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第6話 島浦の夢の人

「何が見えますか?」島浦に声をかける。カウンセリングの始まりである。


「光が・・・。眩い・・・。音が・・・しない。暖かい・・・」


 海か?


「誰か見えますか?」


「音が・・・。誰もいない、いや、いる」


 まさに、今、海に潜って行っているのだろう。竜宮城に近付いて来たか?


「会いたかった人です・・・会えた・・。いえ、まだ・・・。遠くに行こうとしている。ああ」


「その人の名は?呼んでみて下さい」乙姫だろうな。疑う余地はないだろう。


「たま・・・」


 たま・・・? 猫?


「違うよ」

 びっくりして声がした後ろを振り向いた。茜ちゃんが腕を組んで立っていた。


「たま・・・たま・・・すまない。私は、其方との約束を破った。すまない。謝るから、帰って来ておくれ。許してくれ・・・。どうか・・・。すまない、覗いたのは心配だったからだ。愛しているのだ!愛している、愛している、愛しているのだ・・・」


 島浦は、悲痛な叫びと共に涙を流している。愛しているという言葉をひたすら繰り返していると思ったら、バン!という音と共に上半身を起こした。かなりの衝撃だ。びっくりした。


「大丈夫でしたか?」


 島浦は僕の声に反応して、ゆっくりとこちらに汗だくの顔を向け、焦点の定まらない眼で虚空を見つめて言った。


「先生、俺は、俺は、あの人の、あの人の名を呼んでいましたか・・・?」すがるような眼で、自らが発した女性の名を聞いて来る。


「た、」

 僕が島浦の読んだ女性の名を言おうとすると、茜ちゃんに強く袖を引き下ろされた。危うく尻餅を付きそうになる。慌てて、茜ちゃんの方を見ると小声で耳打ちされた。


「その名は言わない方がいい。魂にロックがかかってる」


 茜ちゃんがそう言って、島浦の目を見た。その途端、島浦はまた深い眠りに落ちた。何かしらの妖術なのだろう・・・。


 しかし、魂にロック? ロックの魂とか、ロック魂は聞いたことがあるが、魂にロックは聞いたことがない。そんな僕の疑問の声を読んだように茜ちゃんが言った。


「ロックは鍵って意味だよ。言霊がロックをかけた相手に届いたら、魂の破壊、いや、再編が起こると思う。その再編が、読み手が思う『浦島太郎』伝説に対する疑念だよ。玉手箱を開けたら老人になってしまうやつ」


「難しいお話しはさて置き、魂にロックをかけられるなんて、そんな事ができるのは誰・・・?あ、神様か・・・」


「妖怪のレベルで出来る業ではないね」


「乙姫様って神様なの?というか、ますます分からない。乙姫様は浦島のことが好きだったんじゃないの?今、浦島は乙姫様を愛してるから会いたいって言ってるのだから、会えたらハッピーエンドなんじゃないのかな?」


「乙姫様には何か浦島太郎に会いたくない理由があるのかもね。あと、多分、乙姫様とは水亀先生が会っていると思われるよ」


「あ〜。先生のクライアントは乙姫様で、この件の真のクライアント。小夜さんと円覚パターンですかね?」


「そうだけど、もしも、予想通りだとしたら、乙姫様は間違いなく神様だよね・・・」


「誰?何という名の神だろうか・・・?」僕は首を捻った。


 島浦の呼んだ「たま・・・」がヒントなのだろう。


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