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第二章 ~今日もお城は平和です~

エンピスの王女が城に住み着いて七日が経過した。城内は突然現れた異分子にも慣れ、落ち着きを取り戻しつつある。触らぬ神に祟りなしというわけではないだろうが、良くも悪くも積極的に関わろうとする者が居なかったのが要因だろう。

──しかしどうにも、王女様にはそれが不満だったらしい。

「退屈です」

挨拶もせず無遠慮に上がり込み、政務に取り組んでいたアールマンの前に仁王立ちしながら、件の王女様は口を尖らせていた。

「退屈です」

同じ言葉を繰り返すエンピス王女──セリス・エンピスに、溜め息を吐きつつアールマンが返す。

「見ての通り俺は仕事中だ。退屈なら本でも読んでいろ。一部ではあるが書庫の使用許可は出しただろう」

実はセリスが「退屈」と言い出したのはこれが初めてではない。最初の二日は魔族を警戒していたのか部屋の中で大人しくしていたのだが、三日辺りで慣れた──もしくは大人しくしているのに飽きた──らしく、今日と同じようにアールマンの執務室に乗り込んできて同じように「退屈です」と訴えてきたのだ。

勝手に居着いておいて厚かましいと思いながらも、好き勝手に動き回られるよりは制限付きの自由を与えた方が幾分か良いだろうと、書庫の一画──娯楽用に設けられた小説などを並べてある部分──の利用を許可したのだが。

「行きましたけど……」

「うん?」

「少女趣味過ぎて私には合いません」

「あー……」

確かにあそこにある娯楽用の本の大半は少女的というか乙女的というか、とにかく甘い内容のものばかりだ。城の者でも利用者は少ないのだが、一部の魔族には癒しの場となっているらしい。噂ではリィンも足繁く通っているというが、あくまでも噂であるため真偽は不明。

「だがな、ここには他に暇を潰せるようなものは無いぞ?政治の中枢だからな。お前は立場の問題もあるから、迂闊に外に出すわけにもいかん」

国王であるアールマンが留まることを許可したからといって、セリスは正式な客人となったわけではない。むしろ積極的に表沙汰にできない微妙な立場にある。それに加えて、城の中にはセリスをエンピスの間諜ではないかと疑う者も少なくない。さすがにそれを表立って口にする者はいないが、そういった者も居る中堂々と歩き回られるのは非常に困る。

「むー」

木の実を詰め込んだ栗鼠のように頬を膨らませる。仮にも王女だろう、とアールマンは溜め息を吐く。

筆を置き、書類の束を脇に避けて腕組みをする。

「とりあえず希望を言ってみろ。外に出る、機密の多い場所に立ち入る以外でな」

こちらから提示したものを却下されて時間を無駄にするよりは、要望を聞いて妥協案を出す方がまだ楽、と思っての発言だったのだが、その提案にセリスは予想以上に食いついた。

