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63、カーターとの話し合い①

 冬休みが終わり、セオは、また王都に戻った。

 今日は、新学期が始まって初めての学校だ。

 いつも通り早めに登校したのだが、思いがけないことがあった。

「確か、あの子ですわよね?」

 廊下を歩いていると、そんな声が聞こえてきたのだ。

「ああ、飛び級をされた子ですわね」

「足が治ってるみたいで、よかったですわ」

「第一王子が颯爽と止められたのですわよね?見たかったですわ〜」

 と、ご令嬢たちがこそこそ話している。

 どうやら、セオのケガの件が噂になりつつあるようだ。

ーーこれはマズイ。

 レオンに真実を言わなかったのは、所詮は子どものケンカ。

 目撃者はいても、広まることはないと思っていたからだ。

 ただの事故ではなく、故意であったことを知れば、きっとレオンたちは怒るだろう。

 「目には目を、歯には歯を」精神で、仕返しなどして、家同士の問題になると大ごとだ。

 レオンだからバレるような手段は取らないだろうが、万が一ということもある。

 そんなことを考えながら教室に行くまでも、セオは何度か注目を浴びることになった。

 きっと、あの場に第一王子がいたから目立ったのだろう。

 ルークと距離を置かされる原因にもなったし、やっぱり好きにはなれない。

 自分も飛び級をして目立っていることは置いておいて、セオは珍しくご機嫌斜めなまま教室に着いたのだった。

 

 しかし、続々とクラスメイトが登校してきて話をするようになると、セオの機嫌はすぐに良くなった。

 噂はすっかり出回ってしまっているようだ。

 何人かには直接確認されたため、ハローズ公爵家の名前は出さず、第一王子に助けてもらったことを強調しておいた。

 第一王子の美談にしておけば、セオが目立つことはないだろうからだ。

 

 もちろん、話題は休み中のことにも遡る。

 みな、楽しい休みだったようで、「〇〇に行った」など楽しく話していたのだがーー不意にある男の子が、声をひそめてセオに言聞いた。

「なあ、知ってるか?ハローズ公爵家の護衛がひとりずつ襲われて、残りの護衛もみんな辞めちまったんだってよ」

「えっ…!?」

 驚愕するセオだが、実家が遠くて帰らなかった組は、みんな知っているらしい。

「それも、相手はたったひとりで、すごく大きいわけでも、強そうでもなかったんだって」

「えー、そうなの!?」

「それに、誰も顔を見れてなくて、犯人の手がかりもないって」

「わたし、母上がお話ししているのを聞いちゃったんだけど、ほかの貴族からの仕返しじゃないかって言われてるんだって」

「なにそれ、怖いねー!」

 このクラスには、ハローズ公爵家と近しい生徒がいないようで、きゃっきゃと盛り上がっている。

 そんな中、ふとセオは思った。

 このタイミングで、ハローズ公爵家の護衛が、なんて偶然だろうか?

