2-2 私に似たその人はだぁれ?
町と町を繋ぐ街道沿いには旅商人の利用を見込んだ宿屋が点在する。
旅人にとっては砂漠のオアシスのように有難いのだが、町の防壁も自警団もない寂れた立地では専ら野盗の標的になっていた。
宿泊するにも自衛は必須で、料金は割高。
どこの宿屋も建物自体は何度も強襲にあっているだろう有様で、時には窓ガラスが割れたままだったり、部屋の鍵が壊れていたりする。
それでも雨風が凌げるのだから、束の間の憩いだった。
不満を抱えながらも大金を払って多くの旅人が利用する。
俺とネリメアもそのうちの一人だった。
「それじゃあギル、また夕方にね。おやすみなさい」
さきに支払いを済ませたネリメアは個室のある上階へと階段を上がっていく。
手を掲げて見送った俺は続け様に一泊分の銀貨を受け皿に置いた。
「丁度受け取ったさね。お前さんの部屋は二階の三号室だ」
「わかった。ありがとう」
宿屋の店主はしゃがれた声の老婆だ。
陽が登って宿を後にする商団とすれ違いで戸を叩いた俺たちを訝しんでいた。
どうみても旅をしている人間二人組が「今から夕方まで泊まりたい」と頼んだのだから無理はない。
「ところでお婆さん。最近、ラオリスで不審死が増えてるって噂、何か知ってる?」
「大袈裟に広がってるだけで、よくある話さね。領主様が動いとると聞いたよ。そのうち犯人も捕まるさ」
旅人が次の目的地の様子を尋ねるのは宿屋で頻繁にある光景だ。
宿泊する客以外には話し相手が限られる環境もあるためか、老婆の店主は気前よく話に付き合ってくれた。
「さっき商団とすれ違ったけど、あの人たちってラオリスを通ってきてるよな? 町の近況とか話してなかった?」
「一週間滞在してたようだが、何もなかったと拍子抜けしていたさね。噂なんてそんなもんだろうさ」
「――そっか」
噂が回り始めたのはひと月も前のことらしい。
そもそも不審死が続いたから噂になるのだ。
商団が山越えをした日数も考えると――
(もう逃げてる可能性が高いよな)
ラオリスに着いても長居はせずに、隣町に向かった方がいいかもしれない。
「話は変わるけど、独特な雰囲気の男が泊まらなかった? 痩せ型の長身で、生きてるか疑うくらい青白い肌の男。鮮明な赤い目が記憶に残りやすいと思うんだけど」
これまでの旅路で都度口にしていた台詞が俺の中でつっかかる。
「見ちゃいないが、なんだい。連れの兄弟でも探してるのかね?」
「いや、違くて……」
反射的に否定したけれど、老婆の指摘は的確だった。
奴の外見的特徴を並べてネリメアが脳裏に過ぎってしまった。
(最低だ)
ネリメアとはこれっぽちも似ていないのに。
奴との既視感を感じてしまう俺は酷く冷たい人間だ。
「知らないならいいんだ。ありがとう、話に付き合ってくれて」
呼吸が浅くなるのを察して、早々と切り上げる。
簡易ベッドがあるだけの狭苦しい一室に一人きりになった俺は拳を振り下ろす。
年季の入ったタオル地の布団に吸収されて、震えが止まったと錯覚できる。
矛先は何処だろう。
愚かさと苛立ちで気が狂いそうだったから、何度も息を吐き出した。




