別れの時
あるところに、病床に伏せる老人がいた。
病院の一室。力の抜けた声で彼が呟く。
「私は……、もうそんなに長くはないのだろう……?」
病室には、老人のほかに若い看護師と年配の看護師がおり、その言葉を聞いていた。
「そんなことはありませんよ。早く元気になりましょうね」
若い方の看護師が、励ましの言葉をかける。
「いや……、いいんだ……。自分のことは……、自分が一番分かっている……」
「何を言ってるんですか。そんな弱気じゃ治るものも治りませんよ」
悲観的な老人に、なおも優しい言葉をかける若い看護師。
「なに……、もう充分に生きたさ……」
老人が首を横へと向ける。その先には、綺麗に活けられた花が飾られていた。
「あの花が枯れ落ちる頃には……、私はもう……」
病室を後にした二人の看護師は、廊下を歩いていた。
「だいぶ落ち込んでましたね。どうしたら元気になってくれるでしょうか」
若い看護師は、思い悩んだ様子で言った。
「あの爺さん、長生きするわね」
すると突然、今まで黙っていた年配の看護師があっけらかんと口にした。
「そんな、何でそんなこと言うんですか?」
不思議そうに訊ねる若い看護師に、年配の看護師は言い放った。
「あの花、造花よ」