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光の戦士 川口美里  作者: カトーSOS


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初めてのときめき 初めての変身

挿絵(By みてみん)


彼氏ができた。


 生まれて初めての彼氏。


 悠馬くん。


 同じクラスで、前からちょっといいなって思っていた。


 その悠馬くんから、


「川口さん、俺と付き合ってくれない?」


 って言われたのが、一週間前。


 もちろん、


「はい」


 って答えた。


 家に帰ってからベッドの上で転がった。


 次の日。


 私は死んだ。


 いや。


 自分でも何を言っているのかわからないけど、本当に死んだ。


 怪獣が現れて。


 逃げて。


 瓦礫の下敷きになって。


 死んだ。


 そこに宇宙から来たという、よくわからない光の生命体が入ってきた。


 そいつのおかげで、私は今もこうして生きている。


 正確には、生きていると言っていいのかどうか、よくわからない。


 だって一回死んでるし。


 私としてはゾンビだと思っている。


『ゾンビではない』


(うるさい)


『君の生命活動は正常に維持されている』


(でも死んだじゃん)


『一度は停止した』


(ほら!)


『現在は生きている』


(じゃあ、ゾンビじゃん!)


『その論理は理解できない』


 私だって理解できない。


 とにかく。


 私は死んで。


 ゾンビになって。


 ついでに光の戦士になった。


 彼氏ができた次の日に。


 なんでよ。


 


「みさちゃん、こっち」


「うん」


 そして今日。


 初デート。


 悠馬くんと二人きり。


 これがもう、朝から大変だった。


 服を選ぶのに一時間。


 髪型を決めるのに三十分。


 鏡の前で何回も確認。


 その間ずっと、頭の中にこいつがいる。


『先ほどの衣服と何が違う?』


(全然違う!)


『色彩はほぼ同一だ』


(違うの!)


『先ほどのほうが活動には適していると思うが』


(デートなの!)


『デートとは活動ではないのか?』


(黙ってて!)


 ちなみに、こいつは男である。


 正確には、


(あんた、男?)


『生殖的な分類で言えば、オスに当たる』


 だそうだ。


 最悪である。


 着替えも、お風呂も、トイレも、全部一緒。


 もちろん見ないようにさせている。


 本人は、


『君の身体構造には興味がない』


 と言っている。


 そういう問題じゃない。


 ともかく。


 今日は初デート。


 絶対に邪魔をさせない。


 


 悠馬くんと並んで歩く。


 ただ、それだけ。


 それだけなのに。


 近い。


 すごく近い。


 学校ではこんな距離で歩いたことがない。


 肩が、ときどき当たる。


「あ、ごめん」


「ううん」


 また歩く。


 しばらくすると、また当たる。


 悠馬くんの手が、私の手のすぐ横にある。


 近い。


 ものすごく近い。


 これ。


 もしかして。


 手、つなぐ?


 悠馬くんと?


 私が?


 初めて?


 指先が触れそうになる。


 触れない。


 また近づく。


 離れる。


 近づく。


 あと五センチ。


 四センチ。


 三センチ。


『美里』


(なに)


『怪獣が上陸したようだ』


 …………。


(知らない)


『名古屋港だ』


(知らないって)


『ここから約十キロメートル』


(そんなことより!)


 悠馬くんの手が近づいている。


 あと三センチ。


『怪獣は市街地へ向かっている』


(こっちはあと三センチなの!)


『三センチ?』


(測るな!)


『何が三センチなのだ?』


(ああああ、もう!)


