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第13話:小狐の助言



夜更けの静寂の中蒼真は自分の古いノートパソコンの前に座っていた。画面には二つのウィンドウが開いている——DiscordとApex Legends。


昔、ある小説を読んだことがある。遠い宇宙で戦う巨大ロボットが、軍用回線をこっそり使って地球の少女とチャットをする話だ。そのロボットは鉛色の空の下、恐ろしい敵と戦いながら、少女と温かい言葉を交わしていた。最後の通話で、ロボットは言った。「もう死ぬよ、電池が切れそうだ」。少女は言った。「嘘でしょ?」。ロボットは言った。「君と話せて、本当に楽しかった」。そして回線が切れた——遠い惑星で、戦い終わった戦場で、一匹の獣がロボットの残骸に飛び乗り、鋭い爪で回路を引き裂いたからだ。


時々、蒼真は自分がそのロボットで、星宮があの少女のような気がしていた。星宮は時々、心の奥の秘密を蒼真に話してくれる。蒼真はそれを嬉しそうに聞いて、ちゃんと聞いているという絵文字を返す。でも、星宮は蒼真がなぜそうするのか、一時間も一時間もオンラインで待っていることを、知らないのだ。いつか蒼真というロボットの回路が切れた時、星宮は悲しんでくれるだろうか。


そんなことを考えていると、蒼真は悲しくなってきた。胸の中で電池液が流れ出し、全身の回路がバチバチと音を立てているような、悲劇的な感覚だ。


Discordの音楽系サーバーは静まり返っていた。星宮はいない。彼女がいなければ、誰も音楽の話なんてしない。音楽の美しさは、やはりミューズの姿にこそ宿るのだ。特に、白いブラウスに黒髪をポニーテールにまとめた、あの日差しを浴びたような姿の時は。


Apex Legendsのロビーでは、昨日蒼真をボコボコにしたプレイヤーが、仲間たちに「SkyPhoenixの倒し方」を伝授していた。あの一戦以来、そいつはサーバー内で「暴君SkyPhoenixに反旗を翻した英雄」みたいな扱いを受けている。


その時——白い狐のアイコンがオンラインになった。


「Shirofox_こはく」の名前が、少し心臓に悪い感じで点滅している。


蒼真は心臓が跳ねた。


今日、ファミレスで会った白髪の女の顔が浮かんだ。白狐こはくの「中の人」。


正直、驚いた。


ネットでは「VTuberの中の人は大抵ブス」という都市伝説がある。可愛いアバターの裏には、冴えないオタク女がいる——そういうイメージだ。だから蒼真も、白狐こはくの中の人は、たぶん地味な女だろうと思っていた。


現実は真逆だった。


こはくは——美人だった。


白髪のショートカット、切れ長の目、スラリとした長身。モデルか女優かと思うような容姿。配信の「きゃーきゃー」騒ぐ可愛いキャラとは全然違う、冷たくて鋭い雰囲気。


考えてみれば、当然かもしれない。


VTuberは「配信者」だ。毎日何時間も喋り続けて、リスナーを楽しませなければならない。コミュ力がないとできない仕事だ。


そして、コミュ力がある人間は——大抵、リアルでも成功している。


美人で、社交的で、才能がある。そういう人間が、VTuberとしても成功する。


「ブスがアバターで美少女になる」というのは、オタクの願望に過ぎなかったのだ。


現実は残酷だ。美人はリアルでもネットでも美人。勝ち組は、どこでも勝ち組。


——俺は、どっちだろう。


蒼真は少し憂鬱になった。


少し迷ってから、メッセージを打った。


『本当にお前?』


『うん、こはく』


返事は気だるそうだった。


『暇だから上がってきた。どう、決めた? 私の依頼、受ける?』


『まだ決めてない……ていうか、なんで俺のこと知ってんの? 今日のファミレスの件も、俺のハンドルネームも、全部』


『翔太から聞いた。全然難しくないよ。あんた「SkyPhoenix」なんてIDにしてるし、「夜明けのカラス」なんて曲名も……ちょっと調べればすぐ分かる』


『それにしても詳しすぎるだろ。俺の配信なんて視聴者十四人しかいないのに、なんでお前が見てんだよ』


『……』


こはくの返信が少し遅れた。


『実は、あんたをうちの事務所に引き込む計画があるの』


『は? 事務所?』


『そう。月燈籠。私が所属してるVTuber事務所。あんたの曲、マネージャーが気に入ってて。作曲家として契約しないかって話が出てる』


蒼真は画面を見つめた。


話がでかすぎる。視聴者十四人の底辺配信者に、事務所が声をかける? そんなことがあるのか?


