。なぜか胸元から取り出した懐中時計の蓋を開けて時刻を確認した彼女は、何事もなかったように元の場所へと戻して話を進める。


「既に白夜様は条件を満たしている上に我が主と兄君、二人の魔法士序列一桁と友好がございます。序列二位である我が主が説得に動けば首を横に触れる序列一桁は知れている。いつでも襲名は可能だというのに拒み続けている理由、私としても皆様と同様に興味がないとは言い切れません」


 魔法士の序列とは強さの順位でもある。そしてエリシアの主は魔法士序列二位。彼に逆らえる魔法士など片手の指でも余るぐらいしかいない。襲名を満たす条件は既に整っている。首を横に振る理由がない。そう考えているからこそ彼女には白夜が首を縦にふろうとしない理由がわからない。


「魔法士序列一桁は魔法士連盟のトップである評議会の参加と第十階梯の取得が義務付けられてる。要するに、魔法士でありながら魔法士を管理する立場に立たなくっちゃならないわけだ。俺はそんな面倒な立場になるのやだし、魔法士連盟に首根っこ掴まれて束縛されるのなんて死んでもゴメンだね」


「襲名と同時に永久欠番を手に入れる栄誉に権力と交換と思えば、それほど悪いようには私には思えませんが?」


「そいつは価値観の相違だろ? 俺にとっちゃ栄誉や権力なんかよりも今の生活続けることのほうがよっぽど価値がある」


 エリシアにはわからない。彼女の中で魔法士は誰だって自分の序列における順位を少しでも上にあげたいと考える。魔法士は知識欲と自己顕示欲の塊に近い存在。そのイメージは世間一般のものと近い。それなのに他の三人がため息混じりに納得したような表所を浮かべていることが面白くない。


「まぁ、あなたのことだからどうせそういう理由だと思ったわ。他人から見ればくだらないと一蹴されるようなものでも、私だって譲りたくないことがあるから。今回に限っていれば私はあなたの考えを否定はしないわ」


「白夜は誰かに飼い慣らされるってタイプじゃないし、なんていうか組織で動くってことに抵抗を覚えるタイプだしね。まぁ襲名したい人たちには悪いけど、君がそうしたいって言うならそれが君にとっての正解なんだろうね」


「自分は難しいことはよくわかんないっすけど、すっごい権力や山のようなお金と比べても今の生活を取れるってかなり勇気がいることだと思うっす。それに、今の生活には当然自分らも含まれてるわけっすから、ちょっと嬉しいっす」


「お前ら、恥ずかしいこと堂々とよく言えるよなぁ」


 軽口をたたいて視線をそらす白夜を見て三人は同時に理解する。この動作をする時の彼は大概照れていてそれを必死に隠そうとしている。本心では嬉しいと思っても素直に口には出せない面倒な性格であることを彼らは知っている。だがそれを知らないエリシアから見れば、四人の間には確かに絆と呼べるものが存在していることだけは理解できる。その絆を捨て去ることができない彼らを子供だと判断してしまっている。


「我が主がお待ちです。移動しましょう」


 心に僅かに芽生えた嘲りと嫉妬が見破られないようにエリシアは先導する。いつまでも一緒にいられるわけがない。天才は並び立たない。強者は並び立たない。それゆえの孤独。彼らがどれほど足掻こうとも現実は容赦してくれない。いずれ思い知らされる時が来る。白夜と自分たちがどれほど違う場所に立っているかを理解したとき、彼らはようやく大人になることだろうと疑わず。


「天才と凡人では超えられない壁、溝が存在します。いずれあなたがたも理解することになるでしょう。魔法士序列というものが存在する限り、私たち魔法士は常に優劣をつけられ続けて生きていかなければならないのですから」


 抑えていたはずの感情が言葉となって口から出てしまう。エリシアとしては失敗以外のなにものでもなく、慌てて口元を抑えて非礼を詫びるようにその場で大きく一礼する。


「他人が作った枠組みの中で生きなきゃならないのは今に始まったことじゃない。でもな、俺もそうだけどあいつもきっとおんなじことを言うと思うぜ? 俺たちは籠の中で飼われてる鳥じゃない。その中でしか生きられないって言うなら、その場所を自分にとっての楽園にする努力は惜しむべきじゃないってな」


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