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39、飛び級しました。

 貴族学校は、九歳から十七歳まで、九年間通わなければならない。

 だが、セオのリミットは十五歳だ。

 領地でやりたいことが山程あるのに、学校に通うだけで終わるのは困る。

 なんとか数年で領地に帰りたいと思っていたのだが、ある日、ブラッドリーの取り巻きが、「そんなに勉強ができるのなら飛び級でもすればいいのに」と、言っていたのを聞いて、一気に道が開けた気がした。

 ランドルフに詳細を聞いてみると、一度に上がれるのは一学年のみ。つまり、今一学年のセオは、試験を受けて合格すれば、三学年に上がれるらしい。

 計算上は、最短五年で卒業できるのだ。


 セオは、冬休みの間にレオンに会う段取りをつけ、早速、飛び級について相談することにした。

「あのね、学校のことで相談があるんだけど」

「なんだ?なんか嫌なことでもあったか?」

「ううん、学校は楽しいよ。でも、飛び級したいと思ってるんだ」

「は?飛び級??」

 まさかの相談に、レオンは目をぱちくりさせた。

 周りと馬が合わなそうなら、飛び級させることも考えていたのだが、まさかセオから言われるとは思っていなかったのだ。

「なんでだ?ルークやシリルとかと仲良くやってるんだろう?」

「うん。でも、やっぱり勉強が簡単すぎて」

「あ〜そりゃそうか。…でも、人間関係は一からだし、周りは年上ばかりだぞ?大丈夫か?」

「うん、がんばってみる」

 セオは、しっかりとレオンの目を見て答えた。

 確かに仲良くなったクラスメイトと離れるのはさみしいし、年上に混じって授業を受けるのは不安でもあるが、そんなことを言ってもいられない。

 セオは、覚悟を決めていた。

「そうか。そこまで考えて決めたのならいいと思うよ。オレからも、ランドルフにちらりと言っとくな」

「ありがとう」

 こうして、レオンの許可を得たセオは、新学期が始まるとすぐにランドルフ先生に相談した。

「あの、ぼく、飛び級したいと思ってるんです」

 事前にレオンから話を聞いていたランドルフは、驚くことなく頷いた。

「学力的には問題ないと思うが、念のため学力試験を受けてもらっての判断となる」

「はい、大丈夫です」

「だが、いいのか?クラスの子たちとは離れてしまうぞ」

 ランドルフは、レオンと同じことを口にしたので、セオは笑いながら頷いて、「がんばってみます」と、同じことを答えたのだった。

 


 ほどなくして試験を受けたセオは、もちろん飛び級が決まった。

 シリルとルークにそのことを伝えると、驚いていたが、口々に「おめでとう」と言ってくれた。

「たくさん勉強教えてくれて、ありがとう。成績も上がったし、本当に助かったよ」

 と、シリルが言う。

「役に立てたならよかった。またいつでも聞いてよ」

「それは助かる。まぁ、同じ学校内にいるのは変わりないからな。セオ、何か困ったことがあれば言ってくれ」

 ルークは、わざとみなに聞こえるように言った。

 牽制のためだ。

 別の学年にはなるが、王族との繋がりがあると知ったら、下手にちょっかいを出す輩も減るだろう。

「ありがとう。ぼく、入学する前はちゃんとやっていけるかなって心配だったけど、ふたりがよくしてくれたからすごく楽しかったよ」

 セオの言葉に、ふたりも微笑む。

 セオは勉強のことはなんだって教えてくれたから、きっと授業が簡単すぎてつまらなかったのだろう。

 一緒に卒業できないのはさみしいが、別の学年になっても、繋がりが切れるわけではない。

 二人は、セオが決めたことなら応援しようと思ったのだった。


 こうして、セオは三学年になった。 

 二歳差ともなれば、身長差は頭一つ分はある。セオも周りも、初日に顔を合わせた時に驚いた。

 担任は、なにかの大人の力が働いたのかランドルフ先生だ。

 ランドルフは、みなに馴染めるよういろいろと気を使ってくれたが、急に現れた小さな子を、みなどう扱っていいのか分からなかったらしい。

 遠巻きにされたが、ブラッドリーみたいに幼稚な嫌がらせがない分マシだと、セオは気にしていなかった。

 昼休みも休み時間もひとりで過ごすことが多かったが、ルークやシリルをはじめとする元クラスメイトとは会うと話すし、休みの日には、時折シリルとスイーツを食べにも行く。

 こうして、ランドルフやレオンなどの大人たちはセオが一人なのを案じていたが、本人は全く意に介さないまま、一学期が終わったのだった。

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