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第3話 島浦太一

「俺は頭がおかしいのだろうか?」島浦太一の呟きである。」


 島浦は、誰にも頼られず、人との接触が少ない港湾倉庫の警備員として日々を過ごしている。かつては中学の教師だったが、ある事件をきっかけに退職。その記憶は断片的で曖昧である。


 島浦は、自身の人生に疑問を感じている。


 いじめを告発してからだろうか?あれから、全く人生が上手くいっていないような気がしている。おかしくなってしまったと思っている。しかし、その前の記憶も靄がかかったように曖昧であるために、どこからおかしくなっているのかを自分自身も分かっていない。


 ただ、おかしくなってしまったのだろうか?という自身への猜疑心の上を漂っている。


 そもそも、いじめの告発が本当に今現在を作っている原因なのだろうか?見るに耐えない暴力を目にしてそれを止めた。当たり前の行為を行った。それで、教員を辞める事になった。


「俺は何も悪い事をした覚えはない」

 教員を辞めてからよく口にする言葉である。誰に宛てたものでもなく、独り言に過ぎないが、自らが退職を選んだにも関わらず、現在の境遇に不満を覚えているからだろう。自然と口から出てしまう言葉である。


 自身の記憶の曖昧さや現状の立場に不満を感じている日々に不安を覚えるも、最も気になるのはよく見る夢である。


 結婚をしていないのだから妻ではない。恋人でもない。一方的に好意を寄せている飲み屋の女性でもない。好きなアイドルや小説や漫画の登場人物でもない。そもそも、女性とあまり関わりのある人生ではない。

 全く理解ができないが、頻繁に夢に出てくるその女性に魅力を感じている。それどころか、もうずっと夢の世界でその女性と一緒にいたい。そう思うようになってから、睡眠薬と酒が手放せない。


 横浜の港の見える山下公園のベンチで朝まで飲んで寝ていた時に誰かに声をかけられた。誰かは覚えていない。警察官ではなかった。陽が昇り、眩しさに目を覚ますと、胸のポケットに名刺が入っていた。


「水亀カウンセリングルーム 水亀信乃・・・」

 ここからすぐ近くの住所が書かれていた。


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