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吸血少女は牙隠す。 〜どうやら彼女、吸血鬼と呼ばれるのは心外だそうです〜  作者: 青葉 ユウ


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12/12

3-1 まずは宿探しだね!



 ラオリスは辺境伯の領地内でそれなりに大きな町だ。

 平坦な街道をまっすぐに進むと、領主の屋敷がある最も栄えた都市サンフレンに着くので、隣接した大都市の恩恵のせいか昼も夜も活気があった。


 夕方に閉まる関所での手続きをぎりぎりで終えて、俺とネリメアは夕飯の香りが各方から漂う大通りを歩く。


「まずは当面の宿探しだね〜」

「ネリメアは普段どんな条件で探してる?」

「宿を選べるなら少し良いところを探すよ。ゆっくりできて落ち着けるとこ!」

「分かる。野宿が多い分、思いっきり休憩したいよな」

「ね!」


 話しながらも、ネリメアはまだ俺と共にいてくれるんだなと思った。

 元々彼女は一人で平気な様子でいたのだ。俺が引き止めるから二人旅をと誘ってくれただけで、今もその延長線なのだろう。


 騒ぎを起こす吸血鬼――かもしれない存在を捕らえられたら、俺たちが二人で過ごす理由はなくなる。


「時計台から南に走る通りは少し良い値のする店が並ぶって聞いたから、その辺り探してみるか」

「いいね! ギル助かる〜」


 分かれ道の看板を見て、時には通りかかる人に声をかけて、街並みを眺めながら目的の通りへと向かう。

 山頂付近から眺めた街灯りの記憶とも照らし合わせて、人の出入りも見ていった。


(何処もかしこも、まとまりがないというか)


 町をぐるりと囲む石壁の塀のなかで人が増え続けた結果なのか。

 地下への階段や、増築したと見て取れる家々が随所にある。道なりはうねっているものの入り組んだ複雑さはそこまでないのに、幾度も手を加えられた景観には、ぱっと見では分からない細道やら路地裏やらがありそうだった。


 人を殺めた後も容易に身を潜められよう。


 観ている分には楽しめる街並みに頭を悩ませる。


 山間部から眺めた夜灯りには一際目立っていた塔があった。

 突出した時計台と建ち並ぶ家々の奥にある塀との距離を目視で確認する。


(この辺りが丁度塀から半分)


 今夜は街の把握に時間を費やした方が良さそうだ。


「ね、ギル。あそこの宿、良さそうじゃない?」

「おっ、かもな」


 飛び出た上階の軒下にぶら下がった真新しい木目の看板。

 中央には宿を表す三日月があって、その端に食事処のスプーンとフォークが描かれている。


 帝国が統一した看板のマークだ。

 地域によっては言語が異なるし識字率も低いけれど、マークの意味さえ覚えれば目的の店が分かる。


 辺鄙な地域までは未だ統制されていないけれど、それなりに栄えた町では、このマークの看板が出されていることが安心材料にもなっていた。

 少なくともぼったくりはない。


「どうする? 決めちゃう?」


 わくわくとした高揚感でネリメアの声が弾んでいた。


「まずは食事でもするか。そんで、雰囲気良かったら部屋を取ろう」

「いいね。賛成!」


「行こう」と俺の左手を臆しもせず掴んだネリメアに引っ張られる。

 ぎこちなさも、恥じらいもなかった。


(宿の周辺も確認しておかないと)


 手のひらの熱に意識を向けないように、外へ外へと視線を走らせる。

 ネリメアは俺の動揺にも気付いていないに違いない。


 そんなところも幼馴染と一緒だった――



 ◇◇◇



 食事を早々と食べ終えたネリメアが、追加で頼んだカクテルを運んで来た店員を「手が空いてれば」と引き留める。


 具材を食べない彼女に代わって肉肉しいスープ皿にフォークを差しながら、二人の会話の聞き手に徹する。

 彼女の目的である"今時期にしか出回らない貴重なお酒"の話題だった。

 口元を覆うスカーフにそっと手を添えたネリメアが声を潜める。


「バラントさん一家の発泡酒が美味しいって聞いたんですけど、今年の分がどうなってるか知っていますか?」


 店員も驚き顔を隠すようにトレーを抱き寄せる。


「よく知ってますね!? ここだけの話なんですけど、生産量を増やせないからって、誰も他所の人には教えたがらないんですよ。取り分がなくなるのは嫌ですもんね」


「隣領の町に住む薬草店のお爺さんに教えてもらったんです。昔この町に住んでた時があったそうで。町の人以外には尋ねないようにとも注意されました」


「そうだったんですね。大丈夫です、私はお酒苦手なので! うちに泊まってくれるなら、お姉さんには特別サービスしますよぅ」


 ネリメアの瞳が傍観していた俺を捕らえた。

 満面の笑みを浮かべた店員までもが俺に期待の眼差しを向ける。


「ギル、い〜い?」


 俺が頷くことを前提とした彼女の甘い問いかけ。

 小首を傾げて若干の上目遣いになっているのはわざとなのかどうか。


「一人ずつ、二部屋で頼みたいんだけど」

「ありがとうございます! 何日滞在されますかぁ?」


 畳み掛けるように店員が迫る。

 日数によっては何も喋らないぞと、強気の笑みで脅している。

 宿の値段を聞いて所持金との相談をしてしまえば、見限られてしまいそうな勢いでもあった。


「とりあえず一週間分で……良いかな」


 相手は同年齢くらいの若い女の子だ。

 そこに見た目同等の可愛らしさはなく、標的を見つけた鷹のような爛々とした眼差しが備わっている。


「は〜い! 早速お部屋の鍵と当館の案内をお持ちしますね。お待ちくださいませ〜」


 上客を呼び込んだと飛び跳ねる店員と、目的の酒を目前にしたネリメアに挟まれて、苦い息を漏らす。

 外観で感じた以上に小洒落た内装だったから、宿の請求額が恐ろしい。


 ネリメアが待ち望んでいる酒は、五日後に売りに出される予定らしい。





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