高校3年 4月
素肌に当たる毛布は気持ちがいい。
それを知ったのは裸で眠ることを知った村雨のベッドの中。
「…し、高橋」
毛布越しに肩を揺らす温かい手のひら。
「ん、…もー、すこし…だけ…」
「もう、5時だけどいいの?」
まどろんでいたいと思った頭が瞬時に覚める。
「マジ?」
「マジ」
村雨が窓の遮光カーテンを少しだけめくり、仄明るい外の様子を見せる。
「帰るわ。」
遮光カーテンを下ろすと電気スタンドのみの薄暗い部屋に戻る。ベッドから下ろす足の場所に迷って、相変わらず足の踏み場のない部屋だ、と思う。毎回思ってるか。初めてこの部屋に来た時、参考書や問題集ばかりが散らかったこの部屋の期待の裏切らなさに少しだけ笑った。
「もー、ほんと汚い部屋だな。」
「これは汚いんじゃなくて、散らかってるっていうの。」
結局掃除してないんだから汚いんじゃないかと思うんだけど。この部屋に来る度に繰り返す会話にも飽きて、返事をせずに村雨に背を向け、ベッドに座ったまま服を着ていく。Tシャツを着ようと両手を上げた所で脇の下をくすぐられた。
「んっ…もう!」
振り返って睨むと素知らぬ顔で遮光カーテンの向こうを覗く村雨。なんていうか、子供だ。もう一度背を向けて床に落ちたデニムを履き、立ち上がって振り返る。
「帰るね。」
「ん。」
ボクサーパンツ一枚の村雨も参考書を蹴りながら立ち上がった。向き合った状態で私は両手を上げる。村雨は少し眉毛を下げて微笑んで、私の背中に腕を回す。私は少し背伸びをして、首に抱きついた。村雨が少しだけ屈んだ状態になると、お互いの肩に頭が乗る。エッチするよりもこうして抱きあう方が好きかもしれないとたまに思うくらい、何かが満たされるのを感じる。本当は私も裸だと、もっといいんだけどな。
「もっと、ぎゅって、して。」
「はいはい、お姫様。」
また、眉毛を下げて笑ってるんだろう、少しため息を付いて村雨は背中に回した手に力を込める。
「まだ?」
「まだ。」
少し左右に体を揺らしながら、まるで赤ん坊を宥めるみたいに。
「後でまた会うじゃん。」
「口なんて聞かないくせに。」