 指先が触れた。


 その瞬間。


『建造物が破壊された』


 …………。


 …………。


 …………。


 私は立ち止まった。


「みさちゃん?」


「……悠馬くん」


「ん?」


「ごめん。急用ができた」


「え?」


「すぐ戻ってくるから!」


「あっ、みさちゃん! どこ行くの?」


「ごめん!」


 走る。


 公園へ飛び込む。


 木陰。


 右を見る。


 左を見る。


 誰もいない。


 スマホを取り出す。


 ロック解除。


 画面をスワイプ。


 専用アプリを起動。


 画面いっぱいに光の紋章が現れる。


『美里。敵の詳細な分析を――』


「時間ない!」


『待て』


「変身!」


 スマホを掲げる。


「ジュワ!」


 光が全身を包んだ。


 身体が巨大化する。


 木々を越え。


 ビルを越え。


 私は空へ飛び上がった。


 目指すは名古屋港。


 全速力。


 三十秒。


 


 いた。


 海から上半身を出している巨大怪獣。


 でかい。


 黒い。


 角がある。


 なんか吠えてる。


 以上。


『待て、美里。まず敵の能力を分析する』


「時間ないって!」


『未知の生命体だ。攻撃方法すら判明していない』


「悠馬くん待ってるの!」


『だからといって――』


 私は両腕を構えた。


『美里!?』


 光が集まる。


『いきなり最大出力は危険だ!』


「ジュワッ!」


 ビーーーーーーーーッ!


 光線が怪獣に直撃した。


 ドオオオオオオオン!


 怪獣が吹っ飛ぶ。


 海面に落ちる。


 爆発。


 静かになった。


「倒した!」


『…………』


「帰る!」


『待て。周辺の安全確認が――』


「悠馬くんが待ってんの!」


『美里!』


 私は飛んだ。


 全速力。


 三十秒。


 


 さっきの公園。


 木陰へ着地。


 変身解除。


 スマホを見る。


 よし。


 まだ二分も経ってない。


 鏡。


 髪。


「うわっ」


 ちょっと乱れてる。


 手ぐし。


 手ぐし。


 前髪を直す。


 リップ。


 ぬりぬり。


『美里』


(なに)


『先ほどの戦闘について話がある』


(あとにして)


『未知の生命体に対して、いきなり最大出力の光線を使用するなど――』


(デート中なの!)


『それは戦闘を軽視してよい理由には――』


(うるさい!)


 鏡を見る。


 よし。


 笑顔。


 私は何事もなかったように木陰から出た。


 悠馬くんがいた。


 同じ場所で待っていた。


「ごめん! お待たせ!」


「あ、うん」


「ごめんね。急に」


「いいけど……早かったね」


「うん!」


 私は笑った。


「悠馬くん、今度はこっち行こ」


「うん」


 また二人で歩き始める。


 さっきと同じ。


 肩が近い。


 手が近い。


 でも。


 なんとなく、さっきより遠い気がする。


 やっぱり。


 変だったかな。


 突然走っていなくなって。


 二分で帰ってきて。


 嫌われた?


 初デートなのに?


 彼氏ができて一週間なのに?


 死んでゾンビになって光の戦士になったうえに、彼氏にまで振られたら――。


「みさちゃん」


「え?」


 手に何かが触れた。


 悠馬くんの手。


 そのまま。


 握られた。


「…………」


「嫌だった?」


「ううん!」


 声が裏返った。


「全然!」


「そっか」


「うん!」


 手。


 つないでる。


 悠馬くんと。


 私。


 手、つないでる!


『美里』


(なに!)


『心拍数が急激に上昇している』


(黙って)


『体温も上昇している』


(黙って!)


『生命維持機能に異常が――』


(ない!)


『しかし――』


(今だけは絶対に黙ってて!)


『……了解した』


 悠馬くんの手は、温かかった。


 私の手も。


 ちゃんと温かい。


 よかった。


 ゾンビじゃないのかもしれない。


 いや。


 一回死んでるから、やっぱりゾンビなのかもしれない。


 まあ、いいや。


 今は。


「悠馬くん」


「ん?」


「次、どこ行く?」


「みさちゃんが行きたいところ」


「じゃあね――」


『美里』


(なに)


『宇宙船が接近している』


 …………。


 …………。


 …………。


(知らない)


『地球外知的生命体と思われる』


(知らないってば!)


 私は悠馬くんの手を、ぎゅっと握った。


 今日はもう、絶対に離さない。


 地球の平和なんて知らない。


 だって私。


 彼氏ができたばっかりなんだから。



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