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第34話 魔界門


 閃光玉により目と耳を塞がれる、さらにネベデスは閃光玉の魔力により混乱する。


「『黒炎の息吹』」

「――『黒炎閃華』!」イグリアのブレスに合わせて俺の斬撃がネベデスの横腹を裂いた。

 体液が飛び散り、ネベデスは地をのたうち回る。


 俺とイグリアは一匹一匹、相手が状態が回復する前に倒していく。


「――『シャインレイ」

 ガラムの手に光の玉が現れ収束し、それが掌から放たれる。

 光弾から突き出る光の一線は一直線にネベデスを貫き背後の樹木ごと焼き焦がすほどの熱と閃光を発生させた。


 クーノも動き回りながらその場にいた魔族たちを安全な場所へと連れて行った。


 ■


 凡そ8匹ほどいたネベデス、それをどうにか全て撃退に成功した。


「――どうだ?」


 ガラムは転移魔法陣に触れながら、あちこち調査している。


「――駄目だ」

「......そうか」

「この転移魔法陣は転移したいものの魔力と転移魔法陣の紋様に刻まれた魔力を消費して転移しているのだろう、そしてこの刻まれた魔力とやらが実に不安定、ちょっとの魔力接触でバランスが崩れて転移が出来なくなったりする――今回は閃光玉の魔力と接触して混じり合って使えなくなったようだ」



 残念だが仕方ない。


「......そして、この方達はどうしますか?」


 クーノが話しかけて来た、現状おとなしくしている魔族たち、彼らの処遇については考えていなかった。


「とりあえず、他に転移魔法陣の場所を教えて貰おう」


 俺はそう提案し、色々と話を聞いてみる事にした。


 ■


「――バッスール帝国のネシュル採掘場からの転移者、他の転移魔法陣の場所は知らない、蒼晶石を送っていただけ......ほぼほぼ既知の情報だったな」


 ガラムは残念そうな表情をしていた。


「――ただ、蒼晶石を使って新しい魔法を開発しようとしている事を知れたのは大きいんじゃないか?」


 助けた魔族の内一人から、蒼晶石を使った新しい技術開発の為に集めている事を知る事が出来た。


「まぁ知ってどうするという話だがね」


 ガラムと話ししていると、イグリアも入ってくる。


「だったら長居は避けた方が良いんじゃないの、雇い人が来るんじゃない?」


 イグリアの発言に俺もガラムもハッとする。


「それもそうだ、ガラム、さっさと逃げよう」

「そうだ、クーノ、助けた魔族や人間を連れて急いでここを離れよう」

「蒼晶石はどうでしますか?」

「既にいくつか拝借済みだ、奴らの目的が蒼晶石なら我々に興味はないだろう」


 こうしてその場を離れた。


 ■


 ヒズアグまでたどり着くと、助け出した魔族や人間から感謝を言われた。


「貴方は......ハルフミ......ということは貴方はイグリアさんですか?」


 一人の人間の男に聞かれ俺とイグリアは肯定する。


「そうですが、何処かで会いましたっけ?」

「ああ、いいえ会っていません、私はドルガーに誘拐された者です」


 話を聞くと、この男の名前はリッド、かつてドルガーに誘拐され、そのまま何処かに連れ去られていき、無理矢理に魔族と契約する羽目になったのだという、幸い魔族とは相性が良かったらしい。


 その魔族がリッドに足元にいる、青い猫であり、時折、足を擦り付けてくる。


「名前はネルです」

「へぇ、ネル」


 ネルの頭を撫でる。


 イグリアはそれを眺めていた。


「気持ちいにゃ~」

「あ、喋った」


 ネコからリッドへと意識を戻す。


「しかし......無理矢理、契約とはひどい」

「契約してすぐに私は救出されましたが、私のような例は多いみたいです」


 契約の状況も色々とあるということか。


「能力が有用でも性格や戦闘面で難のある魔族を適当な人間に契約させて利用する......あくどい手口です」


 魔族の能力だけ欲しい時に使うのか、本当に身勝手な事をする奴らがいたものだ。


「今回は稼ぎの儲け話を聞いて、気が付けばこのような事態に......」


 リッドも迂闊すぎないか?