「侍女さん!」

「は?」

目を爛々と輝かせて身を乗り出され、アールマンは椅子ごと後退りする。

「侍女さん? ……とりあえず聞くが、侍女がどうした」

興奮気味の王女に詳細を求める。正直、嫌な予感がするから聞きたくない。

「侍女さん、やりたいです! お料理したり、お掃除したり!」

嫌な予感とは当たるもので、ほぼ予想通りの答えだった。

「つまり、働きたいと?……まさか、それを許可すると思ったのか?」

「駄目なんですか?」

「駄目に決まってるだろう……」

本人が希望しているとはいえ、他国の王族に下働きのような真似をさせるわけにはいかない。ただでさえ扱いの難しい立場なのだ。そう簡単に頷ける話ではない。

「むー」

再び栗鼠の様に頬を膨らませる。

……前から思っていたがこの王女、精神的に幼いというか、子供っぽい。

「他に案が無いなら部屋に戻れ。こっちはいつまでもお前の相手ばかりしていられないんだよ」

椅子に座り直し、横に避けていた書類を引き戻し書名と押印をしていく。

もう話す気はないとばかりに仕事に戻ったアールマンを睨み付け、「ふん!」とセリスは部屋から出ていった。

「はぁ……」

明日も来るな、あれは。

──やはりというか何というか、セリスは翌日も同じようにやって来た。そして同じように要望を出し、同じように追い返される。

さらに翌日、そのまた翌日も同じようにアールマンの部屋に乗り込み、同じように追い払われる。

流石に辟易としてきたアールマンは、またしても懲りずに現れたセリスに訊いてみた。

「なんでそんなに侍女の真似事がしたいんだ?」

今までと違う反応が返ってきたのが意外だったのか、セリスは一瞬静止し、目を瞬かせる。

「魔王さんが定型文以外の言葉を……。仕事のし過ぎでお疲れですか?」

「よし分かった、この話はこれで終わりだ」

疲れているのに違いはないが、それも誰のせいだと思っているのか。

「あ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

セリスが机の向こうから身を乗り出してアールマンの胸ぐらを両手で掴んでくる。襟が閉まって呼吸が止まる。

「ぐ……、待て、分かった、聞くから、離せ」

「あ……ごめんなさい」

手を離して目をキョロキョロと忙しなく動かせるセリスに、子供か、と嘆息して話を促す。

「えーとですね、私、こう見えて箱入り娘なんです」

心中で「だろうな」と呟くアールマン。常識知らずな所とか、時たまに飛び出す幼い言動とか、思い当たる点は多々ある。

「お父様は甘やかしてくれるけどお仕事で忙しいし、お兄様はたまに遊んでくれるけど、やっぱりお仕事で忙しいから、普段相手をしてくれるのは侍女さん達くらいだったんですよ」

エンピスの国王は良くも悪くも積極的な国政を行うことで有名だ。そうそう暇は取れないのも頷ける。その跡継ぎとなる王子も同様だろうが、妹との時間を捻出できる辺り、やはり優秀なのかもしれない。

「お兄様から『侍女たちと遊ぶのはいいけど、邪魔をしたり仕事を奪ったりしてはいけない』と言われてたから我慢してたんですけど、何ていうか、見てるだけってつまらないじゃないですか。だから怒る人のいない今のうちにやってみたいな〜って」

えへへ、と照れ臭そうに笑う。

セリスの言うそのやってみたいという感覚はアールマンも抱いた事がある。幼馴染と一緒に真似事をしたこともあった。だから、というわけではないが、しばらく考える素振りを見せたあと条件付きで許可を出した。

それから二日後の早朝、食堂の一画に普段は見ることのない三人の姿があった。

一人はアールマン・ハイトン。頬杖を突きながら、眠たそうな半眼で欠伸を堪えている。

もう一人はリィン・ツァンバ。いつもの軽装にいつもの無表情でアールマンの正面に座っている。ほんの少しだけ身に纏う空気が硬いのは気のせいか。

最後の一人、セリス・エンピスはリィンの隣で落ち着きなく座している。その服装は普段着ているふわふわした衣装ではなく、城で働いている侍女たちに支給されているものと同じ衣装だ。

今日はセリスの侍女〝体験〟の日。

三人はもうすぐやって来るはずの侍女長を待っていた。

「…………ふぁ」

「…………」

「わくわく」

この城の使用人は大きく分けて三種類存在する。

まずはセリスが体験する侍女。女性のみで編成されている彼女たちは細かい事に気がつくとして重宝され、洗濯や掃除、怪我人の手当てから植木の水やりまで、その仕事は多岐に渡る。それ故に人数は最も多く、廊下に立っていれば必ず視界に一人は入っていると言われるほど多い。

次に執事。侍女とは対照的に男性のみで編成されている彼らの仕事は、簡単に言えば護衛役である。国内外問わずに会席や交渉、面会等の限られた場へ出向く使者や官吏に付き添い、生活の補佐や身辺警護を任される。その難易度故に数は少なく、彼らをまとめ、管理している執事長以外は暇にしている姿を見掛けることすら稀である。

