27、学力試験の真実
そのまま講堂に向かったセオは、入り口にいる教師に名を告げた。
すぐにレオンが出てきたので、二人で門を出る。
待っていたのは、辺境伯の馬車だ。
護衛①と②が外で待っており、馬車の中にはメイもいた。
今日は、これからこのメンバーで食事に行くため、待機していたのだ。
馬車が走り出すと、レオンが切り出す。
「試験は簡単だっただろ?思ったより遅かったな」
「うん。だから、学力試験じゃなくて復習試験だったと思うんだ」
「ほぉ…?」
「そうなのですか?」
不思議そうにメイが聞いたので、セオは、レオンの口元が楽しそうにゆがめられているのに気づかない。
「うん。でもね、先生に聞いてみたけど、別の試験はないし、問題も間違ってないって。終わったら帰りなさいって言われたから出てきたんだけど、ほんとの学力テストはまた今度するのかなぁ?」
「不思議ですね」
相槌を打つメイに、こらえきれなくなったレオンはついに噴き出した。
「え、なんで笑ってるの!?」
なんかこのパターン、前にもあった気がする。
またなにかやらかしたのかと慌てるセオに、お腹が痛くなるまで爆笑したレオンは、涙をぬぐいながら言った。
「セオ、今日のはまぎれもなく学力試験だよ」
「えっ!?でも、試験内容は一番はじめの教科書くらいの内容だったよ?それに、学習の始まりは他家より遅いって、ジョンも言ってたし」
「それはそうだが、勉強は嫌がる子が多いからな。それに、家庭教師は、知識より文化や礼儀作法を教えることに重点をおく。…そうだな。他の子たちは、大体、平均してその教科書の半分くらいの理解じゃないか」
「え、えぇぇ~?」
ということは、今日のは正真正銘、新入生用の試験だったということだ。
セオの顔の血の気が引く。
「どうしよう…ぼく、満点だと思う。めだつのやだって思ってたのに…簡単すぎてしんじられなかった…」
同じ試験を受けた子が聞いていたら怒るだろう発言だが、セオはいたって真剣だ。
「ま、成績が張り出されるわけでもないし、大丈夫だろう。それに、教師のひとりが俺の友人でな、セオのことを頼んでおいた。うまくフォローしてくれるさ」
「そうだといいけど…」
しゅんとするセオの頭をぽんぽんとたたいて慰めるレオン。
だが実は、セオがこれからうまくやっていけるだろうかと心配していた。
他の子より賢くて知識もあるということは理解しているようだが、具体的にどれだけ違っているかは分かっていない。
だから今回のように、学力試験だと聞いていたのに、違うと判断して出来すぎるなんてことが起こってしまったのだ。
無自覚に天才なところが悪目立ちして、周りと距離ができないといいと思う。
幸い、王の手紙には、『セオが寝込んだと聞いて、ルークがとても落ち込んでいる。今まで思いやりにかける部分もあったが、今回のことで色々考えたようだ。セオの体調のことは心配しているが、その点では感謝している。今後、ルークはセオのことを気がけるだろう』とあった。
他の子どもたちには距離を置かれるかもしれないが、ルークと良い関係性を気づけるなら悪いようにならないに違いない。
ーーーと、信じたいが、寧ろそのことでやっかむ生徒もいるかもしれない。
セオは、素直で優しい。
それに貴族らしくない部分もあるため、いつか人間関係で傷つくのかもしれないと心配している。
無理して体調を壊すくらいなら、セオには学校に行かなくて良いと言ってある。
毎日通わなければならないという決まりはないからだ。親に連れられて茶会に出たりして欠席する子どももいる。
最悪、試験さえ通れば進級はできるのだ。
それに、飛び級制度があるので、万が一馴染めなければ、早めに卒業させることも考えればいいと、レオンは思っている。
一方、時刻はセオが試験を終えた頃に遡る。
セオの解答用紙を回収した教師は、後ろの監督席に戻り、解答用紙に目を通した。
名前に目をやると「セオドア・ブライアント」とある。かなり字がきれいで驚いたのだが、解答に目を通した後は、さらに驚いた。
全問正解だったからだ。
まさか試験問題の情報漏洩があったのかと背筋がひやりとするが、あり得ないとすぐに打ち消した。
この学校は、独立した機関として運営されており、例え王族であっても介入できないようになっている。
試験の管理も徹底しており、試験問題もいくつか作られ、当日、無作為に配られることになっている。
すべての問題と回答を覚えていないと満点は取れないが、そんなことは不可能に近いだろう。
考え込んでいた教師だが、ふと、『セオ』という名を最近聞いた覚えがあり、記憶を辿った。
思い出したのは、久しぶりに会った悪友から、甥っ子が入学すると聞かされたことだった。
「オリヴィアの息子なんだが、身体は弱いが天才的に頭がいいんだ。同い年の子がいない環境で育ってるため、ちょっと変わってるかもしれないが、よろしく頼む」と。
飲みの席だったこともあり、話半分にしか聞いていなかったのだが、その子も確か、『セオ』だった気がする。
セオドアが天才だったと理解した教師は、これが情報漏洩ではないと分かりほっと息をついた。
しかし、同時にパニックになることが予想されて、内心ため息をつく。
こうして、セオは開校以来初となる、学力試験での満点を叩き出した。
一時的にカンニング疑惑はかけられたものの、怖い顔の教師のフォローのおかげで、事なきを得たのだった。




