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第37話 アルザギールにて


 アルザギールの都市門が遠くに見えてきた頃、レーゼックが口を開いた。

「そろそろ日も暮れてくるし、ここから廃都市まで行くのは流石に無茶だ、今日はこの街で一泊しよう」


 ガラムもクーノもそれを了承した。


「イグリアは平気か?」

「......街の外れの宿なら構わないわ。中心には行かないから」

「わかった、じゃあ宿を探そう」


 街の外れにある宿屋は古めかしいが清潔で、静かだった。宿の女将は丸い印象の老婆で、俺たちを見るなり目を細めた。


「おやいらっしゃい、人間のお客さんとは珍しいわねぇ、それに――」


 俺はイグリアの前に立って女将に話す。


「えぇ、ちょっとした騒ぎに巻き込まれてしまいまして......あまり目立たない宿を探していたんです。5人分ありますか?」

「え、ええ、勿論構わないわ、5人だと大部屋が良いかしら」

「ではそれでお願いします」


 こうして大部屋に泊まることとなった。


「その廃都市の情報は他にないのか?」


 俺はレーゼックに聞く。


「わっかんね」

「ダメだこりゃ」


 仕方ない......


「今日は明日に備え眠ろう」


 こうして眠りについた。


 ■


 夜


 誰も起こさないようコッソリと起きる。


「......ハルフミ、何処に行く気だ?」


 ガラムが声をかけてきた、起きたのか。


「近くで服屋があっただろ、フード付きのローブを買いに行く」

「それは、あれかイグリアの為かな?」

「......そうだよ、身を隠すためのな、いちいち聞くのは野暮ってもんだろ」

「私もついていこう、一人だと危ない」


 アルザギールはヒズアグよりも明るく騒がしい町だ、だが俺たちが泊っている宿屋の付近はそうでもない静かな場所。


「イグリアのことはすぐにわかったのか?」

「イグリア=キキラスカと聞いて、ピンッと来たよ、白い髪、赤い瞳、竜の力......ま、聞いていた話と性格は違ったがね」

「性格?」

「そうだとも、私の聞いていたイグリア=キキラスカ像は残酷で残虐、そして冷酷、癪に触れば容赦なく攻撃してくる、我が儘な娘......ふ、全く該当しないから彼女が例の娘だと気づけなかったんじゃないか?」

「誰がそんなひどい話を......」

「噂なんて尾びれ背びれ付くものさ、君も覚えがあるんじゃあないか?」


 まああるけど。


 軽口を交わしながら、街灯が灯る路地を抜けてローブ屋に辿り着く。幸い、まだ閉まってはいなかった。


 店主の魔族がこちらを見て一瞬目を細めたが、黙って案内してくれた。棚から、シンプルな黒いローブを手に取り、フードの深さや裾の長さを確かめる。


「これなら、多少は目立たないか」

「別に隠れて買う必要もなかったのでは?」

「......イグリアはいらないって言うだろうからな、でもいきなり買ってやれば渋々と使ってくれる」

「なるほど、いやぁやっぱ他人の契約関係に口出しするもんじゃないな」


 会計を済ませ、再び宿に戻る道すがら、ガラムがふと口を開く。


「ハルフミ、そういえばどのようにイグリアと契約したのか聞いても良いかな?」

「召喚して契約したんだよ」

「――召喚して、か、それは驚きだぞ、召喚には縁によって引き寄せるものと無理矢理摂理を無視して召喚するものがあるわけだが......イグリアの場合は前者かと思ったが、そのような縁はなかったのだな?」

「なかったと思う」

「ハルフミ、君がどうしてイグリアを召喚して契約できたのか、結構興味深いな」


 まぁ正直に 一発勝負のチート契約魔法で召喚したなんて言える訳ないよな。


「イグリアからも聞いたことないな」

「そうか、まあそれは後々わかってくるだろう、それにわかってることはあるぞ?」

「わかってること」

「――召喚を受け入れたことだ」


 召喚を受け入れた事......


「ふ、イグリアも運が良い、勿論、君もだがね」

「俺もか」

「ああ、波長の合う、魔族というのは希少なのさ」

「そうか、そうかもな、俺もガラムとクーノも相性は結構いいと思ってるよ」

「私たちがねぇ......」


 色々と言い合いながら宿に戻ると、イグリアもクーノもレーゼックも起きてはいなかった。

 俺は部屋の隅でローブを畳み、小さな包みにしてイグリアの荷物の上にそっと置く。

 それに気づいたかどうかはわからないが、彼女の眠る横顔はどこか穏やかだった。

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