最後の一種にはこれといった役職名は無く、主に外部からの一時雇いの下働きだ。大きな行事や朝の搬入作業等、人手が必要な時に日雇いの募集が掛けられている。彼らに長は居らず、基本的に侍女か執事の指揮下に組み込まれる。

無論例外もあるが、基本的にはこの三職に纏められる。

アールマン達が待っている侍女長は前記にもあるように、多数の侍従を束ねる立場にある、下手をすると場内で最も多忙を極める人物だ。今回のような特例でもない限り、待ち合わせることなど出来ず探し歩かねばならない。

「皆様、お待たせして申し訳ありません」

年季を感じさせる落ち着いた声に、三人は食堂に入ってきた高齢の女性に視線を向けた。

「忙しいのに悪いな。面倒をかける」

「いえ、常日頃陛下が担っておられる御公務に比べれば大したものではございません」

侍女長は恭しく頭を下げた後セリスに、そしてリィンに眼を向ける。

「それでは、この二人は責任をもってお預かり致します」

「ああ、頼んだ」

「セリス・エンピスです!よろしくお願いします!」

片手をあげて自己紹介をするセリスと無言を貫くリィンを残し、アールマンが食堂から出ていく。

それを見送った後、侍女長は二人に──正確にはリィンの方に向き直って頬に手を当てる。

「ところで、貴女は何故そのような格好をなさっているのかしら、将軍閣下?」

「……私の仕事は彼女の護衛と監視ですので」

憮然と答えるリィンに、侍女長が溜め息を吐く。

「いいから着替えてらっしゃい。今日は貴女にも働いてもらうんですから」

「そんな話は聞いておりません。聞いていないので出来かねます」

「またそんなこと言って。ねぇセリスちゃん。この子ったら自分の不器用が恥ずかしくて駄々をこねてるのよ?大人気ないわよねぇ」

急に話を振られて首を傾げるセリスが口を開く前に、リィンが若干高めの声を出す。

「い今から着替えていては時間を無駄にします。今日はセリス様の為の時間なので、空費するのは惜しいかと」

「ふぅ、家事はからっきしなのに言い訳ばかり上手になって。お嫁さんに貰われたときに恥をかくのは貴女なのよ?」

「余計なお世話ですよ……!」

目を合わせようともしないリィンに嘆息し、侍女長はセリスに声をかける。

「仕方ないわね。セリスちゃん、行きましょうか。まずはお洗濯から始めましょう」

「あ、はい!」

勢いよく立ち上がるセリスに、侍女長が苦笑する。

「元気がいいのはよろしいのだけれど、立ち居振舞いはおしとやかにね。女の子なんだから」

「あう、すいません……」

「ふふ、それではついてらっしゃいな」

微笑みを浮かべながら、赤面するセリスを引き連れ食堂を出ていく。その後をどこか居心地悪げにリィンが追い掛けていった。

──食堂近くの空き部屋にて。

「とりあえず、今回は初めてだからこの布を綺麗にしてみましょうか」

と言いつつセリスに渡されたのは、黒や茶色が混じりあって元の色が何なのかも分からないくらいに汚れ果てた、布巾程度の布きれだった。

「……汚いですね」

「ふふ、そうね。これはもう捨ててもいい物だから綺麗にならなくてもいいのだけれど、本番と同じくらいの気持ちで洗いましょうね」

「はい!」

少し離れた所からリィンに見守られつつ、侍女長から手順を教わり、桶に張られた水と洗剤の入った瓶を相手に格闘を始める。

洗剤で泡立つ水面に気を取られて侍女長に叱られたり、侍女長を訪ねてきた侍女と侍女長が仕事の話をしている間に、輪を作った指で泡玉を作ってまた叱られたりしながらも、セリスは笑みを浮かべながら楽しそうに布の汚れを落としていく。

