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25、王都の治療法

 最速で屋敷に帰ってくると、セオはすぐに寝巻きに着替えさせられ、ベッドに寝かされた。

 五分もしないうちに別邸お抱えの医師がやってきて、セオは診察を受ける。

「喉が少し腫れてますね。もしかしたら、今夜熱が出るかもしれません」

「…そうか」

「…ぃじょぶ」

 セオは、少し眉根を寄せているレオンに向かって微笑んだ。

 優しい彼は、きっと顔合わせに連れて行ったせいだと思っているだろうが、誰が悪いわけでもない。

 というか、普通の人はちょっと咳き込んだくらいで喉が腫れて熱が出たりしないのに、どうしてかこうなってしまう自分がおかしいのだ。

 体が弱いことで迷惑をかけてしまい、とても申し訳ないとも思う。

 用意された薬湯を、セオはがんばって飲んだ。

 じいやのと比べると苦みはましだが、酸味があるのが謎だ。

 果実水も飲み、少しパン粥を食べると、セオはそのまま寝入ってしまったのだった。

 多分、緊張してよく眠れていなかったこともあるのだろう。


 次に起きた時は、最悪だった。

 喉と全身の関節と頭が痛い。どうやら、熱が出ているらしい。

 時計に目をやると、夜半すぎだった。

 夜熱が出ると、朝まで長すぎて嫌だ。

 少しみじろいだだけで、しんどすぎて涙が出てきた時、様子を見に来てくれたのは、まさかの護衛①だ。

 目をパチクリすると、涙が頰を伝う。

 それをすぐに布で拭いた護衛①は、「飲まれますか」と、セオの視界に果実水の入った瓶を持ってきた。

 セオがじっと見ていると、少しだけセオの頭を持ち上げて飲ませてくれる。

 なぜ飲みたいか分かったかと言うと、体調が良くない時は、言葉や頷きの代わりに、目線で欲求を伝えているからだ。

 提示されたものに対して、イエスなら見る、ノーなら見ない。

 逆に、セオがなにかをじっと見ることで、要求を伝えることもある。


 セオの発熱時に護衛①がついたのは初めてだったが、弟妹が多く、熱を出した時に面倒をみてきたのもあって、手慣れている。

 熱が高いセオがうとうとしては目を覚ます度に、果実水を飲ませ、額の布を換え、寝具を調節するなどしてくれ、しんどいながらもセオはありがたかった。 

 しかし、前にも護衛①がついてくれていたから、今回も押し付けられてしまったのではと心配していたが、事実は違う。

 メイは夜間の付き添いを希望したのだが、昼間一緒にお茶会に行っていたため、夜間もとなるとセオが気にするのではと話し合いが行われたのだ。

 別邸のメイドについてもらうこともできたが、慣れていないので、セオが気を使うかもしれない。

 結果、メイにこれでもかと看病の心得を叩きこまれた護衛①がつくことに決まったのだった。


 

 翌朝。

 診察に訪れた医師は、メイから「喉奥を直接消毒していただくことで治りが早かった」ということを聞き、驚いた。

 初めて聞く治療法だったからだ。

「申し訳ありませんが、行ったことのない治療法ですので」と断ったが、確かに炎症部分を直接消毒することができれば、早く治るだろう。

 なんとか同じような効果が得られる方法はないものかと、医師は考え込みながら帰って行ったのだった。


 セオの熱は、昼をすぎてもなかなか下がらなかった。

 手足の先まで真っ赤になって苦しそうなセオに、様子を見にきたレオンも眉をひそめる。

「いつから熱が出ているんだったか?」

「夜半すぎからとのことです」

 護衛①から、詳細の引き継ぎを受けていたメイが答える。

「それは辛いな」

「喉を直接消毒するのは、こちらでは一般的な治療法ではないそうで、それもあるのだと思います」

「……じいやはすごかったんだな」

 実はレオンは、セオのためにあらゆるツテを辿り、王都でいい医者を探したのだ。

 それが今のかかりつけの医者だ。

 よく勉強しているようだが、経験豊富な老医師にはかなわないのかもしれない。

 その医師が訪ねてきたのは、ちょうどそんな失礼な噂話をしていた時だった。

 間接的に喉の炎症部分を消毒できる方法を考え、道具を作ってきたのだと言う。

 それは、丸いボトルと短いホースが一体化したものだった。ホースの先には細かく穴が開けられている。

 ボトルには消毒液が入れられ、押すとホースの先端から液が散布するしくみだ。

 勢いが強すぎると患部を痛める可能性があるため、勢いはかなり弱い。

 もちろん、人体実験も行っている。

 というと言い方は悪いが、まず試作品を自分で使ってみて、大丈夫なレベルになってから、同僚やよく手伝いに来てくれる近所の子どもたちにも使ってもらったのだ(中身は水だ)。

 そして、完成はしていないが、試作品ができたので持ってきたのだ。

 レオンたちから治療の許可を得た医師は、セオにも丁寧に道具の説明を行なった。

 その説明を聞きながら、前世も似たような物が市販されていたことを思い出したセオの頭がずきりと痛む。

 思い出すのは今じゃなくていいのにと思いながら、説明を聞き終えたセオは、じっと道具を見つめた。そして、メイが了承の意を伝えたのだった。


 処置はすぐに終わった。

 炎症部分を消毒するので痛みはあるが、直接的に消毒された時の比ではない。

 消毒液は調合されているようで、苦いだけでなく、ハッカのような清涼感がある。

 苦いのはずっと口に残るので、セオはそれだけでも嬉しかった。

 初めての処置だったので、効果や副作用等を確認するため、医師は別邸で待機してセオの様子を定期的に確認した。

 一度の処置で効果が目に見えて現れたわけではなかったが、徐々に水分がとれて果物も食べられるようになり、熱は時間をかけて下がっていったのだった。

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