『なんで俺なんだよ。もっと有名な作曲家いくらでもいるだろ』


『それ、あんたが一番よく分かってるんじゃない?』


こはくの返事は短かった。


蒼真は一瞬、息が止まった。


——俺が一番よく分かってる?


どういう意味だ。


いや、待て。


もしかして——


親父か。


鷹取千紘。伝説のロックボーカリスト。音楽業界に太いコネを持つ男。


月燈籠の関係者が、親父と繋がっていてもおかしくない。親父が裏で手を回して、息子を業界に入れようとしている——そういうことか?


『……親父の紹介か?』


蒼真は聞いた。


『さあ? 私は知らないよ』


こはくの返事は素っ気なかった。


『ただ、マネージャーが「鷹取蒼真という作曲家をチェックしろ」って言ってきただけ。理由は聞いてない』


『……』


蒼真は黙った。


やっぱりそうだ。


親父のコネ。


俺の実力じゃない。「鷹取千紘の息子」だから、声がかかっただけだ。


昨日の電話を思い出した。「そろそろ本気で音楽やる気はないか」という親父の言葉。あれは、こういうことだったのか。裏で事務所に話を通して、息子を引っ張り上げようとしている。


ありがた迷惑だ。


俺は、親父の七光りで業界に入りたくない。


『別に、あんたの親のことなんてどうでもいいけど』


こはくがメッセージを送ってきた。


『私が気になってるのは、あんたの曲。「夜明けのカラス」、聴いた。正直、いいと思った。誰の紹介とか関係なく、私はあの曲が欲しい』


『……』


『だから、依頼してるの。私の新曲のために、曲を書いて。ギャラはちゃんと払う。クレジットも載せる。親父のコネとか関係なく、あんたの実力に対する正当な報酬として』


蒼真は少し黙った。


こはくの言葉は、嘘じゃないような気がした。


今日、ファミレスで会った時のこはくを思い出した。冷たくて、鋭くて、まるで獲物を狙う狐のような目。でも、その目には——嘘はなかった。少なくとも、そう見えた。


やっぱり、美人はコミュ力が高い。人を説得する術を知っている。


——いや、そういう問題じゃない。


でも——まだ、決心がつかない。


『考えとく』


『……まあ、いいよ。急かさない』


こはくの返事は意外とあっさりしていた。


『でも、一つだけ聞いていい?』


『何?』


『あんた、なんでそんなに迷ってんの? チャンスが目の前にあるのに、逃げてばっかり。何がそんなに怖いの?』


蒼真は、何も答えられなかった。


『失恋でもしたの?』


『まだしてない……』


蒼真は急にイライラしてきた。こはくはまるで小さな魔女のように、蒼真の心臓から肝臓まで全部見透かしている。この女の前では、身の置き所がない。


美人で、頭が良くて、コミュ力があって、ゲームも上手くて、歌も上手い。


——完璧超人か、こいつは。


『俺に彼女なんていないから、失恋もクソもないよ。お前、何がしたいの?』


『別に。ただ、暇だから話し相手が欲しかっただけ』


こはくが少し間を置いて、また打ってきた。


『いいよ、話してみなよ。何があったの。もしかしたら、力になれるかもしれないし』


『お前に何ができんだよ』


『分かんないけど、私も女だから。女の直感ってものがあるの』


『じゃあ、お前の女の直感は?』


『あんたが好きな子、あんたのこと好きじゃないね』


蒼真は鼻から火を噴きそうになったが、心は静かに沈んでいった。



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