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4、この物語について

 意識が戻ってひと月。

 眠る前にセオは、今後について考えることにした。

 この物語は、『平民の主人公が、腐敗にあえぐ国を正そうと立ち上がり、同じように考える貴族をまとめて、血を流さない革命を成し遂る』というストーリーだ。

 舞台は中世ヨーロッパのようで、貴族制度があり、主な移動手段は馬車。それなのに、上下水道が完備されており、電気もある。

 前世と比べると、発展しているところとそうでないところがはっきりしているらしい。

 そして、暦や時間は日本と同じで、四季があるという謎仕様だ。


 さて、貴族の義務は、領地を治めることだ。

 基本的には領地にいて民の生活を支え、有事の時には先導して物事を治めることも必要となる。

 もうひとつ、大切なのは社交だ。

 貴族にとって、他家と繋がりをもつことや、情報を得ることは何より重要となる。そのために王都に別邸を持つ家も少なくない。


 セオが領地にいて、父が王都で暮らしているのも表向きは「社交のため」だが、実は違う。

 父に、セオを養育する気がなかったのだ。

 そして、愛人たちと一緒に暮らすために王都にいる。さすがに領地で愛人を迎えると反発があるからだが、「幼い子をひとりで領地に置いておくなんて」と、貴族界では総スカンをくらっているらしい。

 だが、元々「家のため」という気持ちがない父は、最低限の社交しかしていないため、気づいていない。


 そして、そんなセオがこの物語において果たす役割はというと。

『侯爵家の長子として産まれるが、すぐに母親が亡くなると、ひとり領地に置かれる。そして、十五歳の時に主人公によって父の不正が暴かれ、父とともに断罪される』というものだ。

 ちなみに、領地にいただけのセオドアは、不正に関わっていない。どうして一緒に処刑されてしまうかというと、「親が悪いことをしたら、子どもも一緒に処刑。爵位は剥奪。領地も国に返還する」という貴族法があるためだ。


ーーーいや、おれ必要?

 と、物語を思い出した時に瀬央は思った。

 別にセオの存在がなくて、父親一人でも断罪されて爵位と領地がなくなるのは同じだ。

 だったら別に存在すら必要なかったのではないかと。

 それを証拠に、断罪される時には、「贅沢三昧をしてブクブク太った親子」という一文が出てくるくらいで、名前すらでてこない。

 モブ中のモブだった。

 

 それはともかく、処刑まであと十年ある。

 セオの役割がモブでも必要なら、その間はどんなに病気をしても死なないのだろう。

 だったら、セオがやることはひとつだ。

 父親に気づかれないように金策を行い、ひとりの餓死者も出さないこと。


 だって、セオは知っている。

 この先、無理な増税を行うばかりか、民に必要な予算を贅沢に使い、食べるのに事欠く民が出てくることを。

 僅かな食べ物を巡って民の間で争いが起き、無駄な血が流れることを。

ーーーそんなのは、絶対に嫌だ。


 セオは、この十年間を民のために使うつもりだ。 

 それが、瀬央がセオドアに成り代わった理由だろうから。


 そのために、今何ができるのか。

 残念ながら、セオはまだ五歳の子どもだ。身体は弱いし、下手に目立ったら王都にいる父たちに目をつけられることになる。

 先に知識をつけたい。

 瀬央の知識があるので、普通の五歳児よりは賢いだろうが、この国の文化や習慣などは分からない。

 そしてできれば、味方を増やしたい。

 屋敷内では、セオが変わったことで、多くの使用人が味方になってくれているが、できれば外部にもほしい。

 それも、領地に関わりのない、ある程度の良識と立場をもった大人がいい。

ーーーまぁ、そううまくいかないだろうが。


 そこまで考えた時、横になっているのにめまいがした。限界がやってきたのだろう。

 セオは、強い眠気に意識を飛ばしたのだった。


 翌朝。

 メイはいつもの時間にセオの部屋を訪れたのだが、セオは起きなかった。よほど深く眠っているようで、呼びかけたり、身体を軽く揺すっても起きないのは初めてだ。

 セオは、睡眠時間が長い。

 夜の九時にはベッドに入るが、七時に起こしても、「もうちょっとねる…」と二度寝することがあるくらいだ。

 ちなみに、がっつりお昼寝もしている。

 そうしないと、体力がもたないからだ。


 心配になったメイは、アルフに往診を頼んだ。

「ふむ。…身体に異常はない。深く眠っているだけのようじゃ。昨日はなにか特別なことをされましたかな?」

「久しぶりにお庭を少しお歩きになりました」

 といっても、表玄関を出たところにある花壇付近をちょろっとしただけだった。

 時間にして五分ほどだったが、外に出るのは初めてなセオテンションは爆上がりだった。

 赤や白、ピンク。青に水色。

 花壇にはたくさんの花が咲いており、とてもきれいだったのだ。


「そうか。いつもよりはしゃいでお疲れになったのかもしれない。ゆっくり眠っていただくといい。もし、起きられた時に体調がよくなければ呼びに来られよ」

「承知しました」


 結局、セオが起きたのは昼前だった。

「おなかすいた」

 無邪気にそう言ったセオに、メイはほっとする。

「よかったです。中々起きられなかったので心配しました」

 言われて外を見ると、太陽の光がいつもより強いようだ。時刻を聞いたセオは、寝すぎだと驚いた。

 メイは、「昨日たくさん歩いたので、疲れていたのでしょう」と言っていたが、多分考すぎが原因だ。

 よほどのことがない限り、あれこれ考えるのは、眠る前でも控えようと思ったのだった。

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