第31話 怪しい怪しい研究者と助手
閃光で目と耳があやふやな中、イグリアを頼りに進んでいった、視界が回復してくると、濃い緑の髪をした、鋭い目つきの男、そしてとなりには長い耳を垂らした、ピンク髪の少女が立っていた、ネベデスの気配はもう遠くに消えていた。
「――ははは、命拾いしたな!」
男は笑いながら俺たちを見る。
「......初めまして、この笑ってるうるさい男がガラム、私はクーノです、色々と不本意ですが一応この人の従魔兼助手をやっています」
従魔......ということはこのガラムは人間か。
「とりあえず、ついてこい」
「は、はぁ」
間髪入れずについて来い宣言、俺も思わず頷いてしまった。
「待ちなさい」
イグリアが会話に入る。
「話を勝手に進めすぎ、ハルフミも相手のペースに持っていかれてる」
イグリアが俺に指を指して注意する。
「命の恩人が警戒されたものだ、なぁクーノ?」
「警戒は自然です、今の私達は怪しいので」
「......まったく困った従魔を持ったものだよ」
ガラムはやれやれと首を振る。
「私は君達の目的の検討はついている、人間界への帰還......違うか?」
ドンピシャに当てられたが、そこでクーノは溜息をつ吐きながら語る。
「大体の人間は魔界に好き好んでいませんからね、まぁ当たって当然かと」
こいつらは人間界の戻り方を知っている?
「我々は魔界門を介さずに人間界に行く方法について研究している」
「魔界門を介さず......」
「そうだ、金貨500枚なんぞ律儀に稼ぎたくないのでな、その研究協力をして欲しい」
そこまで聞いて、俺はその提案を呑むことにした。ガラムはクーノを連れて歩き出し、俺たちはその後ろをついていく。
「......怪しいけどね」
イグリアは警戒を緩めない。
「一応は命の恩人だし......500金貨稼ぐなんて何時までかかるかわからない」
ガラムを無条件に信用するつもりはない。でも、ようやく光明が見えた気がした。
■
「着いたぞ、我が研究所!」
森の奥深くでたどり着いたのは、寂れた小屋だった。
「さぁさぁ、遠慮せず入れ」
「ハルフミ様、イグリア様、どうぞ」
中は......まぁ思ったよりは広かったが乱雑に書類やらなにやらが落ちていて、辛うじて生活スペースがある様子だった。
「ふぅ......クーノ、珈琲を」
「はいはい......ハルフミ様、イグリア様も珈琲で?」
「じゃあそれで......」
「私も構わないわ」
クーノが部屋から出る。
「......で、色々と聞きたい事がある訳だけど」
「わかってる、わかっているとも、ではまずは私の事を話そう」
ガラムはザフレスト王国の西にあるバッスール帝国の魔導士であり、魔界への行き方を研究していたという。
だが凡そ3カ月ほど前、事故に巻き込まれ魔界に来てしまった!そんな時、偶然クーノと出会う、彼女は村を出て一人で旅をしていた魔族であり、助手を求めていたガラムは契約を迫り無事契約。
「そんなこんなで、今も魔界暮らしを続けているわけだ。……魔界門をくぐるのに金貨500枚なんて、まったく、ぼったくりにも程がある。誰が払うかって話だよ」
「商売というと、やっぱり誰かが管理してるのか」
「そうだ、高位魔族と言われる魔族が管理している......我々風に言えば領主の様なものだ」
クーノが、ほのかに香ばしい香りを漂わせるカップを机の前に置いた。
「......」
イグリアはべたついた机に触れてしまう度に露骨に眉をひそめた、そして何も言わずに俺の服で手を拭く、やめなさい。
「まぁ我々の事はこの辺にして......君たちは何故ここに?」
俺たちは何故魔界に来る羽目になったのかを説明した。
「――転移術式、魔法陣......興味深い」
ガラムは真剣な顔をしている。
「私も一度魔法陣での帰還を検討したこともあった、まぁ極めて難しいとすぐに中止したがね」
「やっぱり難しいのか」
「ああそうだ、仮に天才な私が颯爽と転移術式を完成させたとしよう、仮に転移術式が完成したとしても、A地点とB地点の両方の魔法陣がなければいけない......魔界にいる私は人間界で魔法陣を描けない訳で、つまりは元々不可能な計画だったわけだ――」
ガラムは溜息を零しながら珈琲を飲む。
「......クーノ、珈琲でわかりづらいとはいえ虫は取り除いてから出しなさい、私の胃に入り込んでしまったよ」
「――」
イグリアがカップの珈琲を口に含んだまま固まる。
「出すときには取り除きました、後から入り込んだのでしょう」
「なら良いがね、客人に虫入り珈琲を出した知れたら私の沽券にかかわる」
もう手遅れでは?特にイグリアはカップを置いたまま微動だにしていない。
「――と、話がそれたな、その君たちが巻き込まれた転移術式......転移魔法陣と呼称しよう、恐らく私はそれを見つけられる」
「何処にあるのかわからないのにか?」
「転移には馬鹿みたいな魔力を使う事は想像できる、その所為で使えば魔力に敏感な魔物も集まる危険性もある訳だ、例えばネベデスとか」
「ネベデス......」
ガラムは珈琲を飲む。
「ガラム様は定期的に出る巨大な魔力の発生場所を探っていました」
「怪しかったからね、知的好奇心という奴だ、今回も膨大な魔力を感知して、探って見れば君たちが襲われていた」
そういう経緯だったのか。
「どうにもその転移魔法陣は不安定なのだろう、時折膨大な魔力が溢れその度にネベデスが群がる、を繰り返していると推察できる」
「つまり、ネベデスが群がる場所には転移魔法陣がある可能性が高いと?」
「――その通り」
ガラムはニヤリと自慢げに笑った。
「では――本題に入ろう」
ガラムは椅子を軋ませながら立ち上がり、部屋の奥にあるごちゃごちゃと積み上げられた棚から何かを引っ張り出してきた。見れば、薄く黒い水晶玉が先にはめ込まれた黒鉄の棒のようなもの、それを堂々と掲げた。
「これぞ我が新作の探知杖――」
......誰も反応しない、クーノもだ。
「......すごいな、それはどういうものなんだ?」
「――ありがとう、ハルフミ......」
ガラムから握手を求められ渋々と握手し返す。
「......コホン、高濃度の魔力を追跡するための道具だ。粗削りだが、ネベデスの群れの元になった転移魔法陣レベルの魔力反応なら、まだ痕跡が残っているはず」
探知杖は近くにある魔力に反応し、近づけば近づくほどに水晶玉の色が青、黄、赤と変わっていくのだという。
「それで転移魔法陣を探るという訳か!」
「その通り。だが――」
ガラムは片手で探知杖を握りしめたままもう一つの手で杖をコツコツ、と叩く。
「この探知杖、対象へのある程度の接近が必要だ。つまり、ネベデスや他の魔物の近くを通ることになるかもしれん、それに――」
イグリアに魔力を出すよう合図したガラム、イグリアは渋々ながら魔力を出すと探知杖は赤色の光を発光した。
「魔力に敏感で上書きされる事がある、近くで戦闘なんてしたら魔力反応がわからなくなる可能性がある......それと地味に重い」
リスクがあると、だが500金貨も律儀に溜めるなんて時間がかかりすぎる、サーシャや皆も心配するだろう。
「私たちと協力してこの魔界から逃げ出そうではないか――」
俺はこの怪しい研究者ガラムと助手のクーノと協力する事にした。
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