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61、領地へ

 久しぶりに登校したセオを、クラスメイトは温かく迎え入れてくれた。

 足をケガしたと聞き、ずっと心配してくれていたらしい。

 移動する時も誰かが付き添ってくれたため、安心だった。

 そして、幸か不幸か、ルークたちとは会わないまま冬休みに入って、領地に戻ったのだったのだった。

 屋敷では、使用人とともに、イアンが待っていてくれていた。

 前回、こっそり会いに行ったことで、「イアンの隠し子ではないか」という噂がたったらしく、それはまずいということになったのだ。



「イアン、ただいま!」

「セオさま、おかえりなさいませ!」

 応接間でソファに座ったまま出迎えたイアンに、セオは突撃して抱きついたが、イアンはびくともしなかった。

 というか、だいぶ筋肉がついたようで、胸板も厚い。

「イアン、ムキムキになった?」

「はい。毎日筋トレに励んでおりますから。そのおかげで、手すりがあれば、少しの間立てるようになったのですよ」

「ほんとに!?すごい!!」

「それに、セオさまが、『マッサージ』を教えてくださったでしょう。毎日欠かさずしてもらっていたからか、少しですが、感覚を感じる箇所も増えたのです」

 それに、以前は真っ白で氷のように冷たかった足は、少し血色がよくなり、体温が感じられるようになった。

「すべて、セオさまのおかげです、ありがとうございます」

 イアンがそう言うと、セオは不思議そうに首をかしげた。

 そして、「それは、毎日、マッサージしてくれる人のおかげだよ?後で、ぼくもありがと言っていい?」と、廊下を指して言ったのだった。

 それは、別室で待機している世話係の青年にだ。

 イアンは驚いたが、薄々、そう言うと思っていたジョンは、「今回だけですよ」と、苦笑しながら頷いたのだった。



 その後、セオは領地に関する報告を受けた。

 作物に関しては、大体見込んでいた通りの収穫量だったそうだ。

 『肥料』が他の領地に浸透しつつあるため、他の領地に一般的な輸出することは少なくなってきているが、その分、領地での消費量が増えている。

 食べ物の屋台も増え、食生活も充実してきた。

 今後は、外貨獲得のために、特産の樹木や草花の栽培を増やすことを考えているそうだ。


 次に、イアンから子どもたちについて報告を受けた。

 イアンが将来のことについて聞いたことで、子どもたちは思うところがあったらしい。

 女の子は特に、料理や掃除を手伝うようになり、「〇〇をやってみたい」という希望が聞かれるようになったそうだ。

 そして、「裁縫を習いたい」という声を受け、セオの服を作ってくれているお針子が、出張講座を開いてくれたのだ。

 当日、用意されたのは、たくさんのハギレ生地と、色んな色の刺繍糸とゴム紐。

 それらを見た瞬間、女の子たちは歓声をあげ、生地に興味を持つグループと、裁縫に興味を持つグループに分かれたのだった。

 もちろん、アビーは前者で、リーは後者だ。

 アビーは、単色の布地にレースを重ねるという、高級感ある組み合わせを思いついた。

 リーは、布地と針を渡されると、一度説明されただけで、指定された幅できれいに縫って、周りを驚かせたそうだ。

 

 その後、お針子がハギレを置いていってくれたため、しばらくの間、子どもたちは口当てを作り放題だった。

 大人がいる時にケンカせずに作ること、というルールをしっかりと守り、女の子たちは協力してたくさんの口当てを作った。

 『未使用品に限り、ひとり三枚まで持っていい』というルールもでき、女の子たち同士で交換したり、作ってほしいもののリクエストしたりして、楽しく過ごしていた。

 しかし、男の子たちは誰も手を付けない。

 なんとなく、女の子たちだけのもののようで、恥ずかしかったのだ。

 

 とある男の子は、セオと同じように喉が弱く、よく咳をしていた。

 そこで、アビーが男の子っぽいデザインの口当てを考えて作ったのだが、やはりつけない。

 ある寒くなった日、男の子は熱を出した。

 幸い、回復は早かったのだが、やはり口当てはつけたがらない。

 誰かが、「せっかく作ったのに、口当てしないからよ」と言うと、「頼んでねーよ」と言い返す。

 一触即発の空気。

 今やケンカかと思われた中、静かに口を開いたのはリーだった。

「口当てつけないなんてもったいないわ。せっかくセシリアとお揃いなのに」

「えっ、セシリア?」

 男の子の脳裏に、きれいなエメラルドブルーの瞳が思い浮かぶ。

「あの子も喉が弱いから、ずっと口当てをしてたでしょう?」

「そう…だったな」

「お揃いなんていいわね」

 リーがにこっと笑うと、男の子は無言のまま退出したが、すぐに食堂に姿を現した。

ーーー帽子を深くかぶり、口当てをして。

 その表情は、遠目にも満足げだ。

「…ばっかみたい」

 その様子に、女の子の誰かが呟き、リー以外の女の子たちは、深く頷いたのだった。

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