60、大人たちの心配
レオンから報告を受けたレオンは、早速、国王への謁見願いを出した。
普通なら数日、遅ければ数週間かかるが、セオの試験までには解決してやりたいと思ったレオンは、裏の手を使った。
自分の立場を利用し、「辺境伯領に関する相談を内密に至急行いたい」と申請したのだ。
翌日には面会が認められ、レオンは城の応接室に向かった。
謁見の間ではないのは、人払いを行うためだ。
メイドはお茶の用意をすると出ていき、二人だけになる。
レオンは、先ほどまでの態度はどこへやら、長い足を組み、肘掛けに肘をついた。
ここから先は、友人同士の話となる。
「ーーーして、話とは?」
「もちろん、セオのことだ」
「やはりそうか。…もしかして、文化祭でなにかあったかの?」
「ああ。ケガをして帰ってきた。…が、それだけではないと思う」
「なんじゃと!?」
驚く王に、レオンは、ざっくりとエドガーが調べてくれたことを報告した。
なにも掴めていなかった王は、辺境伯家の情報収集能力に舌を巻く。
「そうか。…実はこちらもな、ルークの様子がおかしいので気になっておったのじゃよ」
王は、ルークが文化祭一日目は楽しかったとにこにこして帰ってきたのに、二日目からは言葉少なになり、特に兄である第一王子とはあまり会話をしていないことを伝える。
「なにかあったか聞いてもなにもないと言うし、こちらも困っておったんじゃが…多分、あの子がなにか言ったんじゃろう」
さすがというべきか、二人は真実にたどり着いていた。
「して、どうする?」
「どうするもなにも…ボンに聞いて正直に言うと思うか?」
「思わんな」
王はため息をついた。
眉目秀麗、聖人君子で通っている第一王子は、実はかなりいい性格だ。
どんなやりとりがあったか分からない以上、セオたちのことを聞いても、はぐらかされるだろう。
「じゃが、今回の件、なにかしら理由があったのかもしれん」
「理由?」
「ああ。あの子は弟が絡むと、ぽんこつになるが」
「おい」
「普段は王子としていろいろ計算して動いとるからな。もしかしたら今回もそうかもしれん」
国王の目に、痛ましい表情がにじむ。
第一王子には、レオンのような存在がいない。
そのため、全部自分ひとりで考えて、行動して、望む結果を出そうとするのだ。
「…まあ、そういうことならしばらく様子観るか。試験までには解決してやりたかったが、しかたねぇな。おい、ボンにこれ以上かき回さないよう伝えることはできるか?」
「ああ。わしからそれとなく牽制しておく。目的があったとしても、他人にしんどい思いをさせていいわけがないからな」
「よろしく頼む。それと、セオがあまりにもしんどそうなら、学校を辞めてもいいと伝えるからの」
「…そうじゃの。セオが望むなら、それがええかもしれん」
飛び級したセオは、良くも悪くも目立つ存在だ。
変にいちゃもんをつけられるくらいなら、その方がいいのかもしれない。
在学中、その美貌で注目を集めた妹のことがある。
レオンが過保護になるのも、無理はないと王は思った。
そういうことで話はまとまったが、忘れてはならないのが、セオのケガのことだ。
「あ、ハローズ公爵家には、影で動いて相応の礼をさせてもらうからな」
ブラッドリーは気づいていないが、辺境伯別邸に住んでいるセオをケガさせたということは、辺境伯にケンカを売ったと同義だ。
すでにエドガーたちに、今回の件は「噂」という形で流してもらっている。
蛙の親は蛙というか、貴族第一主義であまり賢くない父親が知る頃には、社交界で爪弾きになっているだろう。
まぁ、それとは別のお返しも考えているが。
黒いレオンに、王も頷いた。
「あそこは遅かれ早かれといった感じもするし、多少はかまわんじゃろ」
「遅かれ早かれ」というのは、まっとうな領地経営もできていないのではとタレコミがあり、極秘に調査したところ、ほぼほぼ黒だったからだ。
だが、上がアレにしては配下のガードが固いため、証拠集めが難航している。
糾弾する準備ができるまでには、もう少し時間がかかるだろう。
謁見から戻ると、セオが笑顔で出迎えてくれた。
「レオンおじ上、おかえりなさい!」
「ただいま、セオ」
「あのね、お医者さまがちゃんと試験に行ってもいいですよって言ってくれたよ!」
とはいっても、安心のために『ギプス』のようなもので固定することになるので、準備が少し大変らしい。
「そうか、よかったな」
昨日は、レオンに気を使わせたと落ち込んでいるようだったが、今日はいつもどおりの笑顔だ。
もしかしたら、試験に出られると聞いて、安心したのかもしれない。
セオと共に応接間に移動すると、すぐにお茶の準備がなされた。
使用人が出ていくと、レオンが口を開く。
「セオ、絶対試験に出なければならないわけではないぞ?もし、学校に行くのがしんどいのなら、このまま試験を受けずに領地に帰るのはどうだ?」
「えっ」
セオは、驚いた。
外出から戻って来ての、この話だ。
誰かから核心に迫ることを聞いたのかもしれない。
ーーーまた、心配をかけてしまった。
へにょんと眉が下がるセオだが、もう決めている。
セオは、まっすぐレオンの顔を見て、首を振った。
「あのね、そのことでぼくも話をしようと思ってたんだ。実は、このケガ、人と当たって転んでなっちゃったんだ。びっくりしたからちょっと元気がなかったんだけど、もうだいじょぶだよ。試験にもちゃんと出たいし、学校でがんばりたいんだ」
どうやらセオは、落ち込んでいたのはケガをしたからだと言い張るつもりらしい。
ブラッドリーのことも第一王子のことも言わないのは、言えばレオンが動くのが分かっているからだろう。
きっと、大ごとにしたくないのだ。
「分かった。お前がそう言うなら見守ろう。だが、今度ケガすることでもあったら、問答無用で迎えに来るからな」
「うん!ありがとう」
言外に「うまくやれ」というメッセージが込められていると感じたセオは、にこっと笑った。
セオが開き直ったのは、原点に立ち返って考えたからだ。
そもそも、セオの目的は、父の手から領地を守ることだ。
そのためには学校に通う必要はないが、卒業するまでは、王家や王都に変化がないか見ていたいと思う。
物語がどう転んでいくか分からないが、領地にこもっているより、情報が得られる可能性が高い。
そのためには、ルークやシリルと会えないことなんて些細なことだ。
そもそも、王家とは関わらないようにしようと思っていたのだから、むしろ今回の件はよかったのだ。
そう自分に言い聞かせて、セオは自身を納得させたのだった。




