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第1話 兼人の独立

「先生にも悩み事はあるのですか?」


「ありますよ。何故、その質問を?」


「僕たち人間からしたら、神様には悩みなど無いと思っていました」


「それは誤解です。兼人くんには分かって来たのではないですか?

 それを感じていたから質問したのではないですか?」


「先生の能力を貸してもらってすごく苦しかったです。自在に時間や空間を移動できるようになっても、関われるのは今だけ。おそらく、世界を両手で握り締めたら、全てを破壊し、無にする事もできるのでしょうが、僕にはできなかった。また会いたい人たちの顔が思い浮かんでしまって・・・。全能とはあまりにも苦しくて、とても僕には使いこなせない能力だと思いました」


「兼人くん、素晴らしいですね。こんなにも早く理解してもらえるとは思っていませんでした。兼人くんと出会えてよかったです。ありがとう」


「あ、いえ、先生がお礼を言う理由なんてないです。僕は何もできていないですし、先生や茜ちゃんに教えてもらってばかりです」


「いいえ、今から何かをしてもらうのです。だから、お礼を言ったのです」


「え?」


 後ろの扉が開いた。ざわざわとカウンセリンルームの喧騒が流れ込んで来た。


「兼人、手伝って!」

 茜ちゃんが入って来るなり大きな声で言った。


「兼人くん、茜ちゃんのお手伝いお願いします。私はアルバイトに行ってきます」

 先生はそう言って消え去った。


「兼人!早く!今日中に終わらせるよ」


 何が何だか分からないが、返事をした。

「は〜い、今、行きます!」


 そう言って、茜ちゃんが呼ぶ隣りの部屋に入った。真っ白い部屋だ。以前に、吉野さんの身を清めるために入った部屋だが、今日は様子が違う。神棚も無くなっていたし、前より広く感じる。

 和服にエプロンの大正浪漫喫茶風の茜ちゃんが慌ただしく掃除をしている。


「何です。この部屋は?」


「先生から何も聞いてないの?」


「はい。茜ちゃんのお手伝いお願いしますと言って、アルバイトに出掛けて行きましたよ」


「え〜、この部屋は兼人のカウンセリングルムだよ。おめでとう。晴れて、カウンセラールームを持つ事になったね。因みに、私は兼人が試練を受けている間にカウンセリングルムを任せてもらえる事になったからね。クライアントの前では、根駒先生と呼んでね。私も九条先生って呼ぶからさ。あ、兼人は産業カウンセラー志望だから、九条さんのがいいかな?」


 唐突過ぎて茜ちゃんが何を言ってるのか、

 いまいち分からなかった。


「誰のカウンセリングルーム?」


「ん?分かんなかった?兼人、貴方が経営するカウンセリングルームだよ」


 びっくりなお話しである。


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