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第2話 初のクライアント?

 僕は唐突にカウンセリングルームの責任者になってしまったようだ・・・。 


「何をすればいいのだろうか?クライアントを待っていればいいんだろうか?いや、先生は神様担当。茜ちゃんは妖怪担当。人間担当の僕にクライアントを紹介してくれる訳がないよね。クライアントが違うのだから、当然だよね・・・。どうしたらクライアントができるのかな?」


 顎に手を当てながら一人悩んでいると、バン!と音を立て、乱暴にドアが開かれた。そちらに目を向けると茜ちゃんが立っていた。


「ちょっと相談なんだけど」珍しく茜ちゃんからの相談である。


「ん?どうしたの?」


「クライアントの相談なんだけど」


「妖怪のクライアント?」


「先生から紹介されたのだけど、そうとも言えないのだよね。むしろ、妖怪より人間に近い気がするから、兼人の方がいいかもと思ったんだよね。だから、兼人がメインで私はサポートをするよ。」


 これは有難いお話しである。このような形で担当クライアントを共有していくなんて、とても優れたシステムだと思う。


「根駒先生、有難うございます。助かります!誠心誠意、担当を務めさせて頂きます」


「き、気合い入れ過ぎだよ。じゃあ、兼人メインでいこう。じゃあ、情報見ておいて、名前は島浦太一。魂は流転しているはずなのに、名前って面白いよね」


 茜ちゃんは笑いながら部屋を出て行った。


 茜ちゃんは、僕を九条先生か九条さんと呼ぶのではなかったのかな?という疑問は置いておこう。


 彼女が面白いと言った意味がよく分からなかったが、デスクに置かれたパソコンで電子カルテを見て、意味が分かった。


 島浦太一。おそらく、浦島太郎だろう。確かに、妖怪か人か分かり難い。それどころか、神社もあったのではないか?そうだとすると、神様の可能性もある。水亀先生も神様か、化物か、人間か悩んで、茜ちゃんにパスしたのではないだろうか?という疑問を持ちながら、島浦の情報に目を通した。逐語記録とは別の要点整理のような資料だ。


「島浦太一。四十二歳。港湾倉庫の警備員。元中学校の教員。太一の言葉『夢を見る。海。女性が現れる。同じ女性だと思う。綺麗な人だったと思う。パーティーのような雰囲気。でも、虚しい。寂しい気持ちで目が覚める。虚しい』目付きは虚空を漂う。目が合わない一人語り。熱が無い。」


 逐語記録を併せて読むと、改めて、間違いなく浦島太郎だと思う。


 夢に出て来る女性は乙姫様だろう。まだ、一回目のカウンセリングだから聴くだけでよいと思うが、いつ頃から見始めた夢なのか、前職の教職員を辞めた理由と時期は聴きたい。しかし、茜ちゃんは、なかなかに冷静な傾聴をしているのだなと驚いた。興味関心で、質問を発していない。


 猫又の小夜さんのカウンセリングしか彼女が担当したカウンセリングを見ていないので、意外に思った。彼女は僕以上にキャリアのあるカウンセラーなのだ。少し反省する気分になった。


 次か、その次のカウンセリングが楽しみではあるが、島浦は眠れていない感もあるから早く次のカウンセリングに来てもらいたいと思う。睡眠不足は精神疾患の最も分かりやすいシグナルである。


 あ、次のカウンセリングの担当者は僕か・・・。


 おとぎ話の『浦島太郎』の読み直しと、横浜の港湾事務所やその周辺を見に行ってみよう。あと、大事なのは、何故、学校の先生を辞めて警備員なのか?普通に考えたらあり得ない転身だ。


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