「それは......次から気を付けた方が良いと思う」

「はい、本当にそう思います」


 リッド以外にも人間がいるが、彼らが人間界に帰るには魔界門を通る必要がある、500金貨も工面する必要があるのだ。


「とりあえず我々と同じ様な人間が集まるコミュニティがあるみたいなので、そこでお世話になります、今回は本当にありがとうございました、また今度こそ是非お礼をさせてください」


 こうしてリッドと別れた。


「――さて、ではこの先どうするかだ」


 ガラムは仕切り直しを図る様に語る。


「どうするって、また探せばいいんじゃないか?」

「そうだがね、今回の事でわかったが魔力が溢れるという事はネベデスの様な魔物も集まるということだ、そしてその度に戦闘をして転移魔法陣を破壊していてはキリがない、手を抜いて勝てる相手でもないからね」


 それもそうか......


「イグリア、良いアイディアないか?」

「なんで私に振るの」

「......う~ん」


 どうするべきか。


「やはり、魔界門を通る為の500金貨を律儀に溜めますか?」


 クーノが言う。


「いや冗談じゃないぞ、それをしてしまえば私の3カ月間の魔界滞在期間がゴミになってしまう、金を律儀に稼ぐなんて頭になかったものでな」

「そもそも一人500金貨なんでしょ?全員分なら2000金貨よ、まず無理」


 イグリアの意見は最もで、短期間でそんなに稼げるわけない。

 俺は心配しているであろう、サーシャ達の為にも帰りたい訳だが。


「イグリア、良いアイディアはないか?」

「なんで私に振るの」


 はあ、魔界門を通る為に500金貨を貯めるくらいなら、例え転移魔法陣をいくつかダメにしてもしらみつぶしに探していく方が現実的だろう。

 魔界門、転移魔法陣を探す......


「――あ」

「どうしたの、ハルフミ」

「魔界門を探せばいい」

「......何言ってるの?」


 イグリアはわかっていないが、ガラムは俺のその発言を聞いて俺の言いたい事がわかったのだろう。


「そうか、そういうことか!」

「ああ、そうだ」

「だから......どういう......」

「――なるほど、そういう事ですか」


 クーノもわかったようだ。


「――ハルフミ」

「いだだだだッ」


 イグリアに思いっきりつねられた。


「説明しなさい」

「わ、わかったわかった、悪かったよ......魔界門を探すんだよ」

「だから、どういう意味?」

「シラサ遺跡の時にあっただろ?本来は存在しない魔界門がさ」


 そこまで聞いてイグリアも納得いった様だ。


 魔界門の数も場所も決まっている、ただしそれでも記録に残っていない魔界門だってある、シラサ遺跡でのラヴァルトが使用していた魔界門もその一つだ。


「確かに魔界門ならば転移魔法陣のような不安定という欠点はない、頑強な魔界門は500年前の境界戦争時代から健在だ」

「記録にないから誰も管理していない、500金貨を請求してくる奴らだっていない」

「ふふふ、良いアイディアだぞハルフミ!」


 そう良いアイディアだと思う、一つの欠点を除いては。


「まぁ問題は――その魔界門をどうやって探すのか、ということだが」

「そこだなぁ」

「魔界門には転移魔法陣の様な魔力漏れは少ない、我が探知杖での感知は難しいだろう......魔界門は比較的大きいから目視で見つけられる......というのも無理だろう、何せ誰にも見つかっていない魔界門を探さないといけないのだ、わかりやすいところにある訳がない」


 ガラムの意見に俺も納得する、存在がバレていない魔界門なんてのは余程の辺境か、何処か地下深く、一般的に行ける範囲にはないと考えるのが自然だ。


「うーん」


 俺たちが色々と考えていると――


「おーい、ハルフミとイグリア――と新しい奴ら」

「その声は――」


 遠くから声がして振り返る。


「ヒーゲンの森から帰って来てないって噂を聞いて心配したが、無事そうで良かったぜ」


 駆けて来たのは狼獣人のレーゼックだった。


「どうしたんだ?」

「へへへ、良い情報があるんだよ」

「良い情報?」

「ああ、10金貨でどうだ?」


 10金貨ッ、生憎魔界では貯金は切り崩せない。


「高いな、そんな金ないぞ」

「いや、本来の価値で考えれば全然、安いと思うぜ?」

「どういうことだ?もったいぶらずに話してくれ」

「へへへ、誰にも知られていない魔界門――使いたくないか?」


 それは俺たちが丁度求めていた情報だった――

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