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第9話 先輩冒険者


 それから数日は冒険者として活動しながら特に変わり映えのない日が続いた――


 依頼を受けて、お金を貰って、イグリアにケーキやら菓子パンやらお菓子やらを与えて――


 そして――


「C級昇格おめでとうございます!」


 C級、冒険者の世界ではC級からようやく一人前と言われるらしい。


「まぁほとんど私の功績よね」

「......俺だって頑張ったのに」


 受付嬢のイリスが俺にある依頼を見せて来た。


「C級昇級早々なんですが......確かハルフミさん達はお金が必要なんですよね?」

「そうですけど」

「報酬が良い依頼があるんですこちらです」


 イリスが差し出した依頼書を受け取り、目を通す。


「......シラサの森の遺跡調査?」

 シラサの森と言えば、確か俺が最初に転移してきた場所だ。


「シラサの森奥地にあるシラサ遺跡、その調査と安全確保です。先日、一部が崩落して中に入れるようになったらしくて、ギルドも調査を進めたいんですが魔物の反応がありまして」

「つまり、調査だけじゃなくて戦闘もあるってことか」

「調査兼討伐ですね。報酬は一人頭金貨5枚。副次的に何か発見があれば追加報酬もあります」


「......!」


 思わず顔を上げてイリスを見る。


「難易度はC級......ハルフミさんたちの過去の実績から見て実力は問題ないはずです」

「まぁ、私がいれば当然ね」


 イグリアが少しだけ誇らしげに笑った。


「......出た調子乗り黒竜」

「なにか言った?」

「何も言ってませーん」


 俺は依頼書を再度見て、唸った。合計で金貨10枚、これで家を買うという目標に一歩近づいた――かもしれない。


「......受けます、その依頼」

「ありがとうございます、準備ができましたら遺跡の場所と現在の状況について詳しく説明しますね」


 ギルドを出て、朝の通りを歩く、空は高く、雲一つない晴れだった。


 ■


 朝早く、シラサの森の入り口に到着した。イリスから聞いていた通り現地には既に、他の冒険者たちが集まっていた。


 C級〜B級の先輩冒険者が4〜5人ほどで、それぞれ小さなパーティを組んでいる者もいれば、単独で行動している者もいる。


 イグリアが少しだけ警戒した様子を見せた。


「......イグリア、そんな警戒するなってバレるぞ?」

「あっちからのはバレバレだけどね」


 その言葉の通り、B級と思われる一組がこちらを見て露骨に鼻で笑っている。


「あれが噂の新人か......ずいぶんと派手な従魔を連れてるじゃねぇか」


 挑発的な視線と小声の嘲笑。


「ムカついて来た」

「落ち着いて落ち着いて!」


 どうにか落ち着かせている所に――


「おはようございます!」


 明るい声が、場の緊張を和らげた。


 近づいてきたのは赤髪の背の低い少女。冒険者としての装備は軽装だが腰の短剣や足元の動きから熟練を感じさせた。


「今回の依頼について参加者全員にはまだ詳しい説明が行き届いていないって聞いて......よかったらあたしが説明役、やりましょうか?」

「え、いいんですか!?」

「もちろん!それにあたし、この森のことちょっと詳しいのです!」


 えッへんと胸を張る少女、イグリアは困惑気味だ。


「あ、名前はサーシャ、B級冒険者」


 少女――サーシャはにっこりと笑った。


「そして、これがあたしの従魔のシャラン」


 彼女のカバンから出て来たのは小さな雀のような魔族だった。


「どうもですッ私はシャランです!」


 ピヨピヨと俺とイグリアの周りを飛んで挨拶を始めた。


「とりあえず、奥へと進みながら説明をしていきましょう!」



 ■



 移動しながら、サーシャが森の概要を説明してくれる。


「この森にはオルガームっていうヌシがいてね、でっかい大蛇なんだけど......普段は人には手を出さないし、むしろ森の中の魔物の数を一定に保ってくれてる存在なの」


「ヌシ、大蛇......」


 なんだろう、すごく心当たりがある。


「うん、だから、あんまりオルガームを刺激しないようにってのが、森での暗黙のルールってわけ」

「へぇ、だってイグリア?」


 軽くイグリアを横目で見るとイグリアはそんな俺の視線を目で横に流していた。


「それで、今回の遺跡なんだけど......もともと封鎖されてた場所が土砂崩れで開いたって話でさ、中にはまだ誰も深くまでは入ってないって言われてるの」

「誰も?」

「一応、先行して入った偵察チームがいたんだけど......あんまり中を進めなかったみたい、魔物も強いし構造が複雑なんだって」

「なるほど、調査の主目的はその構造と危険性の確認ってことか」

「そうそう、あと、奥に何か古い魔導装置があるかもって噂もあるの」


 ■


 サーシャの案内で進んだ先、森の奥にひっそりと口を開ける石造りの入り口が見えてきた。


「あれが遺跡の入口か」


 周囲の木々は自然のままに生い茂っているのに、そこだけ異質な静けさが漂っていた。 風も音もまるで何かに吸い込まれるように消えていく。


「空気が違うわね」


 イグリアが鼻をひくつかせながら呟いた。


「少し前までは完全に土砂に埋もれてたみたいだけど、最近突然崩れて通路ができたの、そのとき中から強い魔力の反応があったって報告があって」


 サーシャの声が少しだけ硬くなった、そしてまるで幽霊でも出るかのようなポーズをとる。


「この魔力、もしかして......封印か何かが解けたんじゃないかって言われてるのぉ」

「そ、それって、危ないやつでは」

「ま、だからこそ今回の依頼が出たんだけどね!」


 笑顔を作るサーシャだが、その目には警戒の色が浮かんでいた。


 入口には、先行していたであろう他のパーティが集まりつつあった、いずれも準備を整え互いに情報交換をしているようだった。


 その中で、先ほど俺たちを小馬鹿にしていたパーティの一人が、大きな声をあげた。


「新人、遺跡探検ってのはな遊びじゃねぇんだ、派手な従魔でビビらせてもここじゃ通用しねぇからな」

「はいはい忠告ありがとう」


 軽く流しているとイグリアが――


「......ビビってたのね」

「は?」


 イグリアと男が一触即発だ、急いで割って入りイグリアの元に駆け寄った。


「イグリア、そう人を煽るなって!」


 サーシャも入ってくる。


「ちょっと、ザインもストーップ!」


 こうしてどうにか二人を落ち着かせた、そして先行隊のメンバーと情報共有を行っていた所、どうやら先行隊で問題が発生したらしい。


「先行隊の一部が帰ってない?」

「ああ、それに出て来る魔物もなんだか変で――」


 継ぎ接ぎにされた魔物がいたらしい、ゴブリンに翼が縫い付けられていたりと不気味な魔物が遺跡内部には多くいる様だ。


「わかりました、我々も探してみます」

「ああ、頼むよ」


 サーシャがそういって振り返る。


「では、あたしたちも行きましょうか!」


 いよいよ、遺跡調査が始まる――

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