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女の園

もう女の園は遠慮したい

作者: 右京寺
掲載日:2026/03/18

はじめまして

リハビリがてら書いてみました。



「やっと会えた」


——この声を、私は知っている気がした。

思い出したくない形で。





ふと気配を感じ、目を覚ます。

長く寝すぎたようで、頭が重たい。


高い天井。幾重にも垂れる白い布。

金糸の刺繍。甘く重たい香。遠くで鳴る鈴。


 

——ああ、これ。


 

ゆっくりと息を吐く。



「……女の園はご遠慮したいんだけど」


 

「知ってる」


 

すぐ近くから返事が落ちてきた。


 

声が聞こえて来た方へ首を向ける。


 

そこにいたのは、知らない男。


 

整った容姿に、無駄のない身体。

ただの貴族じゃないと分かるのに、


 


「……また、あなた?」


 


口が勝手に動いた。



男は一瞬だけ目を細める。



「それ、三回目だな」

 


「……何が」

 


「その言い方」



少しだけ笑う。



「やっと思い出してきたか?」



とくんと心臓が小さく鳴る。


 

「初対面だと思うのだけれど」



「そうだな。君にとっては」


 

また、それ。


 

男は自然に距離を詰めてくる。


 

逃げるより先に、足が止まった。


 

——近いのに、怖くない。


 

それが、気味が悪い。


 

「ここ、王宮よね」


 

「正確には後宮だな」


 

やっぱり。



遠くで女たちの声がする。

柔らかくて、でもどこか棘のある笑い声。



「……ほんと最悪」


 

「今回はまだましだ」


 

「え?」


 


「前は三日で毒を盛られてた」


 



——ぞくり。


 


喉の奥に、焼けるような感覚が走る。


 


——違う。



私はこれを、知ってる。


 


“初めてじゃない”。


 


「……なにそれ」




「覚えてないか」




男は少しだけ残念そうに言った。




「まあいい。今回は防ぐ」




“今回”。


 


何度目なんだろう、これ。




「ねえ」


 


「なんだ」



 

「どうしてそんなに慣れているの」


 


静寂が部屋を包む。


 



「君が、何度もここに来るから」


 



静かで、重たい声だった。


 



「……意味がわからないわ」


 


「そうだろうな」



 

男はあっさりと頷く。


 


「でも、分からなくていい」


 


その言い方に、引っかかる。


 

「……あなた、」


 


「なんだ」


 


「前から、私のこと知ってるのでしょう」


 


「知ってる」


 


男の声には迷いがなかった。


 


「どこまで?」


 

ほんの少しの間、


 


「君が、こういう場所を嫌うこと」


 


「それくらい誰でも分かるでしょ」


 


「そうだな」


 


男は柔らかそうな笑みを浮かべ、

でも、と続ける。


 



「逃げようとすると、必ず失敗することも知ってる」


 


息が止まる。


 


「……どうして」


 



男は答えない。


 


一歩、近づく。


 


「逃げたいか?」


 


静かな問い。


 

私を見つめるその瞳に

嘘がつけなかった。


 


「……ええ」


 


「知ってる」


 


また、それだ。


 


「なら助けて」


 


投げるように言う。


 


「ここから出して」


 


 

男はほんの一瞬だけ迷った。


 


それから、




 

「ああ、今回は、うまくやる」


 




何回目かなんて、知らない。


 



「その“今回”って何回目?」


 



男は少しだけ笑う。


 



「覚えてない方が、楽だ」


 


 


ぞくり、とする。


 


「……覚えているの、あなたは」


 


「全部じゃない……でも」


 



「でも?」


 



「大事なところは」


 


「何が“大事”なの」


 



少しの沈黙。


 



「君がいなくなる瞬間」


 


 

息が詰まる。


 



「その瞬間だけは全部、覚えてる」


 


 


怖い。


 

私を見つめるその瞳は、深い闇のようで。

恐怖が、じわりと広がる。



ーーなのに、目が逸らせない。


 


「どうして」


 


男は、ほんの少しだけ笑った。


 


「君がいない世界に行くくらいなら」


 



一歩、距離が縮まる。


 




「ここに閉じ込めた方がいい」


 


 



「……最低」


 



「そうだな」


 


 

否定しない。


 


 

「でも、他に方法を知らない」


 


 

静かな声だった。


 



「逃げたいなら、逃げればいい」


 


男は続ける。


 



「でも、その先に俺がいなくてもいいのか?」


 



言葉が出なかった。


 


——この人がいない世界。


 


 


想像できない。


 




「……ずるい」


 



男は首を傾げる。


 



「そうか?」


 


「そうよ」


 


 

視線を逸らす。


 


 

「全部知ってる感じでくるんだもの」


 


「知ってるからな」


 


「それがずるいって言ってるの」


 



少しの沈黙。


 



それから男は、ふっと息を吐いた。


 


 

「じゃあ、知らないふりをしようか」


 



そう言って、


 


 

「初めまして」



手を差し出す。




「……なにそれ」


 


「やり直しだ」


 


その笑い方が、


どこか少しだけ壊れて見えた。


 


 


 


遠くでパタパタと足音が聞こえる。


 


誰かこちらへ向かっている。


 


——ここは、逃げ場のない場所。


 



「……ねえ」


 


「なんだ」


 


「もし私が、ここから出たら」


 


男はほんの一瞬だけ黙った。


 


それから、


 

「その時は」


 


静かに言う。


 



「俺が世界ごと追いかける」


 



ああ、やっぱり。


 


 

この人は、怖い。


 


 

でも。


 


「……女の園はもうご遠慮したいのだけど」


 


それでも。


 


 


「また、あなたがいるなら」


 


 

少しだけ笑う。


 



「まあいいか」


 


 


——そう思ってしまう自分が、少し怖い。


そして、


思い出したくないはずのその声を、


また無意識に探している。





視点違いで投稿予定です。

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