第39話 それぞれの考え
ハルフミとイグリアと別れた後、人間界では――
ハルフミとイグリア、他一部敵対勢力が転移し、現地に残っていた冒険者が敵対勢力を捕縛しカザトランナへ。
エズバートとサーシャ、ザイン、ロンネはそのまま赤土の採掘街カザトランナから王都レムトリアのギルド『銀鷲』へと帰還していた。
「魔界への探索を許可していただきたい」
エズバートとサーシャはギルドマスターであるラジェスへ直談判していた。
「落ち着きなさい、気持ちはわかるがどうしようもないことはお前たちにだってわかるだろう?」
「ハル君もイグちゃんも生きてるんだから、助けに行きたいって思うのは当然だよ」
「そうですッそうですッ」
サーシャとサーシャの従魔、シャランも続く。
「我々は何もハルフミさん達が魔界に行ってしまったから魔界に行きたいと言っているのはない、私達は魔界で何か企んでいる者が、人間界に触手を伸ばしている、と考えているのです」
「ああ、君の意見は知っている、そして凡そ正しいだろう、魔界で蒼晶石を集めているものがいる、魔界では蒼晶石は希少、だから人間界を使っているのだとも考えられる」
「でしたら」
エズバートはさらに詰めよう用とするが――
「まず、冒険者の活動範囲には原則として魔界は入っていない、魔界は魔界でのルールがあり、そこでは独自に冒険者の様な活動者がいる、我々がそのルールを破れば奴らも同じことをしてくるだろう、それではかつての境界戦争と同じ轍を踏むだけだ」
「......あれは、そもそも魔界側から魔界門を使っての進行があったからでは?」
「どちらにしてもだ、魔界門をお互い使いたがらないのは過去の戦争への反省があるからだ、我々は同じ轍を踏まぬように厳格な管理体制を置いているのだ」
は席を離れる。
「それに――もうすぐ王国は建国祭、魔界からの要人も来ると聞いた......そんな時に波風を立ててみろ、王国として黙っていられんぞ」
そういってギルドマスター・ラジェスは離れていった。
「......ごめんなさい、エズバートさん、あたしが無理を言ったから」
「いいえ、間違った事は言っていませんよ、ハルフミさん達を助けることも、魔界で誰かが人間界に手を出していることも真実なのですから......」
「......」
エズバートの眼鏡が光る。
「まぁ――あちらがそういう態度で出るというのなら......我々にだって取れる手段はありますからね」
「......?」
「サーシャさん、準備をしてください」
「準備って?」
「魔界に行く準備ですよ」
サーシャは驚きの声を上げた。
「蒼晶石、なぜあれを求めているのか......独自で調べる必要がありそうですからね」
エズバートは悪い笑みを浮かべ、サーシャは少し引いた。
「で、でもバレたら大変だよ!?」
「冒険者とは危険を犯すものです」
「え、でも......」
エズバートの後をついていくサーシャ。
「ロンネさん、準備のほどは?」
ロンネ、彼女もまたハルフミやイグリアへの恩がある人物だ。
「あたしの方は既に準備万端です」
「よろしい、さあサーシャさん、どうしますか?」
「あ、あたしは――」
どうするべきか、そんなの本当は悩む必要なんてなかった。
「――あたしも行く、ハル君とイグちゃんを探しに魔界へ」
「よろしい――準備ができ次第、すぐに向かいましょう」
「うん――そうだ、ザインは?」
ザイン、サーシャとは同期であり、カザトランナの依頼でも一緒だった冒険者、色々と問題もある、だが思いは同じ、そう思いサーシャは提案した。
「――彼は行かないと、無理強いは出来ません」
「エズバートさん、あたしが説得してみるよ」
「構いません、まあ無理だと思いますが......」
サーシャはザインと会う事にした。
「行かねえ」
ザインはやはり、エズバートの時と同じようにサーシャからの誘いを拒否した。
「――ザイン、ハルフミ達のこと心配じゃないの?このままもしものことがあったら――」
「冒険者が死ぬ事なんて珍しかねぇだろ」
「なんで、そんなひどいこと言うの!」
「あいつが嫌いだって言えばそれで満足かよ?」
「どうして」
「新入りの癖にB級昇格が既定路線だ、俺がそこまで行くのに2年掛かってるんだぞ!?」
ザインは感情的になる。
「ハル君もイグちゃんも頑張ってるだけだよ、家が欲しいって、安心で安全な拠点が欲しいって......」
「――馬鹿馬鹿しい、サーシャ、お前もお前だ、ハル君ハル君ってな......そこまで心配なら行ってくりゃいいじゃねえか、勝手にな」
ザインはその場を離れてしまった。
「......ザインの馬鹿......」
サーシャはそんなザインの背を見ている事しかできなかった。
■
一方ハルフミ達、魔界側では。
都市アルザギールに戻り、宿で作戦会議をしていた。
「蒼晶石が魔界で貴重なのは採掘量が少ないのもあるが、何より蒼晶石を餌とする魔物が多いからだ、しかも強い」
「蒼晶石を魔界で採掘しようとしたら、護衛にもそれなりの規模の魔族がいる、つまり割に合わない訳か」
「その通り、今までは蒼晶石なんて装飾品でしかなかったが......今回の魔界門の件もそうだが、蒼晶石、実は結構有能なんじゃねと、私の脳内で結論が出始めている」
ガラムの意見に俺も賛同する。
「あれですよね、ガラム様はあの時、蒼晶石をたんまり盗んでおけば良かったんですよ」
「確かに、今の未来が見えていたら、ネイロスクの蔵から蒼晶石を盗みまくっていたが......今ではもう遠い話さ」
さて、どうするか。
「一番早いのはやはり、蒼晶石を盗んでいた奴らから取り返すじゃないか?」
「ハルフミの言う通りね、魔界では希少である以上、沢山集めるんだったら、そいつらが奪えばいい」
「――てな訳で、レーゼック、リリパーノ、その蒼晶石を送っていた場所とかわかったりしないか?」
しかし、彼らは下っ端、根幹にかかわる事は知る由もなかった。
「なぁそのガラムが言っていたネイロスクって奴は普通に怪しくないか?」
俺がそう呟くとガラムは――
「......うむ、そうなんだが......問題は」
ガラムはイグリアを見る。
「ネイロスクは父さんの手下よ」
「――」
まじか。ガラムは説明してくれる。
「ネイロスクと敵対するということは、イグリアの父、アグドラドとも敵対してしまう危険性がある......これは、これでかなりリスキーだ、魔界での平穏生活すら脅かされる危険がある」
ガラムの意見はもっともだった。
「まぁネイロスクが悪人だとして、その悪事をアグドラドは知らず、悪人を処罰する......という可能性もあるがね、その可能性をイグリアはあると思うかね?」
「イグリアは目を伏せて少しの沈黙を置いたあと、ぽつりと呟いた。
「......どうかしらね。正直、父さんの考えていることは......あまりわからない」
「なるほど......やはりネイロスクへの敵対行動は避けるべきか」
難しい問題だ、ただ良い案を思いついた。
「そうだ、前みたいに転移してきた奴らを助けながら蒼晶石を集めるっていうのはどうだ?しかもそれで黒幕を探し出せるかもしれないだろう?」
俺の案にガラムは少し考えてから――
「ふむ、それはありかもしれないな、蒼晶石の捜索と黒幕捜しの一石二鳥を狙える」
「だろ?」
俺はイグリアの方を見る。
「イグリア、どうだろう?」
「まあ一番現実的じゃないかしら、私はアリだと思う」
皆もそれぞれ賛成してくれて、俺の案が採用された。
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