第4話 契約の力
「――なら仕方ねえな」
言葉と同時にドルガーが地を蹴った、狭い部屋の中で一瞬にして間合いを詰め、ナイフが閃く。
咄嗟に剣を構えるが振り下ろされたナイフを完全には捌ききれず、刃先が肩をかすめる。
「くっ......!」
鈍い痛みが走る。――が、それどころではない。ドルガーの攻撃は止まらない。
「どうした? もう終わりかよ」
嘲るような言葉と共に、ナイフが連続で襲いかかる。剣で受けるも、ドルガーの動きは巧みだ、ナイフの軌道は読みにくく、受け流すだけで精一杯だ。
防戦一方のままだ、これじゃあいずれ隙を突かれてやられる!
......だが動けている?俺の身体こんなに軽かったか?
イグリアと契約して以来、体が以前とは違っていた。今日のスライム戦でもそうだった。
「――っ!」
一瞬見えた――
「――なんだ!?」
剣を強く振るうとドルガーのナイフを弾く――
カンッ
一瞬の隙――俺はその機を逃さず、踏み込む。
「チッ......」
ドルガーが後退した、その隙を――
「おら!」
「――しまった」
誘い込まれ、俺が剣を振ろうとした隙を突かれ回し蹴り――
「がはッ......」
反応が間に合わず横腹に当たり、勢いそのままに壁に衝突した。
「はぁはぁ......」
まだ......まだ諦めるか、イグリアを助ける、必ず。
「――おいグラス、まだか」
ドルガーはグラスを見る。
「ま、まだだ兄貴ィ、こいつの魔力やけに多くて吸いきれない!」
「ッチ......馬鹿が」
どうやらグラスはあの長い尾で魔力を吸収できる様だ、今の話からまだイグリアには魔力が残っているはず。
「仕方ねぇ俺一人で片づける」
ドルガーが近づいてくる。
「俺相手にここまでやれた事を誇れ」
イグリアは隙を作れればどうにかするはずだ!だから俺がやるべき事は目の前のドルガーをどうにかする事。
「『ファイアアーム』」
ドルガーの身体に炎を纏う。
「『ファイアソード』」
そしてそれが小さな炎になるまで圧縮していき、ドルガーが持つ短剣に収束していく。
「『圧縮炎剣』――死ね」
「――ッ!」
剣でそれを相殺――
カンッ
瞬間、熱風が襲い掛かる!
「――あっつッ!」
押されまいと、踏ん張りながら剣がミシミシと音を立てていく。
「――なんだこれ」
――魔力を感じた。
イグリアの魔力を内側から感じ、それがあふれ出す。
それは俺の全身を包み、そして剣をも包んだ。
「おらああああぁッ!」
「――まさかッ!?」
奴の短剣を押していく、バキバキと鈍い音を立てているのは俺の剣か奴の剣か。
「あ、兄貴ィ!」
「――うるせぇ黙ってろッ!」
グラスの言葉に怒りで返すドルガー、奴の短剣はビキビキと割れていく。
「――」
イグリアの魔力を纏いながら、体の奥からさらに熱が湧き上がるのを感じる、剣を握る手に力が入り全身が研ぎ澄まされていくのを感じた。そして――
「なっ......そんな事が!?」
剣の刃に黒い炎を纏わせ――
「――『黒炎閃華』!」
黒赤い炎が火花を散らすそしてそのまま力のままに押し切った。
「――ッ」
奴の短剣が割れる――
黒く赤い炎の残像が消えるのを待たない、奴の次の反撃を許す隙も与えず剣に再度魔力を込めつつさらに追撃――
「ぐああぁぁっ!」
黒炎に抱かれながらドルガーは吹き飛んでいく。
「はぁはぁ、確認しないとッ......」
壁に激突したドルガーの様子を伺おうとするが――
「よくも兄貴をッ!!」
グラスの大口から白い光弾が充填されていくが見えた。
「――しまったッ!」
「――『メガ――」
魔力を吸収ってこの為だったのか!?
「に、逃げッ」
ダメだ、間に合わない!
光弾がグラスの口内白く照らしていく――
「――キャノン』「『竜爪閃華』」
――尻尾が切り落とされる。
「――ぎゃ、どうやっ――」
グラスは俺に向けていた口を尾の方に向ける。
「――遅い」
鋭い爪がグラスの首元を切り裂いた、すると喉元まで溜めていたであろう魔力がそのまま――
「やばい!」
光りが漏れ出ていく。
「クソ!」
イグリアに向かって走る――
「――ッ」
そして抱きかかえ――
ピカッ
「――ッ離すもんか!」
宿を巻き込む大爆発を巻き起こした――
どれほど経ったか瓦礫と土埃で周囲が見えづらい中。
「だ......大丈夫か?」
思わず駆けこみ抱きかかえていたイグリアを確認する。
「......」
イグリアは俺に抱きかかえられたまま、こっちを見つめていた。
「よかった大丈夫そうだ」
「......それ、こっちの台詞ね」
イグリアはその赤い瞳でこっちを心底、残念そうに見つめる。
「......あそこで一番危なかったの、貴方だから」
「まじ?」
「魔族より脆い人間がまして満身創痍の状態で守れると思ってたの?......」
まぁ言われてみれば......
「......その......ありがとう」
いきなり感謝された!?
「どうした急に」
「......あいつに隙を突かれた所為で気が立ってた......助けてくれたことは本当に感謝してるの」
「良いよ気にしてない」
「貴方がドルガーを倒してくれたからグラスの隙を突けた」
イグリアは自分の髪や服についた土埃を叩き落としている。
「ドルガーといえば......あいつと鍔迫り合いしてる時、イグリアの魔力を感じたんだけど、なんでかわかるか?」
「多分、契約をしていたからかしら」
契約者と従魔はお互い魔力を循環し合っているからそういう事があるのだという。
「しかし......これどうするんだ」
周囲を見てみると爆発の被害は甚大だ、屋根は吹き飛んでいて、周囲には野次馬も出来始めている。
「一体何があった!?」
兵士らしき人物が声をかけて来た。
「そこでじっとしていなさい、いま行く!」
こうして俺とイグリアは兵士に連れられて行くのだった。
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