7、大人たちの作戦会議
セオが寝てしばらく後に、レオンはそっと部屋を出た。セオが起きたりするような事があれば呼ぶよう伝え、談話室に向かった。
待っていたのは、ジョンだ。
「お呼びでしょうか、レオン辺境伯さま」
「ああ、かけてくれ。セオの話をしよう」
「では、失礼致します」
ジョンは、向かいのソファに座った。
「単刀直入に言おう。セオには、領地を立て直すよう神の啓示があったそうだ」
「なんと…」
先代から侯爵家に仕えてきたジョンは、今の当主にこれっぽっちも治世の才覚がないのを知っていた。
今は王都で好きにしており、領地のことはこちらに丸投げだ。下手に首を突っ込まないのはいいのだが、だんだんと支出が増えてきている。
領地の経営は、ジョンをはじめとする古参が担っているため、今のところなんとかなっている。
しかし、セオドアもあれだったので、次代まで保たないだろうと思われていた。
セオが変わったのは、天啓だったのだ。
ジョンの目の端から、感動の涙がこぼれ落ちた。
それからふたりは、これからのことを話し合った。
王都の別荘には、セオが目覚めたことは伝えてあったが、身体が弱って寝込みがちだと報告することにした。
「幸いにも、使用人を刷新しましたので、王都の息がかかったものはいません。みな、素直で好奇心旺盛なセオ様にメロメロになりつつあります」
「めろめろ…」
まさかジョンから出てくるとは思わなかった言葉に、思わずレオンは小さく繰り返してしまった。
「はい」
きっぱりと返事をされて、思わず横を向く。
実は一番メロメロになっているのは、ジョンなのではないかと思ったレオンだった。
ーーー気を取り直して。
セオの勉強については、可能な範囲でジョンが教えることとなった。
まずは文字や簡単な計算からだ。それから、貴族の慣習やマナーなどについて。
もちろん、一番大切なのはセオの身体だ。
ムリをさせないよう、十分に配慮しながら教えていくことに決まった。
最後に。
「レオン辺境伯さま、恐れながら申し上げます」
「なんだ?」
「本日の夕食時、ご自分のフォークでセオ様に食べて頂いていましたが、セオ様はまだ礼儀を習い始めたばかりでございます」
暗に、「もうするな」と言っているのだ。
「セオは賢いから、真似はしないだろう」
「セオ様にとっては、レオン辺境伯様が一番身近な貴族なのでございます。将来のことを考えますとーーー」
「分かった、もうしない。じゃあ、おれはセオのところに戻って寝るから。時間を取らせて悪かったな、おやすみ!」
セオを盾にしてジョンの説教から逃れたレオンは、急ぎセオの部屋に戻る。
護衛からは、特に物音もせず、セオが起きた様子はないとのことだった。
そっと部屋に入る。セオは眠っていたが、その頰には涙の跡があった。
どうやら、寝ながら泣いていたらしい。もしかしたら、途中で起きてレオンがいないのに気づき、泣いたのかもしれなかった。
罪悪感を感じながら、その涙をそっと拭う。
そして、セオの全身をすっぽり抱き込み、よしよしと頭をなでた。冷えていた手足が温まると、口もとがむにゃむにゃいって、レオンの方に擦り寄ってくる。
レオンは、ホッとして眠りについたのだった。