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第9話 兼人悩む

 兼人と並びながら、浦島太郎であろう島浦に向かい合っている。


 兼人に偉そうに言っているが、私も今回の案件は想像しながらの手探りだ。


 たま・・・。あ、この言葉は言ってはいけない。過去のキーワードは呪いの言葉の可能性がある。下手したら、そのワードが精神を壊す可能性もある・・・。


「兼人」と声をかけようとしたが、兼人に右手を上げて遮られた。

 兼人はそのまま目を薄く開きながら頬に右手の平を当て、虚空に視線を漂わせている。格好付ける兼人に多少ムカつくけど、筆頭カウンセラーの自覚が出て来たのだろう。そう思えば、頼もしくもある。


「茜ちゃん。この前、警察に協力して摘発した研修会社は悪どい感じがしたよね。思い出さなくてもいい思い出を引き釣り出してトラウマと言ったり、ありもしない思い出を捏造したりしてたよね?」


「はい。九条先生。情弱の人間を集めて、薬や人身をトクリュウ犯罪者に仕事を流していた会社ですね」


 今日は兼人に付き合ってやるか。と腹を決めた。私が、豊玉姫と亀と会っているのも内緒にしているから、少しばかり後ろめたいという気持ちもある。

 兼人が自らの記憶を確認するためにブツブツと呟いている。


「無理矢理に思い出を引き釣り出すのはダメ。どころか、本人が思い出そうとするのも止めなくてはいけない・・・。なかなか、難しい。本人が思い出してしまったら、次の人生に転生してしまう」


 ブツブツ言う兼人の声をはしっかり聞こえている。では、どうしますかね?不謹慎な言い方だが、九条先生のデビュー戦は見ものである。


「島浦さん、夢に見る女性はどんな方ですか?」


「美しいです。美人です」


「見た目も大事ですが、どのようなイメージですか?どんななイメージでもいいですよ。暖かいとか、綺麗とか、可愛いとか、お母さんのようだとか。無理はしないで下さいね。ゆっくりでいいですから」


 島浦は思い出すように目を閉じた。水亀先生が言っていたように、自殺する可能性もあるのだから、あまり悠長な事は言っていられない。自殺を目の前にしているのは間違いないだろう。表情を見るに、見るからに目の下は落ち窪んで、青白い顔をしている。

 浦島太郎とは海の男なのだろうが、そんな雰囲気は無い。精々、メダカくらいしか捉えられないのではないか?この精力を感じさせない男は過去に自殺をした事があるのだろうか?あ、自殺をしたら、魂が消滅するから自殺はしていないのか・・・。よっぽど、今が辛いと見える。しかし、こんな死人みたいな顔になるなんて、人間世界はなかなか過酷なのだなと思わざる得ない。


「寝ましたね」寝息を立てる島浦を前に兼人が言った。

 悪いが、ちょっと引っ掛けるような質問をした。


「具体的な絵を思い出せないのかもしれないよね。ただ、会いたいとか、悲しいとか苦しいとか、悲恋のイメージの象徴が美しい人なだけかもしれないよ」


「そのような想像をする人間はたくさんいると思うけど、浦島太郎といえば、やはり乙姫様なのではないかな?」


「じゃあ、乙姫様だったとしたらどうするの?」


「乙姫様にロックを解いてもらうしか無いよね?それが出来ないと、島浦、いや、浦島は無限地獄を漂うしか無いよね」


「で、どうする?」


「水亀先生にお願いして、時空を飛んで浦島の時代に飛ばしてもらう」


「それは出来ないとしたら・・・」


「この世界で乙姫の魂を探す。島浦が自殺する前に。いつ自殺するかは分からないけど・・・」


「それは奇跡を期待するしかないよね?」


「僕と茜ちゃんで奇跡を起こせって事かな?」


「え?」


「茜ちゃん、今回は時空を飛ぶのはダメだよって、先生に言われているのでしょう?」


 兼人の洞察力が格段に上がっているのか、私が過保護な親気分で過小評価をしていたのか、どちらの可能性もある。仕方がない。豊玉姫を兼人に会わせよう。



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