17、八歳になりました。
その後、セオはひと月に一箇所くらいのペースで、一年ほどかけて行ける領地を回ったのだった。
時には、役人が行く視察に、遠縁の子として同行させてもらった。
セオは公私混同ではないかと思うのだが、この世界では、仕事で遠いところに行くときに、旅行気分で家族がついていくことが認められているらしい。
多くの人が、用がなければ自分の生活圏内から外に行かない時代だ。
どうせ馬車を使うならというのもあるかもしれない。
セオが同行したのは、ジョンと仲のいい、イアンという初老の男性だった。
イアンは早くに妻を亡くしていて、子どもいない。
セオは、遠縁の親戚の子だということにさせてもらって同行した。もちろん、メイと護衛も一緒だ。
先々代から役人として勤めているイアンは、ジョンからの信頼も厚く、セオが普通の子どもではないことを聞き及んでいた。
セオの第一印象は、オリヴィアにそっくりな利発そうな子どもだというものだった。
実際に話してみると、大人顔負けの知識と考え方が身についている。長らく領地を憂いてきたが、これで先々は安泰だろうとほっとする。
セオのほうも、政治や経済などの突っ込んだ話ができて楽しかった。
しかし、馬車から一歩出れば、イアンは「親戚のおじさん」として世話をやいてくれる。
セオも子どもらしくしようとがんばるのだが、意識すればするほど、普通の七歳とはどんなものなのか分からなくなってしまう。
普段を知っている使用人たちは、セオの大根な演技に笑いをこらえるのが大変だったのだが、奇妙な口当てをした子どもは最初から遠巻きにされたため、セオはそのうち演技をしなくなったのだった。
役所の書類確認など、イアンの仕事に同行できない時は、市井の様子を見に行った。
セオが見たがったのは、市場や住宅街、特産品があるならそれらを栽培しているところだ。
地域ごとに市に並んでいるものや、町並みも違う。言葉や服装、食文化も若干違っているため、面白い。
本当は貧民街なんかも見たかったが、治安もよくないということでさすがに許可は出なかった。
代わりに護衛に危なくない範囲で様子を見に行ってもらい、様子を聞いた。
イアンとも情報すり合わせを行って帰ると、セオは得た情報を、丁寧に紙にまとめたのだった。
それらのできは大変よく、各地方の現状を把握するための貴重な資料となる。
セオは八歳になった。
この頃になると、ほぼ全ての決裁に関する書類がセオのところに回ってくるようになっていた。
サインをするわけにはいかないので、セオは見たらジョンに戻している。気になることがあれば、ジョンに伝えて、ジョンが確認する形だ。
最近、領主は社長業で、領地の経営は会社経営と同じだなぁと思い始めた。
よくぞ父親は全部ほっぽって逃げられたものだ。
多分、責任を持つとか民のためにという気持ちが育たなかったのだろう。
今は亡き先代、父の父は優秀だったという。
ジョンも、父の教育はしっかりなされていたため、どうしてああなったのか分からないらしい。
もしかしたら、物語の都合上こうなるしかなかったのかもしれないが、迷惑をかけられる民にとってはたまったものじゃない。
このまま、王都でおとなしくしていてほしいと思うセオなのだった。