表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/55

幕間

〝旅人〟の少年──シロがアールマン達に同行することが決まったその日。

深夜のウルク湖西南イーヴィス岸に、奇怪な物音が響き渡る。

──ずる、ずる、ずる。

這うような、引きずるような物音は、何処でもないウルク湖から聞こえてくる。

この夜は雲が多く、月が隠れてしまっていて非常に暗く、更に遅い時間帯ということもあり、それは誰に見咎められることもなく上陸を果たした。

一応は人らしき形状を保ってはいるが、よく見るとその表皮は沸騰し続けている熱湯のように泡立ち、泡が割れると蒸気のような煙を排出している。

──■■■■。

例えるならば、それは身の毛もよだつような女の悲鳴。しかしそれは声と呼べるものではなく、砂嵐の中で叫んでいるような、得体の知れない雑音が混ざっている。

──■■……、■■……。

聴く者があれば耳を塞ぐような不協和音を放ちながら、ゆっくり、ゆっくりと水辺から離れて、それは周辺を徘徊する。その姿は何かを探すようでもあり、奇怪な声も相まって迷子の子供のようにも見える。

──────。

ぴたり、と。それは動きを止めた。

腰を折るように身体を折り曲げ、足元に顔を近付ける。──瞬間、

──■■■■■■■■■!

発条のように身体を戻し、そのまま天を仰いでそれは絶叫した。そこに先程の迷子じみた不安定な様子は無い。あるとすれば、それは──歓喜だ。

──■■■■■■■■■!

幾度も繰り返し放たれる不協和音。

そのうちに、雲が流れ月が地を照らし始めた。

闇夜より炙り出されたのは、灰色とも紫色とも言い難い奇色の怪物。顔にあたる部分にあるのは、申し訳のない程度に穿たれた五つの窪み。身に纏うものは何もない、人の影を型どったような泡立ち続ける粘土細工。

──■■■■。

再び怪物が動き出した。

ずる、ずる、ずると足を引きずるように、粘土細工が森へと入っていく。

やがてその姿が完全に森の中へと消えた頃、湖畔に風が吹いた。地面をさらい、空中へ巻き上げるような風は、先程怪物が立ち止まった場所に残されていた、小さな布切れも持ち去った。


布切れの色は白。そしてその場所は、ウガルがシロを引き上げた場所のすぐ側だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