日が高くなって兵士が上官に追い立てられながら走り込みを始めた頃には、布からは白地が目立つまで汚れが落ち、侍女長からも合格点を貰っていた。

「上出来ね。桶を片付けたら次のお仕事に行きましょう」

「わかりました」

──中庭にて。

「次は洗った洗濯物を干します。とにかく数が多いから力仕事になるけど、皺にならないように丁寧さを心掛けましょうね。将軍閣下も手伝うんですよ」

「はい!」

「……わかりました」

かたや元気よく、かたや仕方無くといった体で返事を返し、山のように積まれた洗濯物を手に取る。

脱水してあるとはいえ、少なからず水を吸っている布類はそれなりに重量感がある。

大物を手に取ったセリスは重さにふらつきながらも、言われた通り皺にならないよう、張られた綱に丁寧に掛けていく。対するリィンは手早く数をこなしていくが、セリスに比べると少々……いや、相当に雑さが目立つ。

「……セリスちゃん、将軍閣下の干したものを直していって頂戴。将軍閣下はそのまま干していって構わないわ」

担当を分けるよう指示した侍女長に従い、セリスはリィンの干した洗濯物を丁寧に掛け直していく。

「……むぅ」

自分が干したものとセリスが直したものとを見比べ、リィンは何故こうなったのかと不満そうに首を傾げた。

──一階の会議室にて。

リィンとセリスは箒を片手に、水桶を挟むように並んでいた。

「次はお掃除です。机なんかの高い所はもう終わってるから、その箒で床をまんべんなく拭いていって頂戴。私は見回りに行ってくるけど、手を抜いては駄目よ?」

そう言い残し、侍女長は会議室から出ていった。後に残された二人に沈黙が訪れる。

「……………………」

「……………………」

「…………私が水拭きしますので、セリス様は後から乾拭きしてください」

「わ、わかりました」

セリスが返事をすると、リィンは勢いよく水桶に箒を突っ込んだ。当然の如く勢いよく水が跳ね、二人の足下が水浸しになる。

「……………………」

「……………………」

またもや沈黙が二人の間に降り立つ。

「…………申し訳ありません、悪気はないのです。何といいますか、昔から力の加減が出来ず……」

「……そうなんですか」

溜め息を吐き、首を振るリィンに、セリスはどう言っていいのか分からず苦笑いを浮かべる。

気を取り直し、リィンは水を吸った箒を床に付けて掃除を再開した。

黙々と床を拭いていくが、沈黙に耐えかねたセリスがリィンに話しかける。

「えと、気になってたんですけど、将軍さんって人間なんですか?」

「……いえ、私は半人半魔というやつです」

「あ、なるほど」

つまり、リィンは人間と魔族の混血種だ。イーヴィスは異種族間婚姻者達の逃避場所という性質上、混血種は珍しくはない。むしろ純血という言葉の定義が曖昧な程なのだが、敵対国である人間との混血種となると流石に珍しい。

「あ、じゃあ魔──」

「一応言っておきますが、陛下は由緒正しい血筋の持ち主です。私などと一緒にしてはいけません」

リィンはそう言うと、箒を動かす手を止めて振り返った。何処と無く熱の篭った視線に、セリスは一瞬息を詰まらせる。

「陛下はお優しい方なのです。人間の王族である貴女にすら、こうして便宜を図るほどに。ですから、陛下のご厚意を裏切るような真似だけはなさいませんよう、お願い致します」

