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64、カーターとの話し合い②

「えぇと、今回の経緯は分かったんだけど、じゃあ辺境伯領から、誰か強い人が来たの?この時期に?」

 セオが首を傾げているのは、「下手人は誰だ?」問題が残されているからだ。

 普通に考えれば辺境伯領から手練れの者がやってきて、ということになるが、レオンですらこの時期は王都に来ることはない。

 辺境伯領はたくさん雪が降るため、ひと月程度は雪で閉ざされてしまうからだ。

 行商人も来られないため、食料品は全部地下の天然の冷凍庫に保存しているし、当主の屋敷周辺に防寒に特化した離れをたくさん作って、この時期だけ移り住んでいると聞いた。

 そんな時期に、わざわざ誰かやって来るだろうか?


 悩んでいるセオが新鮮で、カーターはふふっと笑った。

「確かに、今の時期に領地から出てくるのは不可能ではありませんが、かなり大変ですな」

「そうだよね?うーん…あ、もしかして別邸の誰かがすごく強かったりするのかな?」

「ふふ、ご想像におまかせします」

 カーターが否定しないということは、やはり別邸に強い誰かがいるということなのだろう。

 下手人像から、筋骨隆々な護衛たちは除外されるし、カーターのように痩せている男性も違うだろう。

 ある程度、筋肉がついていないと、攻撃をいなしたりするのも難しいのではないだろうか。

 セオの脳裏に、エドガーの姿が思い浮かぶ。

 足をケガしている時に何度か運んでもらったことがあるが、意外に筋肉質だった。

 それに、階段などでも一切身体がブレず、とても安定していて驚いたのだ。

 だが、予想を口には出さない。

 この話の目的は、下手人を見つけることではないからだ。

「分かった、じゃあ聞かないよ。それより、ぼくのケガについても噂になってるみたいなんだ。世間に出回ったら、今回のことと関連付ける人も出てくると思うんだけどそれはいいの?家同士の問題になって来ない?」

 セオが一番聞きたかったのは、このことだ。

 セオのケガに公爵家が関わっていると分かれば、闇討ちの件と結びつけて考える者は出てくるだろう。

 証拠はないが、どう見ても仕返しでしかないからだ。

 そうなれば、復讐なんて野蛮だと捉えられてしまうのではないか。

「ふふ。もし、噂を聞いて相手が言いがかりをつけてきましても、なんの証拠もございませんので、家同士の問題になどなり得ません。むしろ、美談として噂される可能性が高いでしょう」

「えっ、どうして?」

「子がケガをさせられて、黙っている親がどこにおりましょう。こういった場合は、もちろん方法は選ぶ必要はありますが、やり返してもよいのです」

 世間的には、この後、公爵家嫡男がセオをケガさせて第一王子の不興を買った、という噂が出回ることになる。

 聡い貴族たちは、その順番が逆だったと気づくはずだ。

 そして、証拠も残さず護衛を狙うという斬新な仕返しをしたことに感嘆するだろうということだ。

「…なるほど。じゃあぼくは、これでもかってくらい、レオンおじ上と仲良しだってアピールすればいいんだね」

 貴族たちが真実に気づいた時、困るのはセオの実父である、侯爵家当主の株があがることだ。

 普通に考えれば、彼がセオの親だから。

「そうですな。こちらも、おかしなことにならないようには動くつもりです」

 辺境伯家が内密にでも動くのなら、他の貴族たちも惑わされることはないだろう。

 格下の当主がちょっかいを出そうとしても、しきれるはずがない。


 それにしても、とセオは考える。

「…今回、レオンおじ上には迷惑かけちゃったよね。話し合いも大変だっただろうし…おじ上、怒ってなかった?」

 カーターの口ぶりから、話し合いはレオンが主体によるものではなかったのだろうと察しがついた。

 だが、セオが真実を話していれば、また違う選択肢があったのかもしれない。

「旦那さまがですか?セオさま、それはありえませんよ」

 しかし、カーターは笑って否定する。

「とても心配はされていましたよ。普段は領地にいて、すぐに駆けつけることができないことができないのがもどかしいとおっしゃられていました。…ここだけの話、拗ねられて大変だったのです」

「えっ、なんで?」

「お話しいただけなかったことが寂しかったのでしょう。機嫌を直していただくのに、とても大変でした」

「それは…ごめんね」

「いえ、それも含めて旦那さまですので。…ですが、これからは、旦那さまにだけは真実をお話しいただければと思います。例えどんなことがあっても迷惑などとは思われないでしょうし、喜んでセオさまのために動かれることでしょう」

 カーターの言葉に、ケガのことをごまかして「だいじょうぶ」だと伝えた時のレオンが思い浮かんだ。

 なにか言いたげだったのは一瞬で、すぐに笑って、「なにかあったら言え」と言ったのだ。

 きっとあの時、レオンはなにがあったか知っていたのだろう。それなのに飲み込んだのは、言わないと決めたセオの気持ちを尊重してくれたのだろう。

「…うん、今回は色々反省したよ。だからカーター、強い人にも、ぼくが謝ってたって、伝えておいてくれる?」

「はっ?」

 急に話が飛んで面食らったカーターは、思わず素で聞き返してしまった。

 「強い人」とは、護衛を襲撃した使用人のことだろうが、レオンの話題だったのに、なぜ急にそんな言葉が出てきたのだろうか。

「だって、人にケガさせるなんて嫌な役回りをさせてしまったでしょう?でも、謝るくらいでは全然足りないよね?お詫びするにしても、ぼくお金もってないし…なにかしたいことがあればできる限り協力する、という確約くらいかなあ?」

「お待ちください、セオさま。最終的にお決めになったのは旦那さまでございます。セオさまがお気になさることではございません」

「えぇと、誤解しないでほしいんだけど、僕はレオンおじ上の決定が嫌だったとか、そういうことを思ってるわけじゃないんだ。でも、それと、誰かを傷つけるよう命令されるのは、別だと思う」

 セオの前世は、暴力なんて身近にない世界だった。

 だから、たとえ罪を犯しても、暴力をもって報復することは違うし、それ以上に、誰かにそうするよう「命令」するのもおかしいと思う。

「ぼくは、誰かを傷つけるのは、とても嫌で、怖いことだと思ってる。だから、そんなことをさせてしまって、ほんとうにごめんなさいっていうのは、伝えてほしい」

 まっすぐな言葉に、カーターは胸が詰まった。 

 命令を遂行して、「よくやった」とねぎらう主人はいても、手を下すよう命令され、実行した使用人の気持ちを慮る主人などいない。

 きっと、セオ以外には。


「ーーかしこまりました、必ず伝えるとお約束致します。ですがセオさま、彼は後悔してはいないと言っておりました。どうか、お気になさらないで下さい」

「うん、ありがとう」

「こちらこそ、ありがとうございました」

 話を終えたカーターが部屋を出ると、すぐさま廊下の向こうからメイがやってくるのが見えた。

 人払いして話すことなど滅多にないため、きっとなにかあったのかと心配していたのだろう。

 慕われすぎるのも大変だと思いながら、カーターは使用人の居住スペースに向かったのだった。

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