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59、エドガーたちの活躍

 それは、辺境伯領が大きな手柄を立て、王都の一等地に別邸をもらった頃に遡る。

 当時から人手不足だった辺境伯領は、なんとか使用人を置いたくらいで、社交に参加する貴族はいない。

 そのことは予め王家に伝えて了承を得ていたため、領主は気にも止めなかったが、使用人たちは、情報が入って来ないことの危機感を感じていた。

 屋敷があるということは、王都に拠点があるということ。

 「知らなかった」で済まないこともあるかもしれないのだ。

 困った初代家令は、旧知の中である、他家の家令に愚痴を零した。

 その頃は、貴族家が持ち回りで使用人見習いの教育を一手に引き受けることが一般的で、他家に就職してからも付き合いがあることも珍しくなかったのだ。

 ちなみに、その教育制度は、色々不正があり、わずか十数年でなくなったのだが。


 それはさておき。

 なじみの席で一杯やりながら、初代家令の悩みを、うんうんと聞いてやる他家の家令たち。

 泣き上戸の彼がおいおいと泣き始めたため、よしよしと慰めながら言う。

「しかたねえから、できる範囲でうちの情報を流してやるよ」

「うちも、旦那さまの許可が出たらな」

「俺は旦那さま嫌いだから、普通に協力する」

「大丈夫なのか、それは!?」

「さすがにやばいのは流さねぇよ」

「お、おまえら…本当にありがとう!!」

 

 こうして、他家の使用人との繋がりが生まれた。

 そのうちメイド同士、庭師同士などの集まりもできると、お互い助け合うようになった。

 しかし、繋がりが増えたことで、情報の信憑性が疑わしかったり、伝えてはならない情報がやりとりされてしまうこともあった。

 そこで、別邸ではいくつかのルールが設けられた。

 情報を統制するのは家令で、得た情報は家令のみに報告すること。たとえ仲が良くても、他の使用人には情報は流さない。

 他家に流していい情報は、家令から担当者に伝えられることのみだ。

 情報収集を行う担当も決め、それ以外は集まっても情報のやりとりをすることは禁じられた。

 情報交換の場は居酒屋などが多い。

 酒に呑まれるとうっかり口を滑らしたりするので、酒が強く、口が堅いが楽しく飲める者が担当している。

 酒の強さは遺伝することが多いため、情報収集担当は、ほとんどの場合、代々受け継がれている。

 


ーーーセオがケガをした夜。

「先ほど、セオさまのお怪我のことを書いた手紙をレオンさまに出しました。恐らく、一週間から十日後には来られるでしょう。それまでに、文化祭での情報を集めなさい」

「承知しました」

 カーターがエドガーにそう命じたのは、セオの態度に些細な不自然さを感じたからだ。

 自分だけでなく、メイもそうだったというから、きっとなにかあったのだろうと予想だてた。


 エドガーは、情報収集を担当している屋敷の使用人たちを秘密裏に集めた。

 文化祭二日目に変わったことがなかったか、貴族学校に通う子女のいる家から、情報を得てほしいことを伝える。

 本来なら、家令であるカーターが情報をまとめるが、今回は経験のために、見習いであるエドガーが行うこととなっている。

 みな、なんとか試験までには、セオが安心して登校できる環境を整えたいと思っていた。

 そのために、できることがあるかもしれない。

 使用人たちは張り切って話を聞きにいき、エドガー自身も、カーターから引き継いだ人脈を使ったが、なかなか有益な情報は得られなかった。

 通常の授業ならクラスメイトの家に当たればいいが、今回は生徒たちの動きが自由な文化祭でのことだ。

 目撃者が使用人や家族に話していなければ、使用人も知りようがない。

 

 なんの情報も得られず、三日が過ぎた。

 こういった情報は、時間が経てば経つほど得られなくなる。

 もしかしたら、セオの言うとおり、本当にケガは事故で、憂うようなことはなにもないのかもしれない。

 それならそれで安心なのだがーーー。

 そう思っていたところ、とある男爵家の執事から情報が入った。

「お嬢様が小さな子がいじめられているのを見たが、相手の方の位も高く、助けられないのを悔しく思っていたところ、第一王子が助けに入ってかっこよかったと話していた」と。

 エドガーは、奇跡だと思った。

 それからは、情報をしぼって話を聞くことで、相手がブラッドリーであること、事件が起きた大体の場所や時刻も分かった。

 そして、情報を精査していたエドガーは、ケガをしてから保健室に行くまで、誤差では片付けられない時間があったことに気づく。

 その間なにかあったのだろうと検討をつけたが、ついに有力な情報を得ることはできなかった。

 エドガーたちは落ち込んだが、報告を聞いたレオンは違っていた。

「あんの(ボン)…なんかセオに吹き込みやがったな」

 低い声で、そう言ったのだ。

 『(ボン)』とは、第一王子のことだ。

 一国の王太子をそう呼んでいるのは、世界広しと言えど、国王の親友であるレオンくらいのものだろう。

 レオンは、セオが事故だと言い張ったのは、相手の爵位が上だから大ごとにしたくなかったのだろうと検討をつけた。

 しかし、それくらいでは引きずらないはずだ。 

 それ以上のことが起き、その相手は王族だと検討をつけたのだ。 

 弟大好きの第一王子は、きっとルークと仲の良いセオをよく思っていなかっただろうし、ここぞとばかりにつけこんだのだろう。


「エドガー、よく調べてくれた。礼を言う。他の者たちにも、俺がねぎらっていたと伝えておいてくれ」

「もったいないお言葉です」

 エドガーは深く礼をしながら、安堵していた。

 自分たちの働きが及第点をもらえたこともあるが、もう一つ。

「後は俺が当たってみる。セオを落ち込ませるなんてなぁ…見てろよ」

 クッと笑うレオンは悪い顔だが、任せておけば間違いないと信じられるからだった。

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