兼人と姫と何者?
茜ちゃんに紹介された乙姫様は、思っていた以上に厳かな雰囲気がありながらも控えめな美しさが感じられる人だった。
あ、人ではないのか、柱か。
難しいと思った。このオーラを放っている人はそうそういない。おそらく、正面から会わせたら、四六時中ボーっとしている島浦でも立ち所に乙姫様だと気付くだろう。
どうしよう。気が付いたら次の人生に吹っ飛ばされるなんて、なんとも難しい魂だ。最近の言い方だと無理ゲーってやつだ。
「初めまして。九条と申します」茜ちゃんが連れて来たお姫様に自己紹介して頭を下げた。
「よろしくお願いします・・・」
消え入りそうな声で言った。自分がかけた呪いに自分が呪われてしまった様子だ。過ちというものがあるという事が分かる。自業自得なのだけど、どんなに苦しんで来たのだろう・・・。感情が流れ込んで来て涙が出そうになる。
「会いたい人がいるとお伺いしています」
「・・・はい」
「その人の名前は?」
「ホホデミ」
浦島とか島浦ではないのか、つまりはホホデミの魂の流転は知らないのか。知っていても、この姫様にとってはずっとホホデミなのだろう。流転した魂を見たくないのだろう。純粋だな。羨ましいくらい。美しい純愛だと思った。それ故に恐ろしい。それを知りながらも、これだけ女性に愛されるのは羨ましい。
「九条先生」
茜ちゃんが、いつの間にか乙姫様の横から、僕の横にいた。小声で言った。
「兼人、ぼーっとしないで。あんたがしっかりしないと、一つの魂がまた流転の苦しみに落ちる。乙姫様もずーと、ホホデミの名を呼びながら浦島を許せない無限地獄に生きることになる」
押し潰されそうな程に責任重大だな。良いアイデアが思い浮かばない・・。
ピンぽ〜ん。
壊れたようなドアホンの音に呼ばれた。茜ちゃんが足早にドアに走って。扉を開けた。扉を潜って来たのは、中学生?高校生?僕は思わず顔をしかめた。
「橋本です」その子は、名を名乗り頭を下げた。いい姿勢だと思った。茜ちゃんの知り合いの妖怪の類か?
「九条です」僕も負けじと良い姿勢を心がけて挨拶をした。そして、茜ちゃんを向いて言った。「どなたさんですか?」また、茜ちゃんお得意のふふんって感じの笑みを浴びせかけてきた。
橋本さん・・・?橋が付くから・・・橋姫?いや、そんな攻撃的且つ恐ろしい雰囲気は無い。橋姫ではないだろう。
「橋本さん。何故、ここに来たのですか?」
「根駒さんに声をかけてもらいました。根駒さんは、私と人と霊性を繋ぐ能力に期待してくれました。お化けとか、この世の者ではない者を仲介するに最適だと思われたのだと思います。お化けが見えると言うと、友達はいなくなるので嫌な能力なのですが、根駒さんは期待してくれました」
どう見ても、十六、七だろう。すごい雰囲気だな。何か憑いているのかと思ったが、何も憑いていない。よっぽど良い経験をしたのか、この子の持っている魂の強さなのだろうか。恐れ入る。
「橋本さんは、高校生?この度の役目は、乙姫様と島浦という元浦島太郎を、偶然的に出会わせる事ですが、ご存じですか?」
「心得えています。私は高校三年です」
すごいな。先程まで、自分が、私はどうしようか?と悩んでいたのが恥ずかしいくらいだ。
「では、どういう作戦で行きますか?全力でサポートします」
そのような会話を乙姫様は耳をそば立てながら聞き、震えていた。どこまで知っているのかは分からないが、このチャンスを逃したら浦島の魂は永遠に滅びる可能性がある。自殺してしまう。それだけは止めないといけない。最悪、魂が流転したとしても、自殺は止めないと魂がジ・エンドだ。同じ事の繰り返しだ。
橋本さんが鋭い眼差しで見据えて来た。日本刀の鋒ののような視線と共に提案をくれた。
「教育者さん向けの心を病んでいる人のエンカウンターグループでの出会いは如何ですか?場所はみなとみらいです。そこで何となく会って気になると思うくらいの頻度で地元で会わせる。この作戦のポイントは乙姫様を目立たないようにする事です。できますかね?」
これで高校生?何でこんな迫力があるんだ? アイデアも悪くない。
「乙姫様、できそうですか?」
「できます。やります」乙姫様の言葉を聞きながら橋本さんの方を見やると、眼光の鋭さと相反するように手足が震えていた。彼女は頑張っているのだ。すごいすごいと驚いていた自分が情けなくなる。
「やってやらねばだな」覚悟を決めるために呟いた。
後ろから、茜ちゃんが呟いた。「そうだよ。今回の役目は誰も失敗を許されない。ゾクゾクするね。やってやろう!」
茜ちゃんの目を見て頷いた。ちょっといいバディー感に震える。
僕は意気揚々に声を張り上げた。
「根駒先生、島浦の場所の特定をお願いします。今週末にエンカウンタ―グループの用意をします」
「合点!」茜ちゃんが呼応した。