そう言って床掃除を再開するリィンの背中を眺めながら、セリスはリィンの言葉を頭の中で反芻していた。

陽が傾き、夏虫の声が昼から夜に変わる頃、中庭で洗濯物を取り込んでいた二人は侍女長から侍女体験の終了を告げられた。

「二人ともご苦労様。セリスちゃんも沢山働いて疲れたでしょう」

「いえ、楽しかったです」

朝ほどの元気はないが、それでも笑顔のセリスの頭を侍女長が優しく撫でる。

「そう。私の手が空いた時に、また色々教えてあげるわ。それまで楽しかった気持ち、忘れちゃ駄目よ?」

「はい」

照れ臭そうに頬を染めるセリスに微笑みを向けつつ、リィンにも声をかける。

「貴女も、将軍職が大変なのは分かるけど、自分が女の子だっていうことを忘れちゃ駄目よ?ずっと陛下のお側に居たいなら尚更ね」

「ちょっと、お婆様!?」

「うふふふ」

赤面するリィンの手から逃げるように、いたずら好きな童女のような笑い声を上げながら、侍女長は城の中に戻っていった。

「ああ、侍女長さんは将軍さんのお祖母様だったんですね。道理で仲がいいな、と」

疑問が解けたと、すっきりした顔で納得するセリスに、リィンは眉間に指を当てて気を落ち着かせながら答える。

「……ええ、そうです。我が家は代々王家に仕えてきた家系なので」

「あ、そういう人たちエンピスにも居ました」

「まあ、珍しくはないでしょうね」

最後の一枚を籠に入れ、城の中に運び入れる。リィンは肩を回して凝りをほぐしながら、背伸びをしているセリスに歩み寄った。

「それでは戻りましょう。私も慣れないことをして疲れました」

早く湯船に浸かりたいですね、と背を向けるリィンに、後ろからセリスが抱きつく。

「……なんです?」

「今日はありがとうございました。とても楽しかったです」

「…………私は陛下の命令に従っただけです。お礼なら陛下に」

ずるずると引きずられながら、セリスはリィンの背中に額を押し付ける。

「将軍さんと話せて嬉しかったです。この城の皆さんには嫌われてると思ってたので」

「…………」

突然の告白に、リィンは足を止める。

「実は私、魔族の人ってもっと怖いと思ってました。お父様からはそう聞いていたんです。でも優しいんですよね。今日も皆さんと働いてみて、私は何も知らなかったんだなー、って実感しました。だから──」

リィンの背中から離れ、正面に回り込んで手を差し出す。

「将軍さん、お友達になってください」

「……は?」

意味が分からない、と気の抜けた声を出すリィンに、セリスはもう一度「お友達になってください」と繰り返した。

「……嫌です」

「えー」

がーん、という音が聞こえそうな程に分かりやすく項垂れるセリス。

「先程ご自分で仰ったように、私は貴女が嫌いです。……いえ、『嫌い』と言い切れる程に嫌ってはいませんが、友達になろうというほどの好意は抱いていません」

正確には、リィンは『セリスが嫌い』ではなく『人間が嫌い』なのだ。セリス個人の印象は良くなっても、人間という種族全体の印象が最悪であるため『セリスが好き』にはなれない。

「で、では!」

項垂れていた頭を勢いよく上げる。

「名前で呼んでも、いいでしょうか……?」

「……好きにしてください」

というより、呼ぶなと言った覚えがないのだが。

そういえば、セリスは他人を特徴か役職名でしか呼んでいない気がする。もしかするとセリスなりの線引きがあるのかもしれない。

「やったー」

色々と考えてみたものの、万歳して喜ぶセリスに毒気を抜かれ、リィンは何も言うことなく小さく笑って息を吐いた。

「では行きましょう!」

そう言ってセリスはリィンの手を取って引っ張っていく。予想外の力強さにリィンはつい踏ん張ってしまい、セリスが前のめりに転びかけた。

「きゃっ」

「あ、申し訳ありません。いきなりだったのでつい」

そう言い訳してセリスの後ろ姿に頭を下げる。

「いいです。許します。その代わり──」

何故か被害者の素振りで、セリスは改めてリィンの手を引き、廊下を歩いていく。そしてリィンに振り向きながらこう言った。

「背中の洗いっこしましょうね!」

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