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第33話 見捨てたくない


「ガラム様、ハルフミ様、イグリア様、おはようございます、今日も青天ならぬ赤天日和でございます」


 クーノの大声の挨拶で目を覚ます。


「身体も休めたことだし、いよいよ向かうとしよう!」


 こうして研究所を後にし森へと向かった。


 ■


 ここはヒーゲンの森、ヒズアグの近くにあり、俺たちがネベデスから逃げた場所。


「クーノ、警戒は怠るなよ、奴らは群れると厄介だからな」


 ガラムが先頭に立ち、その後ろに俺とイグリアとクーノがついていく形だ。


「また出て来てもあの閃光を使えばいいんじゃないか?」

「閃光玉の事か、使えれば良いんだがあれは試作品だったから数に限りがある......それに使うと探知杖が馬鹿になるからな、迂闊には使えん」

「それは残念だな」

「――それに素材もありません、あれはヒズアグの蒼晶石をくすねて作ったものでしたからね」


 クーノが溜息混じりに言った......盗んだって事かよ。


「い、いやいや、仕方ないだろう!?蒼晶石には様々な可能性があった、私も背に腹は代えられなかったのだからね」

「しかし、度胸がすごいな」

「だろう、それに私の勇気のおかげで結果的に君たちは助かったのだ、褒められる事はあれ、責められる謂れはない」


 ガラムは自慢げに語った、それはそうだが。


「――む」


 探知杖が淡い青に光る。


「近くに魔力反応だ」


 探知杖を頼りにそのまま進んでいく、黄色、赤に色は変化していき、そして――


「――ほう」


 そこで見つけたのは、色の薄まっている魔法陣とネベデスの群れ、そして蒼晶石と魔族と人間が数人。


「随分と大変そうだ」

「カザトランナ以外でも活動していたということか」

「そういうことなのだろう」


 どうやらネベデスの群れの対処に苦慮している様だ。


「ふむ、よし、観察に徹しよう、ここでおとなしくしていればネベデスは気が付かない」

「ですね、静かに待ちましょう」

「誰もいなくなったところで転移魔法陣を使わせてもらうとしよう......どこに転移するかが問題だが、なに些細なことさ」

「問題は戦闘行為による、転移魔法陣の不具合ですが」

「ふむ、彼らの実力は大した事は無さそうだし、問題ないだろう」


 ガラムとクーノはここで待つべきと考えているようだ。


「......」


 怯える人間と魔族、彼らにとってネベデスは脅威なのだ。


「......ハルフミ」


 イグリアが話しかけて来る。


「......」


 確かにガラムとクーノの言う通りで、ここで待って転移魔法陣を使う方が安全だし確実だろう。

 だが――ネベデスに囲われて怖がっている彼らを俺は見捨てる事は出来ない。


「――イグリア」


 俺は意を決してイグリアの目を見て話しかける。


「......彼らを助けたいって?」

「あいつらを助けたい――ってなんだ、わかってたのか」

「ふふ、まぁなんとなくわね」


 イグリアは静かに笑った。


 よし、そうと決まれば。


「ガラムにクーノ」


 後ろで休んでいたガラムとクーノに話しかける。


「何だね、改まって」

「襲われてる人達を助けに行きたい」

「――正気かい?」

「俺は正気のつもりだ」

「転移魔法陣は繊細だ、大きな戦闘で転移できなくなる危険性だってあるんだぞ?」

「――だとしても、だ」


 ガラムは困惑の表情を隠せない、クーノも――


「ハルフミ様、失礼を承知で言いますが、彼らは善人ではありません、盗みは勿論の事、殺しをやってきた者もいるでしよう――命を懸けて助ける相手ではありません」


 クーノはキッパリとそう宣言した。


「まぁそうでしょうね、カザトランナでも私達を殺そうとしてきた奴らはいたし」


 イグリアも割って入った。


「でしたら――」

「でも――皆ではない」


 イグリアのその言葉に俺は続いた。


「きっと色々とあったんだ、そしてあの場にいてしまった――俺たちを殺すとする奴らもいれば、殺しを忌避する魔族、俺たちが転移しそうになったときに危険だと注意してくれた奴、レーゼックみたいに反省している魔族もいた」

「君の経験を否定はせんがね、今いる彼らがその時の者達とまるっきり同じ精神性とは限らんよ」

「確かにな――その時はその時だ」

「――......」


 ガラムは真剣に俺の顔を見て溜息を零した。


「全く......相当に甘い」

「だからガラムにクーノ、戦いたくないなら戦わなくていい」


 転移出来るかもしれないのに、俺がその可能性を潰すかもしれない、なのにわざわざガラムたちに危険を負わせる訳にはいかない。


「ふ、冗談を――」

「ええ......そうですね」


 ガラムはポケットから白い玉を取り出す、その玉は片手でようやく握りしめる事が出来る大きさだった。


「閃光玉を使わせてもらう」

「――それは、どういう」

「そのままの意味だよハルフミ、私達も戦おう、転移できなくなるかもしれない?ああ、そうかもしれない――だったら他の場所を探すだけさ」

「ガラム、クーノ......ありがとう」

「なに、気にするな、ただの気まぐれさ――」


 そういってガラムは転移魔法陣目掛けて投げた。


「さぁ――今の内に目と耳を塞ぐんだぞ!」


 辺りは白い閃光と高音に包まれた――

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