 セオのケガの真相にたどり着いていたら、レオンが動いた可能性もあるのではないだろうか。

 いや、むしろ、その可能性しかない。

 うわあと思っていたら、顔に出てしまっていたらしい。

「セオくん、だいじょぶ?体調が悪いの?」

 隣の席の女の子が心配そうに声をかけてくれたため、セオは慌てて笑顔を作った。

「ううん、だいじょうぶ。元気だよ」

 ごまかしながらも、その疑念は消えない。

 セオは、一刻も早く帰って、確かめなればと思ったのだった。


 幸い、今日は始業式やホームルームだけで、学校は昼までだ。

 終わりの鐘が終わると、セオは足早に門へ向かった。

 体に負担がかかるということで、走るのは禁止されているため、精一杯の早歩きだ。

 待機していた護衛②は、セオが先頭集団に紛れて出てきたのに驚いた。

「セオさま、急いでどうしたんすか?トイレなら学校で…」

「違うよ!」

「じゃあ、腹減ったンすね。オレもっす」

「だから違うってば!カーターに聞きたい事があるから、早く帰りたいの!」

「あ〜、そうなンすか。すいません」

 相変わらず護衛②は軽い。

 しかし、セオの早歩きにきっちり付き合いながら歩く辺り、人は良いのだった。


「おかえりなさいませ、セオさま。どうされましたか?体調はおかわりないですか?」

 別邸に帰ると、カーターが出迎えてくれたが、少し息を乱しているセオが返答するより早く、「失礼します」といって、首元を触って、熱くないか確かめている。

「元気だよ。早く帰りたかったから、早歩きして帰ってたの」

「では、おなかが空かれましたかな?本日の昼食は、魚がメインだと料理人たちが言っていましたよ」

「えっと、それも楽しみだけど違うよ。カーターに聞きたい事があるから、急いで帰ってきたんだ。今日、時間はとれる?」

「はい。それでは、昼食後はいかがでしょうか?」

「いいよ。じゃあ、今からお昼ご飯食べてくるから、終わったらぼくの部屋に来てくれる?」

「かしこまりました」

 深く頭を下げたカーターは、自分も昼食をとり、余裕を持ってセオの元へ向かう。

 部屋の前で待つことしばし、セオがやってきた。

 内密な話であることを伝えると、素早くお茶の用意をしたメイは、部屋を出ていった。


「それで、なんの用でございましょう?」

「あのね、今日、とある公爵家の護衛が襲撃された事件があったって聞いたんだ。それって、レオンさまの指示だったりするのかなぁと思って」

 カーターは、思わず笑ってしまった。

『学校で噂を聞いたら、セオは間違いなく俺の関与を疑うだろう。多分、カーター辺りに探りを入れて来るだろうな』と、レオンが言っていた通りの展開になったからだ。

 まあ、直球であるのがセオらしいが。

「そう思われる理由をお聞きしてよろしいですか?」

「それは…護衛が狙われるって、あんまりないことだから。そういうことを考え付きそうなのは、レオンさまかなって」

 もしかしたらその火種が自分ではないかと思っている、セオの歯切れは悪い。

 セオが知っている限り、辺境伯家はハローズ公爵家との付き合いはないし、例えトラブルがあったとしても、わざわざ手を出す真似はしないはずだ。

 なぜなら、すでに息子は第一王子の不興を買っている。

 そのことを父親は把握しておらず手を打てていないし、今回の護衛事件も解決できていない。

 貴族として問題があるとみなされても、仕方ないやらかしだからだ。

 辺境伯が手を下さなくても、いずれは自滅するだろう。


 セオがじっと見つめていると、カーターはにっこりと笑った。

「護衛襲撃は、旦那さま主導ではなく、使用人みんなとの話し合いで決めたことです。本当でしたら、セオさまがお帰りになってから、どのような仕返しを行うかの話し合いを行うべきでしたが、みなが暴走しそうでしたので、取り急ぎということで決めさせていただきました。大変申し訳ありません」

 レオンは、セオのケガの真相を噂で聞いた使用人たちが暴走するのを危惧し、早々にみなに伝えていたのだ。

「焼き討ちを!討ち入りだ!!」

 と、暴走する彼らを必死になだめた結果、当主の悪事に加担している可能性の高い護衛を狙うことになったのだという。

「いや、いいよ…」

 そう答えながらも、セオの眉尻は下がっている。

 やはり、自分が原因だったからだ。 

 だが、セオが落ち込んだのを、カーターは話し合いに参加できなかったからだと受け取ったらしい。

「あのときは急いでいたので、すぐに身辺調査ができるのが護衛程度の人数だったのです。ですが今は、全使用人の調査が完了しております。誰がどういった罪を犯しているかしっかりと分かっておりますので、屋敷への焼き討ちでも個人への仕返しも問題ないかと」

「いや、そこまでしなくていいよ!ぼくは全然怒ってないし、もうこれ以上、なにもしないで」

「そうですか。セオさまはお優しいですな」

 カーターは孫を見るように目を細めているが、セオが優しいのではない。

 焼き討ちなんて発想が出てくる方がおかしいのだ。

 それにしても、てっきりレオン主導だと思っていたが、むしろ使用人たちを止めてくれたらしい。

 心の中でレオンに感謝するセオに、カーターはコソッとつけ足した。 

「ちなみに、メイさんだけはまだ真実を知りません。話し合いにも、参加してはいないのです」

「あ〜…そうだねぇ」

 メイが省かれた理由。

 それは、自分で言うのもなんだが、セオ命すぎるからだ。

 ケガの真相を知ったら、ひとりでも乗り込んで行きかねない。

 奇跡的にそこを止められても、護衛を狙うくらいでは、とても納得しなかっただろう。

「しかし、いつまでも隠せることではありません。そろそろとは思ってるんですが…」

 メイには、セオのケガの真相に関する噂が届かないよう、使用人総出で気をつけているらしい。

 気をつける必要のない、護衛襲撃事件の噂は知っているようだ。

「…それじゃあ、もし必要ならぼくの名前を出してもらっていいよ。それなら、メイも納得するだろうし」

 つまり、護衛襲撃は、セオが望んだ仕返しだということにするのだ。

 主が納得しているなら、メイがそれ以上あれこれ言うことはできない。

「それは助かります、ありがとうございます」

 これで、懸念事項がひとつ減った。

 カーターは心からセオに感謝して、深く礼をしたのだった。 

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